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ゴブリンの巣が燃えている


 痛み。

 ずりずり……と体が引きずられている。何かが俺の両足を掴んでいる。

 ごん、がん! と後頭部に何か硬いモノが当たる。え、は、待って……あ、痛い痛い痛い……。


「いったい……、ちょ、……おい!」


 目を開けると、眩しい陽光で視界がチカチカする。続いて頭痛……。これは二日酔いかよ。薬飲まんと……ってそうだここは異世界。薬局とか付近に無いよな〜。せめてコンビニ──あるわけねぇか。いや、もしかしたら薬屋はあるんじゃないか? けどクッソ苦そうな薬草差し出されたら刺殺しそうだよ。

 

 で、痛いって言ってるだろ……。

 誰が俺を運んでいるんだ。ゴブリンか? 俺が眠ってしまったのでどこか別の場所に移動──まさか、俺を捉えようと? いや、それならあんな楽しい宴会を開くはずが……。


「あ、目が覚めました?」

「え?」

「一応確認したところ、どこにも外傷は見受けられませんでしたが、一旦離れるべきだと考えて少々手荒く運んでしまい、申し訳ございません」

「え、何、どうして俺を運んでるの?」


 両足を掴む手を離してくれた。俺は後頭部に張り付いた砂を叩きながら上半身だけを持ち上げる。

 俺の前に二人の人間が立っていた。

 一人は金髪で長身の男性で、もう一人は黒髪の子どもみたいな少年だ。どちらも若いな。雰囲気的には俺よりも少し年下って感じか。金髪は巨大な盾を背負うように持ち、その厳つい体と相俟って迫力がヤバイ。反対に黒髪は線の細く小柄でガリガリだが、さっきから俺にガンを飛ばしているのがウザい。


「お前ら……イテテ、なんで俺を引きずってるんだよ」

「担ごうと思いましたが、肩に担ごうには盾が邪魔で無理でした。申し訳ございません」

「別に担がなくてもいいけどさ、あれ……あいつらは?」

「……誰か一緒だったのか?」声色から黒髪の少年は男ではなく、よくよく観察するとやや膨らんだ胸に丸みのあるケツ……少女──が、訊いてきた。一応俺年上なんだから普通敬語だろ、ダメな親に育てられたな。

「一緒……あぁ、皆と……」「え、そんなに大勢捕まっていたのですか?」

「は? 捕まる?」


 ──こいつらと話が噛み合わない。

 別に俺は捕まってなんかいないのだが……。俺なんかやったか?


 その時、焦げた臭いが鼻についた。草木が燃えた時の匂いと違い、これは肉が灼ける匂いだ。ゴブリン達と一緒に食べた肉とはまた違う、なんか……吐き気を催す臭さだ。


「うぇ、ここまで匂いが……」

「根絶やしにするには燃やすのが楽だから」「そうだけど……」


 パチパチッ、と燃える際に聞こえる音が今更になって背後から聞こえた。

 嫌な予感がする。

 けど俺は勇気を振り絞って──振り返る。


 目の前に映るのは、ゴブリンの集落を訪れた時に目に入った大木だった。それが轟々と燃えていた。炎が葉の代わりに生えているかのように。

 目の前が真っ赤な炎で染まる。その恐ろしいまでの圧力に焦りながらも、俺はそれから目を離せず、目を凝らして眺めていた。


 ドクンッ


 と胸が震えた。胸騒ぎというか、全身に加速する血液が注入されたみたいに、ドクンドクンって震えが止まらない。体が”く”の字に曲がる。腹が、全身が喚く感覚──。あぁ、これは、この感情の渦は……。


「大丈夫、ですか?」金髪が心配そうに聴いてくるころせころせころせころせ!!!!!


「……おい」

「はい?」

「今、あそこで燃えているのは……」「ゴブリンの巣ですよ。あなたは、ゴブリンに捕まっていたんです。だけどもう大丈夫です。僕達が助け出しましたので」


 ぎゃぁぁぁぁぁああああああ!

 がぁぁぁああああああああああ!

 ひぃぃぃいひぃぃぃぃひぃいいいいいいいいいい!


 悲鳴が、

 ゴブリン達の悲鳴が聞こえてくる。

 スマホを取り出す。

 画面を覗くと、【勇者殺し】が青白く輝きを放つ。


☆★☆★


 俺は、息を吐き出しながら倒れ込むように回転する。

 振り向きざまに、右手に収束したエーテル刀で金髪の男に切りかかった──。

 が、


 キィイイインンッ!


 と鋭い金属音が響き渡り、俺の攻撃が受け止められていた。

 金髪の男は寸前で盾を構えると、俺の斬撃を容易く防いでいたのだ。


 ──強靭な防御力。

 ──ただの鉄じゃねぇな。

 ──エーテルが張り巡らされている。

 ──並の攻撃で切り裂くのは不可能。


「うっ、わゎゎわ!? な、なにするんですか?」


 金髪の男は反射で動いたのか、俺の攻撃と自分が受け止めたことに驚いているようだった。余裕がある。強い。ぞわっと体が震える。どうするどうするどうする〜って感覚が加速し始める。


 ドキュッ!


 か細い破裂音が響いた。

 音の方向を見やると、先程の黒髪少女が拳銃を構えて俺を睨んでいた。

 銃口から赤い煙が揺れている。

 ……な、ちょっ


 と

 待てって。

 嘘だろ。

 このガキ、

 俺を

 人を

 撃ちやがった。

 人間なのに。


 痛みが来るのか?

 いや、大丈夫だ。まず、冷静に。一旦倒れるフリをする。

 俺は打たれた腹を抑えながら地面に崩れ落ちた。


「撃ったの?」

「じゃなきゃこっちがやられていた。初めから怪しいと思ってたんだよ。ゴブリン共に捕まっているようには見えなかった」「操られているのかな?」「付近のエーテルに乱れは感じなかったから違うはず」「……引きずられていたのが痛くて怒った?」「バカ。それよりさっさと皆の下に向かうよ。まだコイツの仲間がいるかも──」


 だまし討ちみたいであまり好みじゃないけど、俺は倒れた際に腕を粒子化させ、密かに地面に漂わせていた。俺を撃ちやがった胸糞悪い黒髪の真下に向かわせ、一瞬だけ手を再現し、そこからエーテル刀を突き出す、という戦法だ。


 ──しかし、「ちッ!」


 黒髪少女は舌打ちと共に空中に飛び上がる。足元に溜めたエーテルの反発を利用した動き。悲しいことに、俺のエーテル刀はその動きに沿うように刃を伸ばしたが、届かない……。

 うわ、外れた。

 コイツ、エーテルの流れを見抜いていたのか。

 けど、まぁ想定通りなんだよね。避けたその先に、「ぐっ! ぁぁああ!?」なんとエーテル刀が待ち受けているんだよね。


「サキッ!」


 金髪の男は大声を上げる。サキ、と呼ばれた黒髪少女の胸からエーテル刀が一本、二本、三本! と突き出て、そのまま体を四散に切り刻んだ。金髪が手を伸ばした先に広がるバラバラ惨劇、我ながら恐ろしいぜ全く。因みに撃たれた際に体を粒子化させているのでダメージはゼロ。攻防一体のスキルである。


 金髪の男はわなわなと震えながら盾を構え、そして腰の剣を抜いた。これも盾に負けず劣らずの重々しさがある。激おこなのか、周りのエーテルが小刻みに振動してる。でもあんな少年っぽい少女と共に居たってことは、そういう関係だったのか? でも……え、結構年離れてるだろ。ロリコン? えぇ異世界だからって許されるわけじゃねぇだろ。ロリコンは犯罪でしょう。二次元だけにしとけ。


「待て待て、俺は撃たれたからやり返しただけだ。これ以上無いってくらいの正当防衛。そんな怒るなって。まだまだ可愛い子はこの世にたくさんいるっての。新たな出会いを……な?」


 やり過ごそうにも、金髪は何も言わず、じりじりと距離を詰めてくる。剣と盾、どちらもエーテルが染み込まれているのが無知の俺でもわかる。試しに斬りかかるも、簡単にいなされてしまった。体を分散させて先程のように死角から攻撃するのもコイツの集中力では看破される。


「わかった、降参! 降参しまーす! 俺が悪かったでやんすよ!」


 バンザイしながら手をひらひらさせるも微塵も隙を見せねぇ……。やれやれ少しでも気を抜いた瞬間にぶち殺すつもりだったのに。


 さて結構絶体絶命だった。よく見りゃ兜はしてないが、硬そうな西洋っぽい鎧を着込み、これは部位の隙間を狙わない限りエーテル刀では弾かれそうだ。さて、首を飛ばすしかない。が、盾と剣を躱して接近は危険だな。どうにか隙ができないかな〜。


 しかし、俺とコイツ、姿、そして種族は同じ人間の姿なのに俺を完全に敵と見做しているのホント悲しい。話せばわかると思うんだけどな。さっき殺したのも運が悪かっただけ。気にするなって。


 金髪の男から緊張感が漏れてくるのがわかる。

 凄まじい威圧感だ。

 ただデカイ剣と盾を構えているだけなのに、歴戦の勇者って感じでめっちゃ怖い。

 怖い。

 怖いけど、その感情を押しつぶすように負けるな殺せやれぶっ殺せ!! と喚く想いが俺の中にある。──俺だって、負けられねぇ。

 何よりも早くコイツをどうにかして……ゴブリン達を──。


 合図なんてあるわけない。

 けど、俺はコイツが斬りかかってくるのをひたすら待った。

 コイツの体の筋肉が引きつった瞬間──を狙う。密かに足元に仕掛けていたエーテル刀を生み出す。踏み込もうとした足の先、ほんの僅かだけど体重移動の邪魔をする。

 刹那、金髪の体が揺らぐ。

 動揺も感じない、

 意識もできない、

 感覚の狭間の隙が発生した。

 今ッ

 喰らえ、

 死ね、

 くたばれ!

 右手に押し固めたエーテルの反発力を利用し、エーテル刀が一気に放たれた。

 金髪の男が迫る刃に気づいた時には、首を裂き、おびただしい量の血液がパックリ開いた傷から噴出していた。いやだから血は嫌いだっての……。


 金髪の男は俺を睨みながら倒れ、死んだ。

 俺は数秒眺めた後、即座に燃えるゴブリンの集落に向かって駆けた。



//続く

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