これは『悲劇』の物語
「カイン達が……全員か?」
「あぁ、マリンもエリ、ジーンも無残な姿に……」
「誰がやったんだ。魔物に襲われたのか? いや、彼らに太刀打ちできる者はこの辺りには存在しないはずだ……」
「殺された皆は全員鋭利な刃物で斬りつけられた傷を負っていた」
「つまり人、山賊か?」
「わからんよ。しかし……カイン」
旅商人さんは苦悶の表情を浮かべながらぶるぶると腕を震わせる。彼の周りに集まってきた客達もカインを殺した相手に対して心無い誹謗中傷を浴びせていた。
……俺か?
勇者達を殺した人物は……もしや、俺?
全員の名前は不明だけど、カインとマリンは聞いた。それ以外の名前は初耳だけど、人数がピッタリだ。いやでも……人違いという可能性を捨てるにはまだ早いかもしれない……。
「カイン達には何度も俺は助けられたんだよ。色々冒険者を見てきたが、彼らほど心優しい冒険者はいない……」
「あぁ、こんな辺鄙な村も平和で居られるも、彼らがギルドに加入して地道にクエストをこなしてくれたおかげだ」
「ようやく中央都市でも認められて、これからだ……って時に」
「まずはギルドに報告しましょう。カイン達を倒すほどの魔物や山賊が付近に居るかもしれないわ」
「あぁ。そしてカインの敵討ちを……」
やれやれ、不穏な空気が流れているな。
というかものすごーく居づらいんだけど。いや、彼らがね、実はここらへんで悪名を轟かす不逞奴らで、そんな胸糞勇者を撃退した俺マジで感謝されるのでは? と一縷の望みをかけたけど全くの逆というか、話を聞くに大変素晴らしい方々だったようでございますね。泣いてる人も居るぞ。
俺はコップに残っている水を飲み干して、そっと立ち上がる。カウンターから出てきて、お客さん達の会話に耳を澄ませている少女に声をかけた。
「そろそろ御暇するからお会計お願いね。えっと、いくら?」
「……ウソ」
「え?」
「そんな…………みんなが……殺されて……うそ、……ジーンさん」
少女は顔面蒼白になって震えていた。
人の顔ってこんな真っ白に変色するんだな。唇も真っ白で、そばかすだけが元の色を残している。口元を両手で覆い、目には涙を浮かべていた。
このリアクションから、なるほど俺が殺した(かもしれない)奴らの中に、好きな人でも居たのかな。可哀想に。でも、死んだ人間は生き返らないんだよ。辛いと思うかもしれないけど、前を向いて彼の分も生きていこう。──って流石に口にできる雰囲気ではない。そのくらいの空気は読める。しかし、俺もいつまでも罵倒される空間に居るのは辛いんだ。さ、お会計……とジャケットを捲り、鞄から財布を取り出した。
すると、少女が俺の動きに反応して俺を見やる。焦点の合っていない瞳だったが、俺の財布を目にした途端、ぎゅっと瞳を大きくした。続いて腰に巻きつけてある鞄に視線が映る──。
「それ……」
「あ、これってこの前こっちの世界に訪れた街で購入したんだよね。この財布もトレンドらしくてさ、鞄と合わせて一緒に購入したんだけど。あれ、誰か知り合いで同じの持ってる人が居るの? 偶然だけど、そこそこ同じの揃えてる人って居ると思うけど……」
少女の異様な雰囲気に俺は慌てて嘘をつく。我ながら実に完璧な嘘だ。
「ジーンさんは、その……鞄……形見……だって、お父さんの」
「おっと……」後出しの情報辞めて……。
「それどこで手に入れたんですか!?」
「買ったんじゃないかも……。た、たまたま拾ったのかな〜。ごめんね、記憶がハッキリしなくて、さ……あっ」
少女の剣幕に気圧されて、ふらつきながら後ずさりすると、鞄からポロリと何かが落ちた。コンコン、と床で跳ねる。小さな音なのに、何故か酒場に居る奴らが全員俺達を注目したのか、さっと静かになった。
「……ジーンさんに渡したお守り」
「そうなの、これ俺のだけど……いや偶然同じ雰囲気の宝石を──」
「私の……母の形見なんです。この希少石には、身を守る力が込められているって……。私が、ジーンさんに手渡したんです。それをあなたに渡すはずがありません!」
「いやぁその可能性はゼロとは言い切れないでしょう」
「だって……それは──」
あぁ、婚約的なアイテム? あのシーフに惚れて、この宝石を渡す意味を伝えながら手渡したのかもしれないな。であれば、確かに俺に譲るってのは筋が通らない。いや、もしかしてジーンさんは同性愛者で、俺に惚れて渡したって可能性も無きにしてあらず、は苦しいか……。
「あなたが、カインさんを……ジーンさんを……殺したんですか?」
少女はなかなかの大声で俺に聞いてきやがった。漫画だったら見開きで俺に叫ぶシーンで描かれるだろう。アニメだったらぐるんとカメラが俺たち二人をぐるっと一周するカメラワーク。実写だったら顔だけは良い女優さんの棒読み……。
☆★☆★
「違います」
「だったらどうしてジーンさんの鞄を持っているんですか?」
「さっきあの旅商人さんが仰ってたでしょう。殺されていた、と。まぁ……その私、恥ずかしげながらこの世界のことについては全くの無知なんです。で、もちろん金を持っているはずもなく、そんな折に彼らの死体を発見した次第でして、悪いな……と思いつつも頂きました。その点に関しては驚かせてしまい大変申し訳ございません」
見事な最敬礼で謝罪した。
これでまぁ許してくれるだろう、と高を括って顔を上げると俺を睨みつける少女と周りの方々……。
「さっきから言ってることがまるっきり違いますよ」
「それはまぁ、最初から死人から剥ぎ取ったなんて怖がられますからね。ウソをつきました。あらぬ誤解を招いてしまい、重ね重ねになりますが、誠に申し訳ございません」
俺は地面に落ちた宝石を掴むと、カウンターに置いた。が、まだ少女は納得していない、という顔だ。
「それにさ、この世界に訪れたばかりの俺が、冒険者の方々を惨殺するなんてムリでしょう。レベル1の雑魚ですよ」
「ドライバの方は強力なスキルを持っていると聞く。油断ならん」野次馬が声を出してきた。
「そうだそうだ、さっきからベラベラ喋っているが、それが真実だと証明できるのか」
周りの方々が声を荒げながら迫ってくる。真実を証明って、あの時誰も見ていないんだろうから、証明しようがないでしょ。いい加減めんどうになってきたので、こいつらも……一掃しますか。
そう思ってスマホを見やる。
が、そこで気づく。……スキル【勇者殺し】の文字が光っていないことに。先程勇者達に襲われた時と異なり、俺の頭の中に情報が流れ込んでこない……。つまり、今現在【勇者殺し】は発動しておらず、戦闘力はレベル1程度なのか。
「ギルドに連れて行こう。嘘壊しが居るから、彼らだったらこいつが虚言を並べてるのか、それとも事実なのか判断できる」
「おい、にーちゃん、そこを動くなよ」
ジリジリと村人たちが迫ってくる。……依然スキルは発動しない。エーテルは操作できるから攻撃は可能だ。しかし、一人、二人はやれるだろうけど、数人で襲われたらひとたまりもない。
……仕方ない。俺は溜息をつくと、テーブルの上に置いた宝石を床に落とした。カツン、と音が鳴る。その音に周りの注意が逸れた瞬間、俺は少女の背後に周って腕を掴むと、首筋にエーテル刀を突きつけた。
「え……きゃぁぁあ!?」
「美味しいご飯を頂いて感謝はしてるんだ。けど、こんなことして悪いね」
「てめぇ正体現しやがったな……」「その子を離しなさい!」
「あ、近づいたらどうなるかわかりませんよ」
俺は忠告し、そっとエーテル刀を少女の首に触れさせる。そこから赤い血がたらっと漏れた。キッチンの奥で少女の父親が血走った目で俺を睨んでいる。今にも飛びついてきそうだが、少女を人質に取っているので動けない。
「皆さん、恐れ入りますが大人しくしてくださいね……」
少女を人質に取ったことと、このエーテル刀のインパクトに驚いているのか、攻撃を仕掛けてくる者は居ない。
俺はじりじりと少女を引きずりながら、店の出口に近づいた。
「ジーンさんを殺したんですか?」震えながらも少女は声を出す。
「仕方なかったんだ。殺さなければ、俺が殺されていたから」
「う……うぅぅぅ……」
「ちょ、泣かないでよ。いや、あのシーフっぽい人でしょ? 最後は苦しまずに逝かせてあげたから大丈夫って……」
あーあ、泣き出しちゃった。
人の泣き声って生理的に嫌いだからこのまま首を切り落としたいが、人質としての価値が消えるので我慢だ。それにほら、あんな美味しいご飯を召し上がってさ、無慈悲にも殺すのは躊躇われるよ。俺だってそんな極悪非道じゃないんだ。あくまでスキルのせい、です。
「……それじゃあ……ご馳走様でした。悪いけどつけといてね……今度来た時に払います。ふふっ」
もう二度と来ねぇだろ! と自分にツッコミいれて笑ってしまった。少女は恐怖でぞわっと震えている。……小便とか漏らさないんだ。やっぱり、恐怖で漏らすってファンタジーだけの話なのかな。
俺は少女をどん! と突き出すと、そのまま外に向かって走り出す。数人追ってくる足音が聞こえたので適当にエーテル刀を作り、無造作に数本投げた。もちろん当たらないが、追跡者が驚いて立ち止まった。その隙に全速力で疾走する。
──はぁ、異世界に訪れて、初めて仲良くなれそうな人と出会えたのに最悪の別れ方をしてしまった。あの美味しいスープも二度と食べられないだろう……。
悲劇だよ。
もしこれが小説家になろうとかの投稿されたら、ジャンルは悲劇にしとこう。
//続




