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異世界人との交流


 靴は泥の中に埋まっていた。

 しかし、服や靴下などは一緒に粒子化することができた。自分の体と認識した部分を粒子化することができるのだろうか。


 とにかく、俺は勇者達を殺すことができた。彼らが勇者、という確証は持てなかったが、俺のスキル【勇者殺し】が発動していたようなので間違い無いのだろう。


------------------

【勇者殺し】


勇者系のキャラクターに対して戦闘力アップ

属性:無


自動発動

------------------


 無造作に転がる勇者達の死体を眺めながら、ふぅ……と溜息をつく。突き出た岩に腰をかけ、現状をとにかく推察する。


 俺は初めての闘いで──例えるならレベル1のキャラのクセに、彼らみたいな冒険成れした奴らを一方的に叩き潰せた。なるほどこれが世に聞く俺TUEE(略)EE!、か。実に気分がいい。もちろんスキル【エーテル粒子操作術】が予想以上に応用でき、強かったこともあるが、それ以上に戦闘時に感じたあの感覚……。


 勇者を殺せという渇望──。

 見知らぬこの世界での様々な情報が頭の中に流れ込んでくる。相手の動きからスキルの種類、系統などが一瞬で思い浮かぶ。そして追い込まれても、どうすればこの状況を打破できるのか──と即座に思いつき、実行に移せるスピードと決断力。仕事中はいっつもダラダラ時間を潰すことに尽力していた頃の自分とは大違いだ。


 ただ、その代償が『勇者を殺すこと』か。定期的に。ってかその感覚がなぁ、なんかふわっとした説明だけだったので困るよ。いつスキルのリミットを超えるかわからないからある時ころっと死ぬぞ。


 あとあと、うーん、俺は人殺しになってまった……。ママ〜と叫びたい気分。いやでもここって……その異世界だから、異世界人なわけで、厳密には同じ人間ではない、はず。

じゃあ、いっか。それに、法律とか……あるのか? 無いならまぁ大丈夫なのかな。まぁそれで捕まりそうになったら、俺のスキルで返り討ちにして逃げればいいのか──。


「はぁ……」


 まだドキドキ脈打つ心臓を諌めるように溜息をつく。自分で思っている以上にキているのかもしれないな。まぁ慣れれば平気だろ。


 その時、ぐらぐら! と強く地面が揺れた。先程泥化された地面は元の地面に戻っているので、これは……地震か? いや、違う、空間が周りの木々までもがざわざわと大きく揺れ動いている。


 なんだよこれ。

 焦って岩からずり落ちて、地面に尻餅をついた。いってぇ……。

 舌打ちしながら顔を上げると空が見える。ちょうど木々の葉で覆われていない穴がぽっかりと頭上に空いていた。


 青空の中で、何かが飛んでいる。

 ……デカい。

 ──あれは、飛行機?

 違う。

 うわぁ、めっちゃクネッてる。変な笑いが出た。その巨大な物体は空を我がもの顔で泳ぎ回り、圧倒的なスケール感が現実味が無くて笑いが止まらない。


 龍だ。

 ドラゴンって感じじゃない。細長い東洋の龍に近い形状をしている。でもここから顔とか見えねぇな。全身を苔みたいな物体が覆い尽くしている。

 龍が、空を飛んでる。

 ファンタジーな異世界だ。

 呆けながら関心してると、俺は立ち上がっていた。


 ──あれ、落とせるのかな。


 右手にエーテルを収束させた。刀を作る。俺は思いっきり振りかぶると、その刀を空に向かって全力で投擲した。


☆★☆★


 鼻につく血の匂い。

 まだ10分も経過していないのに生臭い匂いが漂ってきがやる。くっさ……。

 さっきまであんなに元気よく動いていた勇者たちも、死体になると即座に腐り始めるってなんか人体の神秘だよね。


 その時、ぐぅぅぅ……と腹から情けない音が響いてきた。反射的に腕で抑えるも、更に音が鳴り響いた。

 そういや上司に殺されてから今まで飯食ってないんだった。どこかマックでも……と思ったが、そうだよここは異世界だろ。ファーストフード店なんて無いよな。居酒屋はありそうだな。しかし、場所がわからない。はぁ、スマホでは俺のステータスを確認できるだけで、他のアプリは消えてる。せめてGoo○leMapくらいは残しとけよ。


 とにかく腹が減った。能力に殺されるのも癪だが餓死はもっと困る。この森を抜けようと思ったところで金も無いことに気づく。最近はスマホの電子マネーばかりで、現金の入った財布は鞄の中なんだよ。目覚めた時に鞄は見当たらなかったし(あれ結構高くて良い鞄だったんだよ……)、ってかそうだ、この異世界なんだから元の世界の金が使えるはずがねぇわ。


 店の場所もわからないし、金も無い……。

 思わずへたり込む。と、足元で転がっているシーフの亡骸が目に入った。腰に鞄をつけている。俺は両手で拝んだ後、その鞄を失敬した。頭の中で某緑の謎解き勇者が宝箱を開ける際のSEを鳴らしながら開けると、なんとなんと中に財布と地図とその他アイテムが入っているではないか。お、奥に入っているエメラルドのような宝石は店で高値で売れそう。俺はありがとうございます、これ頂きますね、と頭を下げて鞄を腰に装着してその場を後にした。なるほど、ゲームで敵を倒した時にお金を貰えるのはこういうこと、か。


☆★☆★


 紙に描かれたはずの地図なのに、今自分がいる現在地が赤く点滅している。これも魔法なのか。魔術が組み込まれてアイテムというわけか。自分の移動スピードを確認しながら周囲を確認すると、10分ほど進んだ先に街があることがわかる。とりあえずこの街を目指し、飯屋を見つける。もう腹が空いて体がガクガクしていた。ハンガーノックって言うんだっけ。


 地図に従いながら進むとすぐに森を抜けると、荒いながらも舗装された道が現れた。あとは道なりに進んだ。


 視界に建造物が映る。俺は地図を鞄に押し込み、小走りで向かった。ようやく街に到着することができた。が一つ訂正すると、ここは街ではなく、村だった。安っぽい木材で組み上がった住宅が適当な感覚で建てられ、どこか湿ったような匂いが貧相だと証明していた。


 でも何か飯屋くらいはあるだろう。俺は小走りで確認しながら進むと、広間に出た。村の中心だろうか。その先にまるで商店街のように店が並んでいる。


 立ち並ぶ店の一つに、酒場を見つけた。……おぉ、本当に酒場ってあるんだな、となんか感動する。薄暗い店内にややテーブルとイスが無造作に並び、そこに村の住人やなんか武器を構えた人も居るぞ。まるで映画のセットのようだ、と関心した。


 さぁ中に入ろうとしたが、こういう店に一人で入るって結構勇気居るんだよな。一人ファミレスも人の少ないモーニングくらいしか行けないし、ヒトカラはクリアできるけど、まだ焼肉はソロはムリ。居酒屋の一人で入ったことはランチタイム以外ねぇな。そんな人間に酒場、それも異世界の酒場はなかなかハードルが高い……。


「あのぉ……」


 迷っていると、背後から声をかけられた。

 慌てて振り返り、右手を背後に回す。エーテルを集中させていた。反射的に。いつでも斬りかかれるように──。


 振り返った先に立っていたのは、少女だった。

 身長150センチほど、そばかすが目立つもなかなか顔の整った美少女だ。15歳前後だろうか。赤髪の三つ編みがゆらゆらと左右に揺れた。


「なんですか?」

「そこ……うちのお店なんです」

「あぁ、ごめんね、塞いじゃって」


 俺が笑顔を作ると、少女は愛想笑いをして会釈する。


「誰かお探しですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」


 ぐぅぅぅ……。

 まるで地鳴りのように俺の腹が鳴った。腹ペコなんです、と訴えかけるようで恥ずかしい。でもまぁ少女は今度は本当の笑顔を浮かべてくれたので救われた気分だ。


「お食事でしたらどうぞ。この村でご飯食べられる場所はウチくらいしかありませんよ」

「そう、助かるよ」


 俺は少女に案内されてカウンター席に座った。


「えぇと、メニューとかは」

「お客さんは、ドライバですか?」「……は? ドライバ、運転手?」「あ、いえいえ、この世界とは異なる世界から訪れた人のことを、ドライバ、と言うんです」


 少女はお絞りを俺に手渡しながらそう言った。


「あぁ、そうだけどよくわかったね」

「その服装、ドライバの方はよくしているので。それにドライバと聴いて聞き返す人はこの世界の人ではない、という証明にもなりますから」


 ドライバ──この世界とは異なる世界から訪れた人、つまり俺。なるほど、ドライバと聴いて?マークを浮かべる奴=この世界の実情を知らない人間、即ちドライバとなるってことか。


「社畜コーデ、か」そうか、社畜が辛すぎて人生断って訪れる、と……。

「しゃちく?」

「いや、その楔はもう壊したんだ。……とにかく、飯が食べたい。何かオススメある?」

「ドライバの方でしたら、こちらの焼き鳥のスープ定食がオススメです。以前当店にいらしたドライバの方は元の世界の料理に似ていると言っていたのでお口に合うと想います」

「じゃあそれをお願いします」


 注文すると、少女はキッチンの奥に居る父親に声をかけた。


 5分後。

 目の前に焼き鳥のスープ定食が置かれた。スープ、並盛りの白米、なんか野菜。

 ……米が、あるのか。

 ホカホカの白米を見て、ゴクンと喉が鳴る。でも箸は無い。フォークで白米を少し食べてみるが、白いご飯だ。普通に美味い。焼き鳥のスープは黄金色のスープに、焦げ目のついた肉がゴロゴロ浮かんでいる。味は……胡椒の効いたコンソメスープに近い。そして美味い! 腹が減ってることもあるけど、スープの染みた鶏肉の食感とご飯の組み合わせが最高だ。

途中でスープをご飯にかけ、一気に口に流し込むと……これは絶品。ご飯一粒一粒にスープが絡みつき、もぐもぐ咀嚼するたびに幸せになる。俺は夢中で食べ続け、ご飯は二杯おかわりした。


「はぁ……食った食った。美味しかったよ。あ、そうだ、一応ドライバーなんだけどさ、金は持ってるから安心してね」

「つけでも大丈夫ですよ」

「いやいやお父さん? めっちゃ睨んでるから」


 少女がキッチンの奥で目を光らせる父親を見やり、「お父さんは顔が怖いだけですよ」と砕けた感じで言う。俺は水を飲みながら、とにかく満腹になった。さて、この後どうしよう……と思った時だった。


 ガタガタガタ!


 店の入り口から足音が響いてくる。

 何事だ、とそちらを見やると一人の男性が立っていた。ローブを羽織り、巨大な荷物を背中に背負っている。見るからに旅人ですって雰囲気を醸してる。ただ顔は真っ青で、息を切らして店内を眺めていた。


「旅商人のルルカさん……。どうしたんだろ、あんなに慌てて」


 少女が首を傾げた途端、「こ……殺されていた!!」とその旅商人のルルカは叫んだ。


「カイン達が……何者かに……殺されていたんだ!!」



//続


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