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初めての勇者殺し

プロローグのおさらい


①.俺は社畜二年目。過酷な労働を強いる上司に歯向かい、ボコボコにしてしまう。

②.帰り道、上司に背後から刺されて俺は死んだ。

③.すると、異世界に転生させてあげると変な人に出会い、俺は異世界に転生することになった。

④.ただ、【勇者殺し】という名のスキルが発現したらしく、超人的な戦闘力を得る代わりに、常に勇者を殺さなければ自分が死んでしまう呪いのスキルだった。


 目が覚めると俺は森の中に倒れていた。じゃり、と砂を噛む感触が広がる。最悪、口の中に入ってるじゃねぇか。ぺっぺ、と唾を吐き捨てながら立ち上がる。


 ここは……異世界、なのか。


 生い茂る木々の姿形から元の俺の世界とは異なる気がした。熱帯林のジャングルとはまた異なる、禍々しい形をしている。ただ、突然お笑い芸人が現れて、上司に刺された部分から現在まで全部ドッキリでした~! 大成功! なんて登場するかもしれない。物分りの良い俺だが、突然異世界転生しますねよろしく! と伝えられて拝承! って簡単に信じたわけじゃない。油断大敵! と深呼吸をしながら、ポケットに手を差し込み、画面の割れたスマホを取り出した。アプリ類は全て消えている。俺のステータスだけが表示されていた。


------------------

名前:クズ


種族:人間

性別:男性

年齢:24

ジョブ:???


 筋力    B

 魔力    SS

 耐久    C

 速力    A


スキル:

 エーテル粒子操作術

 勇者殺し

------------------


 クズって、まぁ俺は屑系の人間と自覚はしてる。しかし【名前:クズ】は酷いだろ。

 はぁ、とため息をしつつ、スキル【勇者殺し】をタップする。

 画面が遷移し、スキルの詳細が表示された。


------------------

【勇者殺し】

勇者系のキャラクターに対して戦闘力アップ

属性:無


自動発動

------------------


 とだけ書かれていた。

 自動発動って常に発動しているってことなのか。なんかゲームの世界みたいだなぁ、と思いつつ、もう一つのスキルもタップした。


------------------

【エーテル粒子操作術】

周囲の物体からエーテルで構成された粒子を作成し、自由自在に操作することが可能。

属性:無

------------------


 ……意味わからん。

 まずエーテルってなんだよ。大気中に空気みたいに浮かんでるのか?


 まぁとりあえず使ってみるか。習うより慣れろ、だ。「【エーテル粒子操作術】」と唱えてみた。いやなんか口走った。言った瞬間発音が起動スイッチなの? と不安になる。

 

 すると、周囲から音が消えた。

 次の瞬間には、どばっ! と大量の何かが俺の中に流れ込んでくる。周りに飛び交う感覚の情報がうねりながら俺を包んでいる……。

 もしかして、これがこの感覚がエーテルなのか?

 試しに右手にエーテルを集中するよう思い浮かべると、まるでその思考に沿うように何かが掌に集まった。青白い何かがぐるぐると渦を巻き、ぱんっ! と冷気を残して消えた。


 全身を襲った悪寒のような感覚。

 それを操作するイメージ。

 掌に集まった何か……。

 流石に今の現象を現代科学で表現するのはムリ、か。やはり魔法なのか、と俺は胸をときめかせていた。始めてゲーム機を買ってもらった小学生みたいにワクワクが止まらん。


 しばらく【エーテル粒子操作術】を練習した。

 スキルを発動する度に周りのエーテルに全身の神経が行き届くような感覚を覚える。初めの頃は塊に押し止めるので精一杯だったエーテルも、今では細い刀形に纏めることができる。そしてその時知ったのだが、エーテルを収束すると反発し合うのか小刻みに振動し、この状態で木々に斬りつけると意図もたやすくぶった切ることができる。

 ずずん……と音を鳴らして真っ二つになる大木にこの魔法すげぇ、と年甲斐もなく感動した。

 

 他にも色々な形に変形させることができる。自分の半径1メートルくらいの間であれば触れていなくても操作可能。なんだこれ、便利過ぎるだろ……と思ったところで声が聴こえた。

 そっと木に身を寄せ、辺りを伺うと足音と共に誰かが近づいてくる。


「はぁ、また空振りですか……」

「仕方ないだろ~。偽の情報掴まされたんだから──」

「これで三回目よ。そろそろ資金の心配をした方がいいんじゃない?」

「ってことで皆さん今後は倹約のご協力をお願いします……何卒……」

「あんたが一番食うんだろ」「そうです、この前も……」「まぁまぁ食事くらいは許してやろうぜ」「あんたは彼女に会いたいだけでしょうが!」


 男性二人、女性二人の四人組が少し離れたところを歩いている。和気藹々とした雰囲気だ。

 男性の一人は長身で、黒髪に銀色の甲冑を着込んでいる。背中には巨大な剣を持っている。もう一人は青髪で、隣の男性と比べると革でできたような軽装をしていた。手にはボウガンを持ち、腰には鞄を巻きつけ、短剣が吊るされている。

 女性の片方は金色の長髪に、白いローブを着ている。残りは赤髪の女性は、女性にしては肩が張り、筋肉隆々なのがこの距離からでもわかる。

 全員俺とタメか、少し下くらいの年齢だった。


 戦士、シーフ、魔法使い(白魔法系)、武闘家、というパーティ構成か。

 うーん元の世界で見かけたらコスプレ集団! って感じなのに、見るからにくたびれた感じや、薄汚れた装備の色合い、手に馴染んだ武器の持ち方等などが妙なリアリティを俺に訴えかけてくる。


 ……本当に、俺は異世界に転生したのか。

 ……嫌いな上司に殺されて──。


 やれやれ、なんて情けない転生理由……、普通はトラックに轢かれるんじゃないの? と嘆いたところで、ぺきっ! と木の枝を踏んでしまう。どうやらその音が彼らに聞こえてしまったようで歩みが止まる。各々武器(戦士は剣、シーフはボウガン、魔法使いは杖、武闘家は両手を持ち上げる)を構え、周囲を警戒し始めた。


「……魔物?」

「しかしエーテルに乱れは感じられません」と魔法使いの女性が言う。

「その木の後ろだな」

「様子を見る? それとも……」


 さて、どうしよ。

 ここに隠れていると攻撃されてしまう気がする。だからと言って彼らの前に登場しても大丈夫なのだろうか。何故なら服装が全く異なるからだ。彼らは全員ザ・ファンタジーな服装をしているのだが、俺は社畜コーデことスーツだ。あきらかに世界観が異なる。同じ人間だ、話せばわかる! と言いたいところだが、コイツの服装おかしくない? 新手の魔物か? って怪しまれそうだ。


 その時、スマホの画面が一瞬輝いたことに気づく。画面を見やると、スキルの【勇者殺し】の文字がゆらゆらと青白く発光していた。すると、彼らを意識するたびに、俺の中でパワーが漲っていくのがわかる。


 殺そう。

 やろう。

 やれ!

 ぶっ殺せ!

 八つ裂きにしろ!

 ころせ!

 って感情が頭の中にガンガンと響き渡る。加えて、俺の中で勇者に襲いかかっていいものなのか、論理的に考えて……という迷いもいいじゃんいいじゃん! やっちゃいなよ! とわけのわからん勢いに流された。

 気がつけば、勇者を殺すことに迷いが消えている。やらなければ俺がやられる……という恐怖すら乗り越えて早くやろうやろうやろう! と何かが訴えかけてくる。


 もしや、今【勇者殺し】が発動しているのか。勇者と出会う、と。ってか彼らは勇者なのだろうか。そもそも勇者ってなんだよ。勇ましい者、って文字通り捉えていいのか。それとも由緒正しい血筋を引いた電撃や魔法を操り、派手な剣を持っていると勇者に該当するのか……。


 まぁいいや。

 とにかく【勇者殺し】が発動しているんだから、やることは一つ。

 やらないと、俺がやられてしまう──。

 俺は深呼吸を三回した後、勇気を振り絞って彼らの前に立った。

 おいおい足震えとるぞ、自嘲する。


「……誰?」

「知り合い?」「さっきの村の人、ですか?」

「はじめまして」と俺は不安がる勇気御一行に頭を下げた。「クズと申します」と元気に挨拶をする。挨拶は基本だ。これから彼らと闘うことになるかもだが不意打ちはフェアじゃない。


「突然で大変申し訳無いのですが、お命、頂戴いたします!」


 馬鹿みたいに宣言して、自分で恥ずかしくなる。でも他にこれといった相応しい言葉は思いつかないし、ネットで戦いを挑む際のマナー集なんてググっても出てこないだろうし、そもそもネット無いし。


 ってか勇者達は笑ってやがる。俺も、だ。



//続く


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