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ゴブリンを孕む


 ……結構な数のゴブリンがわらわらと出てきたぞ。

 いやいやお前ら勇者共に切り刻まれていたんだろ? もっと壊滅的な状況で、残り数匹だと思っていたのに、10、20……と増えてくる。


 ってかゴブリンたちを呼び出してしまったが、よくよく考えると俺も……襲われない? いや、一応楽しく宴したけどさ、やはり人間は敵だ許せない! って感じで。あ、ほらほら皆グルルル! って威嚇する犬みたいに顔を歪めながら近づいて──。


「ぎゃっぁぁああ!」


 背後から金切り声が響く。思わず耳を塞ぎながら振り返ると、先程俺が逃してやった親子ゴブリンが立っていた。迫りくるゴブリンたちに向かって何か喚き続けている。

 すると、彼らははっと表情を変えると、小走りで俺の下に近づいてくる。来るのか……。こいつらは魔物だ、つまり絶対に勇者ではない。きっとスキル【勇者殺し】は発動しない。エーテル粒子は操れるが、この数を相手に【勇者殺し】無しで立ち向かえるのか……と焦っていると、ゴブリンたちは俺の下に跪くと、両手を擦り合わせて何やら唸り始めた。


 え、え……えっと、なんだこの異様な儀式は。

 俺の隣で震えている女侍もポカンと口を開けている。


「感謝を……して……る」


 聞き覚えのあるガラガラ声だった。

 声の方向を見やると、人間の言語を操る老ゴブリンがそこに居た。


「お、あんた生きていたのか。ってか生き残り結構多いな」

「私らは……しぶとい……のだ……」

「まぁ生命力は高そうだな。けど感謝?」

「あぁ……私らを……たすけ……て……くれた」


 俺を中心に円を描くようにゴブリンたちは跪いて呪詛のような感謝を述べている。異様な光景だったけど、感謝されていると思うと気分は悪くない。ほら、社畜になるとデキて当たり前で感謝や褒められることないからさ、こんな低俗の魔物に感謝されるのも嬉しいんだよ。

 

 因果応報ってやつか、善行はきっちり返ってくるんだよな。もちろん悪行も……俺の足元で苦痛で顔を歪めるコイツみたいにさ。


「全くもってその通り、お前らよーく俺に感謝しろよ」

「貴様、ゴブリン共の味方だと? 狂っているのか!?」

「魔物だからってクエストの報酬目当てに殺すお前ら人間の方が魔物。あぁ恐ろしい恐ろしい」

「こいつらは……近くの村を襲い、家畜を奪おうとしたばかりか村人を次々に襲った魔物だぞ! それを討伐するために私たちが派遣されたと言うのに──貴様が……」


 血走った目で俺を睨む。肩、両足を裂傷して滅茶苦茶痛いはずなのにイキってるのすげぇ根性だな。確かにそう言われるとゴブリンたちも悪いような気もしてきたぞ。こいつら考える脳みそなさそうだから本能に従ってすぐ暴力に出る。いや、ここは弱肉強食の世界なんだ。弱いってことは罪。仕方ねぇな。


「一応訊くけど他に仲間居る?」

「さぁ……」

「あれあれ、自分の立場わかってる? ふふふ」

「貴様のようなクズに喋ることは何も無い」


 何故俺の名前を? と思ったけど、クズってそっちのクズか。自分で俺ってクズなんですよ! と言うのは実はそこまでクズって思っていなく、ただハードル上げてるわけで、他人からクズって言われるのはそう評価されているようで傷つく。俺は見ての通りナイーブでガラスハート。優しくして欲しい。


「そっか。まぁいいや。おーい、喋れるゴブリンさん、この人好きにしていいよ」


☆★☆★


 がずがずがずがずがずがずっ!

 ぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃッ!

 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!

 

 あらあら、ゴブリンって子どもみたいな体型してる癖に交尾はなかなか力強いだね……。ちょっと引くな。昔ネットでエロ動画探してる時に見つけてしまったヤバイ陵辱動画以上の光景に胸が痛む。


 すげぇ美人だったのに、なんか殴られたり緑色が混じった白濁とした液体をぶっかけられまくったりと非道い姿に変わり果てていた。酷すぎて萎える。ハゲタカが餌に群がるように、女侍にゴブリンたちが我先にと襲いかかり、鬱憤を晴らすかの如く攻撃したり性交したりしている。ゴブリンから見る俺たちはゴブリンには醜く映るのかと思ったけど、普通に全力で襲いかかっているので問題無いらしい。


 ひーひーひーひーひーひーひーひー

 あうぁうぅあぅあぁうああっっっっ

 ぎゃぅぅうううううううううううううううううううう


 うぅ気分が悪い……。

 陵辱系は昔から苦手なんだよな。グロいのも血がダメだから……うわうわそれ以上殴ったら目が潰れちゃうって。可哀想なのはまだ生きてんだよ。もういいじゃん、十分苦痛を味わったよ、と止めてやりたいが、でも俺だって殺されそうになった、──うん、これくらいの地獄を味わって当然か。自分の弱さを呪おうぜ。


 ……なんか甘い匂いが。

 半分燃えている家屋から数匹のゴブリンがいそいそと何かを手に持って出てきた。紫色の手のひらに収まる物体で、何か植物の実、か? それに火を近づけると、煙が立ち上る──。ゴブリンはその煙をもう喘ぐこともしなくなった女侍に嗅がせていた。嫌がる女侍だったけど、顔を無理やり押さえつけられて……。すると、女侍の引き攣っていた顔が穏やかになり、再開するゴブリンの動きに合わせて元気に声を上げ始めた。


 なるほど、そういうハイになっちゃう系の植物か。なんておぞましい光景だろうか。常人だったら、理性を持っている生物だったらもう止めている段階なのに、奴らは更にヒートアップしている。もはや虫だ。本能だけを頼りに無機質に生きている機械──。


 ……でも待てよ、さっきまで苦痛で可哀想だったけど、今は元気に楽しそうに声を上げている。つまり、女侍にとっちゃ薬で頭イってる時にぐちゃぐちゃにされた方が幸せなのでは?


 俺はほっと胸を撫で下ろして安堵の溜息をつきながら、腰を上げる。何か声が聞こえてきた。耳を澄ますと、女侍が喘ぎ声とは別に言葉を発している。


「レィ……ア……おねぇ……ん……ちゃんね……一緒にっ……あぅっ」

「レイア?」モン●ン? スラアクで尻尾切るの好き……。

「いっしょ……あっあっぅ……にぃ……はぁ……」


 意識が混濁としてるのか、なんかレイアと声を出していた。人の名前か? けど、それも次第に聞こえなくなる。静かにうぅっ、うっっ、と呻きながらゴブリンと楽しくしている。周りには他に仲間は居ないらしく、襲っては来ない。


「……もう行くの……か…」

「あぁ、これ以上は流石にお邪魔だからさ」「あなたも……どうだ?」「いやいやいやそれだけはマジで無理。俺プラトニックでロマンチストなんだよ。鬼畜系は理解できねぇ」


 俺が大げさに拒否するとゴブリンはケラケラと笑った。なんだ、こいつらも笑うとなかなか愛嬌がある。

 老ゴブリンはよたよたと歩きながら、俺を先導するように進み始めた。あとを追いかけると……。


「この……道を……まっすぐに……すすめ」

「おぉ、こんなところに隠し通路が」


 ゴブリンが倒れた大樹の隙間を指差すと、そこに巧妙に隠れた細い通路があった。なるほど、ゴブリンたちはここに隠れていたのか。


「悪いな。ありがと、そして元気で……。仲間はたくさん死んだけどさ、これからも頑張れよ、生きるの」

「すぐ……増える。……あの人間も……苗床に……なる」

「え、それって……、つまり人間がゴブリンの子を孕めるの?」

「人間……の女は……そのために……捕まえる」


 それじゃあ心配しないでもいいのかもな。すぐまたゴブリンは新たな社会を生み出すのだろう。俺はゴブリンと握手をして、通路を進む。うわぁ……虫がめっちゃ潜んで気持ち悪い……。ゴブリンの雄叫びと女侍の悲痛な声を耳にしながら、俺はゴブリンの巣を後にした。


☆★☆★



//続く


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