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プロローグ

「助けてください……助けてください……」


 恐怖すると漏らすってホントだった。目の前でされると若干引く。

 目の前で頭を垂れつつ許しを請う女性を見て、なんか虫っぽくて鳥肌がたった。

 いや美少女だったよ。

 純白の肌に、靡く金髪の美しさ。筆舌にし難いってこういうことか、と納得するほどの可愛さ。

 なんせエルフ、だからな。

 ゲームや映画やなろうSSでよく見かけるファンタジーの住人。

 けど、泣きじゃくり失禁して震えてると美少女具合が薄れる。醜くて薄汚い印象を覚える。ガタガタと震える姿は生理的に気持ちが悪い。壊れたスピーカーみたいに「助けてください」を連呼するのもうっとおしいわ。


「おいおい、聞いてくれ」

「ひぃぃ……」

「違うんだ、これは……こいつは、いや、コイツが悪い。俺が絶対勝てないよ、って言ったのに果敢にも飛びかかってきて、俺も撃退するしか手段がなかったんだ」


 右手で掴んでいる銀髪が血に汚れた頭部を地面に放り投げた。

 べちゃ、と潰れた。

 あぁこれが数分前までは怒りに塗れて表情が歪んでいたなんて想像もできない。ゴロンと転がり腑抜けた顔を晒す。


「あぁぅっっぅうう……ぅううう……」

「まぁ正当防衛」

「ふぅぅぅ……ふぅぅぅ……」

「で、悪いんだけど──」


 俺は周囲に飛び交うエーテルを収束させて、淡い青色に光る刀を作り上げる。そっと握ると、指に馴染むのが心地良い。エルフの女性はかっと目を見開き、顔を左右に振りながら後ずさるけど、体が恐怖で上手く動かないらしい。お得意の術式も発動の仕方を忘れたのか、何も仕掛けてこない。


 いやね、悪いとは思っているんだよ。ガチでそう思ってる。申し訳ねぇな。ホントだ。嘘じゃない。

 けど、これも仕事なんだ。

 ヤバイ心苦しい。森の奥深くで平穏に暮らすエルフの里は崩壊して、側近のイケメンエルフ騎士は目の前でむごたらしく殺されて、これ以上ないってくらの不幸だ。悲劇だよ。

 ただなぁ、エルフは高く売れるんだよ。

 特にお姫様とかね、めっちゃ高値でさ──欲しい装備があるんだよねー。


「あぁ、殺しはしないから。足だけ、動かなくするだけだから」


 きっと今頃される方が良いのだろう。依頼人が飼っている生物たちを思い出して身震いした。

 刀を振るうと、指に微かな感触が残った。

 鮮血が舞う。

 絹を引き裂くような悲鳴は頭が痛くなる。宙を駆ける血の流れが、まるで走馬灯のように異世界に訪れるまでの記憶が甦った──。


☆★☆★


「私は、最低賃金以下の給料しかもらってないんですよ。しかもサービス残業とか、働く気になんかなれませんよ、普通」


 ──フリーターを辞め、社畜にジョブチェンジして、一年が経過した。

 ──が、仕事はしょーもない単純作業を延々繰り返すだけ。

 ──しかも給料が低い、低すぎる……。

 ──今日も愉快にサービス残業をやらせようとしてくるので、いい加減腹が立ち、ムリです帰りますって言ったら上司に止められた。脂塗れの手で肩に触れるな、俺のスーツいくらしたと思ってんだよ。


「そこらのコンビニでカタコトで接客してる外人よりも時給が低いんだよ。先輩は、そういう奴らにいちいち敬語がなってねぇとか商品の入れ方が下手なんて指摘しねぇだろ? 同じだ、同じ。これ以上仕事させるなら賃金上げるか、残業代出せ」


 ──おまえ、仕事舐めてるのか? とデスクに置かれていたスマホを投げやがった。

 ──なっ!? それ俺のだ!

 ──ガン、と肩に当たって地面に落ちる。

 ──痛い、って思うよりも画面が割れていないか心配になった。

 ──果たせるかな、角から落ちたらしく、粉々に砕けていた。いやいやいや……最悪。


☆★☆★


 そこから記憶が薄れている。

 朧げに残っているのは、上司に殴りかかってボコボコにした。同僚に止められたところで、俺は色々と暴言を吐き捨て、ついでに唾も吐き捨てると、会社を後にした。

 家に帰るか……。

 ムシャクシャしながら他で時間を潰すか、と思ったところで、どんっ! と背中に衝撃が広がる。

 はぁ?

 と思いながら振り返ると上司が居た。目に真っ青な痣ができてやがる。そうだ、俺がぶん殴ったんだった。馬乗りになって、マウントポジションからめった打ちにしたんだ。ふふ、最後は泣きながら謝ってるのは今思い出しても笑える。


 ぶしゅうううう!


 派手な音が鳴った。

 俺の体から。

 脇から、

 何かが、飛び出ている──。

 手を当てると生暖かい感触が広がった。なぜか、スマホを取り出した。バリバリに割れた画面に、俺の青ざめた顔が浮かんでる。

 上司はにたっと笑った。

 なんだコイツ? と思った時には足の力が抜け、え? と思う間も無く無様に倒れていた。

 必死に目を上げると、上司の手に握られた真っ赤な包丁。

 ……俺の血かよ。

 いやいやいや、ありえねぇ。ってかお前勝ち誇った顔してるけどさ、お前の人生もう終わりだぞ。

 嗚呼、俺もか──。


☆★☆★


 ──その後、俺は『らぎ』と名乗る女性に出会った。不思議な、キラキラと不気味に輝く悪趣味な部屋の中心で、だ。

 おかしい、死んだはずだ? と思ったところで、俺は死に、昨今流行りのWeb小説よろしくこれから異世界転移すると説明を受けた。正確には転生だけど、特に姿形年などは変化ないとか。


 あなたは……おぉ、魔力がSSとは素晴らしいですね。おめでとうございます! あぁっと! しかし、スキル「勇者殺し」がございます。こちらは強力な能力を得る代償として、一定の間隔で勇者に属する相手を倒す必要がございます。ほぼほぼ呪い系のスキルです。初回サービスとして外すことも可能ですが、どうします? と訊かれた。


------------------

名前:クズ


種族:人間

性別:男性

年齢:24

ジョブ:???


 筋力    B

 魔力    SS

 耐久    C

 速力    A


スキル:

 エーテル粒子操作術

 勇者殺し

------------------


「まぁ、強いならそれでいいです。鍛えるのとか、めんどうなので……。ってか、あの……一番上のクズってなんです?」


 名前、だった。

 異世界では、俺はクズ、らしい。──まぁ、いっか。変更しようにもいい名前思い浮かばないし。

 かくして、「勇者殺し」スキルを備えた俺の異世界転生が始まるのだった。


「あの、すみません。勇者を倒すということは、つまり」

「定期的に殺してください。でないと、あなたが死んでしまいます」

「マジかよ」



//続く


チート系のスキルを手に入れた主人公が、異世界で善人に対して暴力を振るう物語となります。

グロテスクなシーンもありますのでご注意ください。


面白かったら評価やブックマークをしていただけるとやる気がでますので、ぜひお願いいたします。

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