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ビブリアンズ!  作者: 秀田ごんぞう
第一章 アンニュイな僕と主人公の席
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第4話 旧校舎の部室

「ここは……?」


 鶴松先輩に引きずられるようにしてやってきたのは、人気のない廊下をしばらく行った先にある教室だった。

 廊下の窓ガラスはしばらく手入れされてないらしく、窓の外には雑草がわんさか生えている。廊下にうっすら積もった埃が、この場所にほとんど人が訪れていないであろうことを思わせる。

 一年生だからまだ校舎の隅々まで把握しているわけではないけど、こんな校舎の外れと言ってもいい辺鄙な場所に連れてきて、鶴松先輩はどういうつもりなのだろうか。


「先輩ここって……?」


「いいから入れって」


 扉を開けた先の教室は壁がびっしりと本棚で埋まっているのを除けば非常に質素な光景だった。窓際に机が二つ並んでいて、授業で使う黒板よりも少し小さいサイズの黒板がある。部屋自体はそれほど広くなく、五、六人もいればいっぱいになってしまう程度の広さだ。


 鶴松先輩は呆けている僕を余所に、窓際の椅子にどっかりと腰かける。にやりと悪そうな顔をして。


「さぁて高野くん。ようこそビブリオ部の部室へ!」


「へ……ビブリオ部って何ですか?」


「ふっふっふ。知りたいだろう? そうだろう?」


 ……やっぱこの先輩うぜぇ。


 苦い顔の僕を放っといて鶴松先輩は声高らかに話し始めた。


「ビブリオ部とは正式には、ビブリオバトル部。名前の通り、ビブリオバトルを主な活動としている部活だ。そして俺はビブリオ部の部長というわけだ! 早速だが高野。お前にはビブリオ部に入ってもらいたい! いや入れ!」


 要望じゃなくて、すでに命令じゃないか。


 ビブリオバトル部……略してビブリオ部というわけか。ビブリオバトルって言うのは……って、なんで僕が解説する流れになってるんだ。鶴松先輩は勝手に暴走してるけど、僕はビブリオ部とやらに入部するつもりはない。……と、部室にしては他の部員の姿が見えないな。今日は休みだったのかな。


「入れじゃないですよ! それに先輩、他の部員の方がいないみたいですけど……」


 僕が言うと、先輩は苦い薬でも飲んだような顔をして口をつぐむ。どうやら痛いところをついたらしい。


「……隠していても仕方ないしな。お前の言うとおり、今、この部には俺とお前しかいないんだ」


「いや僕まだ入ってないですけど」


「こないだ生徒会のヤツらがやってきてな。部員が五人以下の部活は、部活として認めないとの通達を受けた。なんでも……来月あたりに部活動の再編や予算設定をするらしくてな、部員を確保しないと、この部も解体されてしまうかもしれないんだ……」


「マジすか。大変じゃないですか。部の存続のため、がんばってください、先輩。それじゃ、僕はこれで」


「待て待て待て! ここで帰るとか、高野、お前……男がすたるぞ!?」


「べつに構いません」


「……くっ……ドライな現代っ子め……!」


「いや、あんたも年一個しか変わんないでしょ。大体、なんでそんなに僕を誘うんですか?他の人誘えば良いじゃないですか!」


「誘ったさ。誘ったが……みんな次の日にはすぐに他の部へ移ってしまったんだ」


 翌日にはもうやめてるなんて、ビブリオ部……どんだけ魅力ないんだよ。


「……そりゃあ新しい部員は欲しいけどよ。ホントのとこ、お前を誘ったのはそういう理由じゃなくてさ。単純にやってみたかったんだよ。お前とビブリオバトル」


 つぶやいた鶴松先輩の瞳はきらきらと少年のように輝いていて、あぁこの人はホントにビブリオバトルが好きなんだなぁと思った。


 先輩が言うように、僕は全国中学ビブリオバトル大会で準優勝したことがある。でも昔の話だ。人に本を薦めたところで、自分に何の益もないことに気がついて、すっかり熱が冷めてしまってやめたのだ。

 本を読むのは好きだから、今も読書は相変わらず続けてるけど、それは個人的な楽しみであって、ビブリオバトルのためだとかそんな目的意識はない。だからこそ楽しめるのだと思うし、鶴松先輩には悪いけど、やっぱり今更、書評合戦をするつもりにはなれない。


「……先輩。やっぱり僕は……」


 そのとき、全くの不意に部室の扉が開け放たれる。



「いつもいつも騒ぎばかり……いいかげんにしなさいよ、鶴松!」



 扉を開けて開口一番に叫んだのは、大きなとんぼメガネの女子生徒だった。

 彼女は勢いままに僕の尻めがけて蹴りを繰り出し、僕はわけのわからぬうちに、顔面から部室の床にくずおれた。


「ぐふっ…………」


「高野ぉッ!」


「すいません先輩……僕はもうダメみたいです……」


「そんな、嘘だっ! 高野まだ死ぬんじゃないっっ!」


「……がくっ」


「高野ぉぉぉぉぉっ!」


「え、鶴松? …………この人…………誰?」


 彼女が大いなる勘違いに気づいたときは後の祭りであった。

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