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第三章

「分かった」

誰かの大声で目が覚めた。時計を見ると四時三十分。中途半端な時間に起きてしまった。

「どうしたの?」

部屋から出て水月に尋ねる。

「金が何を意味するか分かった」

ああ、と思う。確かそれを水月への宿題にしていたんだっけ。

「おめでと、大木と時田は? まだ外にいるの?」

まあすぐに分かるだろうと思っていたのでさしたる驚きも無い。

「俺が言ってるのはこの暗号自体が解けた、ということだぞ」

え?

「解けたの?」

「ああ、夕食後お前らに話してやる、ふっふっふっふ」

それは楽しみだ。まさか今まで実績ゼロの水月が一番速く解けるとは思っていなかった。

その後、水月と時田にこの事実を告げると同じように疑惑の色が顔に浮かんでいた。ここまで疑われるほど彼の実績はゼロだった。これで不発だったら信頼は地に落ちる。そこまでの覚悟はあるのだろうか、と心配になる。特に大木が狂喜乱舞しながら口撃しているのが目に浮かぶ。が、当の本人は澄ました表情で海を眺めるだけで何も言ってはくれなかった。

「皆さん、急に島様のご予定が変わりまして明日いらっしゃることになりました」

夕食後、茂は僕らにコーヒーを出しながら予定の変更を告げた。

「明日、ですか?」

「はい、皆様方がいらっしゃっていると申し上げましたらぜひ会ってみたいと」

「それはちょうどいいね、水月も解けたみたいだし」

時田が水月に視線を送る。が、当の本人は澄ました顔で外を眺めている。これから別館へ戻って彼の考察を拝聴することになっているのだ。

「それは楽しみですね。遺産を見つけましたらぜひその御顔を拝見したいものです」

茂はそう言ってキッチンへ戻っていった。本気にしていないのだろう、何しろ十七年間解かれていないのだから。

「よし、それじゃ始めよう」

それから十分後、別館で僕らは水月を囲むようにして座り、彼はゆっくりと話し始めた。

「まず金とは何かだがこれは言うまでもない、曜日のことだ」

僕らは一様に頷く。ここまでは異論は無い。

「もちろんその前は木、後は土のことだ。ここまではいいな?」

「いいよ、それで?」

時田が先を促す。僕は彼のさっきの言葉に引っ掛かりを覚えていたが、今は水月の言葉に耳を傾けることにした。

「木、土。これらの言葉を英語にするとWoodとEarth。そしてこの中からあるアルファベットを抜き取って並べ替えるとTower、塔だ」

「他のアルファベットは?」

時田が尋ねる。

「DOHA、ドーハ。カタールの首都だ」

「それが何を意味するの?」

「塔が語るってことだろ」

「木から土を見るっていうのは?」

「そのまま、上から下を見るんだよ」

「何かあったっけ?」

「さあ、俺は見てないから」

ここで時田は質問を止めて黙り込んだ。正直水月の仮説は微妙である。それにこの暗号、その程度の考察で回答に辿り着けるほど甘いものだろうか。

「上から見てもなあ」

大木が呟いている。上から見ても何も無いのはさっき見たことで、見落としがあるとも思えないのだが・・・。大体、塔が語るわけ無いだろう。

「ま、とにかく明日上から見れば分かることでしょ」

大木がそう言って部屋へ戻っていく。それもそうか、ということになってお開きになった。

と思ったらトランプを持って戻ってきた。ここでもやるのか。

「今日は絶対に負けん」

187連敗中の身で何を言っているのか。行く先々に持って来るのは構わないのだが、少しは実力を身に付け欲しい。

「今日で200連敗達成だな」

水月は余裕の表情だ。というより13戦もする気なのか。

早速勝負が始まったが、1位時田 2位水月 3位僕 ドベ大木の順位は揺らがない。これはどんなゲームをしても一緒である。

「はい199連敗目」

時田が余裕の表情でカードを出して大木の負けを宣言した。何故個々の実力が反映される七並べなんて選んだんだ、大木。しかも今日の時田は明らかに大木を集中攻撃していた。おかげで僕や水月はやりやすいが大木は悲惨な状況に置かれていた。

「くっ・・・」

大木の顔が紅潮して行く。次は何を言い出すやら。

「スピードだ!」

てっきりトーナメントを組むのかと思ったら四人でするのだと言う。そんな無茶な。

「いくぜ!」

掛け声を挙げ大木は果敢に攻めた、かに見えた。

「あれ、大木もう出せないの?」

これ見よがしに次々と出していく時田以下三名。たまに大木が出すそぶりを見せても瞬時にシャットアウトしてしまう僕も僕なのだが、かわいそうだ。

「おめでとう!見たこと無いよ。200連敗なんて!」

同じ人間に200回勝ったことさえ始めてだ。

「くっ・・・覚えてろ!」

と月並みな台詞を吐いて部屋へ駆け出していってしまった。

「じゃ、今日はお開きにしますか」

水月が立ち上がりながら言い、大木の悲劇の夜は終わった。

その後、僕はまだ眠気が襲ってこなかったので、部屋に戻ってから今日溜め込んでいたものを時田にぶつけることにした。

「本館へ入ってから違和感を覚えなかったか?」

「もちろん、ある意味考えられないよね。あんな家」

「それが何か分かるか?」

返ってきた答えは単純そのものだった。

「窓が無い。いやそれだけじゃなくて生活に必要最低限の家具しかあの家には無い。テレビも電話も無いしその上アンティークの類一切が無かった。どうなってるんだろうね、一体」

そう言って時田はシャワー室へ入り先に入っていた大木を激怒させていた。

「さっきお前水月も解けたみたいだし、って言ってたな?」

「よく覚えてるね」

できたばかりのたんこぶをさすりながら時田は驚いたように言う。

「お前にも仮説はあるんだな」

「まあね」

「お前の仮説と水月のは一致したのか?」

「いや」

「話せ」

「いや」

「・・・」

「今のイントネーションの違い分かった?」

「もういい」

いつもこうやって人の質問をはぐらかすのだ。それでいて最後には名推理を披露するのだから嫌になってくる。必死で考えている凡人の気持ちにもなって欲しいものだ。

「明日、何かが起こるよ」

そう言って時田はシャワー室へ入り水月に蹴り飛ばされていた。

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