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第二章

「塔ってあれかよ・・・」

大木がため息を漏らす。彼の視線を追っていった先には、高さ二十メートルはあろうかという塔が聳え立っていた。

「大木、沢木」

時田に呼ばれて僕らも本館の中へ入る。水月はまだ船の中でダウンしていた。運んでやろうかとも思ったのだが。

「いいよ、めんどくさい」

 時田の一言によって放置が決定した。

「広いな」

入って大木が見たまんまのことを言う。この本館は二階建てになっており、一階にはホールや食堂、キッチンと現在のこの館の現在の主の部屋があり、二階はまた、その血縁者の部屋で埋め尽くされているそうだ。

ふと、おや?と思う。違和感があるのだ。何がおかしいのだ、と言われたらうまく言い表せないのだが、はて、どうしてだろうか。と、考えていると昼食が出てきた。奥さんは風で寝込んでいるそうなので、全て茂のお手製、ということなのだろうが海鮮パスタはなかなかいけた。

「それでは皆様、注意点をこれからお話しします」

昼食後、コーヒーを出しながら茂が言う。

「ご存知のことと思いますが、期間は一週間です。また、本館の二階へはお上がりになりませんようお願いいたします」

「謎、というのは?」

時田が急かすように尋ねる。確かにそれがなければ始まらない。茂は微笑んで言った。

「これからご案内いたします」


「来る時も思ってたけど・・・」

「いくらなんでも大きすぎる」

時田と大木が口々につぶやいている。この塔は近づいていくほどその威容を増していき、その前に立った時、僕らは思わず息を呑んでいた。

「この塔の頂上に昭則様の遺書がございます」

「遺書? 遺書って地図と一緒に残ってたんじゃないんですか?」

茂の言葉につい反応してしまった。大木の話と違うではないか。

「それがそこにあるのは遺書というよりも暗号といえるようなもので・・・」

茂が困ったように答える。

「暗号、ですか・・・」

「とにかく入ってみようぜ」

大木が中へ入っていき、僕らはその塔へと足を踏み入れた。

「わあ・・・」

時田が感心している。塔の内部は外側に螺旋階段が付いているだけで、いたって簡素なものだったが独特の空気が流れていた。

頂上への階段を上り終えたとき、そこには絶景としか言いようのない空間が広がっていた。

見下ろすと島全景が見渡せ、気持ちいい風が吹いていた。

大木と僕が目をとらわれている中、時田だけが見つけていた。

「これか・・・」

ちょうど正方形になっている足場の中央に謎は刻まれていた。

     金を求める者たちへ告ぐ

        金の前より後を見し者が我が遺産を手にせり

「ってことは、遺産は金ですか?」

大木が暗号を見つめながら茂に尋ねる。

「と、言いたい所なんですがまだ誰も見つけていないものですから・・・」

それは仕方が無いだろう。元々期待もしていないので落胆も無い。

「後はこの前と後が何を意味するか、だな・・・」

「後は頭脳労働、部屋へ帰って考えるだけだね」

大木と時田が立ち上がって塔を降りていく。

「では皆様、夕食は六時からですのでそれまでごゆっくりと」

茂もそう言って戻っていき、僕らは早速解読に頭を悩ませることとなった。

別館、という響きからもっと簡素な建物を予想していた僕の考えは実物を見て崩れ落ちた。実家より絶対広い。それに風呂、トイレ完備でおまけに洗面所もちゃんとあった。これは謎解き抜きでもいいな、と思う。それはそうとそんな物に見向きもせず熱心に暗号の写しを見ている彼らは何なのだろう。まあ、それにくっついてる僕も同類か、と思い直して僕も考えに耽っていった。

「暗号って、これ?」

別館に入った後、僕らはダイニングに集まっていた。ようやく少し回復した水月が熱心に暗号を眺めている。

「そう、でも大して難しくなさそうだから本当に二日で解けるかも」

僕は早くも楽観視していた。暗号の切り口が見えていたからだ。

「でも金だっていろいろあるぜ、金属、お金もそうか」

「将棋に金将ってのもあるが・・・」

水月と大木がそれぞれ言い合っているが、表情を見るに大木には分かっているらしい。

「あれだろうねえ」

時田が言うが、水月はきょとんとしている。分かってないな。

「あれってなんだよ、沢木も分かってんのか」

僕はさも当然と言うように頷いてみせる。

「水月、あれっていうのは」

「待て、もう少し考えさせろ」

大木の言葉を水月が遮る。

「いいぜ、せいぜい苦労するんだな」

威張るのはいいのだがその先の考えは大木にはあるのだろうか、と少し不安になる。

「じゃ、僕は外に出でてくるから夕食までには考えといて」

時田が戻って二部屋あるうちの片方へ入っていった瞬間、僕は部屋割りを決めていなかったことを心の底から後悔していた。

「俺は時田と同じ部屋はごめんだぜ」

予想通り大木と水月が同時に口に出した。

「分かってる。こうなるだろうと思って耳栓も持ってきたから」

僕は諦めて時田との同室を容認した。それと言うのも時田との夜はすさまじいものがあるのだ。いや、別に変な意味はなく、ただ寝言がうるさいだけなのだが、その内容が恐ろしい。

推理小説だかなんだか知らないが、夜中血みどろの話を語り続ける時田に僕ら三人は揃って恐怖し、なるべく別室で寝るようにしていたのだ。しかし今日は生憎部屋が二部屋ならベッドも二つずつ。誰かが犠牲になるしかなかった。

ドアが開く音がする。時田が出てきたのだろう、と振り向いた瞬間固まってしまった。

「おい・・・」

大木が絶句している。おそらく水月も同じように唖然としていたことだろう。

「どうしたの? 何か変なことでもあった?」

変なのはお前だ、と三人全員でつっこみたくなる気持ちを必死で抑え、僕は穏やかに問いかけた。

「時田、海水浴はいいことだと思う。せっかくここまで来たんだから大いに楽しんでくれ。ただな・・・」

「ただ?」

「その格好をどうにかしてくれ」

時田は水着のようなものを着ていた。様なもの、としたのはそれが一般的な水着とかけ離れていたからだ。その真っ黒な何かは、首から足まで露出しているところが一切なく、腕から先はまさしく羽である。足先は扇状に広がっていくのかと思いきや中途半端なところで二つに分かれていた。いや、こんな説明などせずともぴったりな言葉があるではないか。

海豹。そうとしか言いようがない。

「かわいい?」

時田海豹はよちよち歩いてきた。が、慣れていないのだろう。数歩歩いただけで派手にすっ転んだ。

「沢木、こいつの飼い主はお前だったな」

じたばたしている海豹を見ながら大木が僕を見る。

「いや、ここまでやるとは・・・」

「予想外だったな」

僕の言葉をついで水月がため息と共に吐き出す。とりあえず起こすと時田は肩で息をしながら無謀にも再び歩き出した。が、結果は知れている。どんな予言者でも時田の十秒後を知ること位朝飯前だろう。

「さて、俺はもうちょい休んどく、夕飯前までには解いてやるから待ってろ」

再びじたばたしている馬鹿を横目に水月は部屋に戻っていく。

「俺は散歩でもしてこよう」

寛容にも時田を起こしてやってから大木は外に出て行った。

「じゃ、俺も部屋で・・・」

戻ろうとした瞬間腕をつかまれた。

「・・・なんだ」

「起こして」

僕は時田を抱えたまま外へ出て阿呆を海に叩き落した。派手な水しぶきを立てて落ちていったが、泳ぎは得意なようであんな格好でもすいすい泳いでいる。

「まったく」

僕は一人つぶやいてから部屋へと戻りベッドへともぐりこんだ。正直心身共に疲れきっていた。


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