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第一章

そして一ヵ月後。

「あいつはやる気があるのか?」

 大木の声が空港中に響き渡った。周りの人達が僕等を見るが、彼にとって周りの人間の視線などどうでもいいのであろう。

「そろそろ来ないと確かにやばいね」

 僕もさすがに焦ってきていた。集合は余裕を持って七時にしておいたのだが、今は八時。八時三十分の飛行機にのるには後五分のうちに来ないと・・・。

「ま、いざとなったら三人でもいいでしょ」

 時田が恐ろしい事を言う。一人で二人の世話はさすがに出来ない。頼む、頼む水月。

「おはよ、早いな」

 悪びれも無く挨拶して来た水月が天使に見えた。

「ってめー今何時だと思って・・・」

 僕はそんな大木を引っ張って受け付けカウンターまで彼を引っ張る。乗り遅れたら次の便まで待たなくてはいけなくなる。

「大体お前には約束を守る、っていう常識は無いのか」

 空港内のマナーが頭に入っていない大木が水月をどやしつける。周りの視線も注意も気にする事無く。

「お前、飛行機苦手だったんじゃ無かったっけ?」

 水月が禁句を吐いた。途端、急速に大木の顔が青ざめる。

「頭が、胃が」

「前の席は楽しそうだね」

 時田が読んでいた本から目を離し楽しそうに言う。大木はさっきとは別の意味でぎゃあぎゃあ騒ぎ収拾がつかなくなっていた。

「人事じゃないぞ」

「人事だよ、知らんぷり」

 こうして一人だけ苦悶しつつ九時三十分、無事那覇空港に到着した。

「なあ、大木。こっからどうやってその船まで行くんだよ」

 ようやく回復した大木に水月が問いかける。

「ああ、確か港まで船が迎えに来てるはず・・・」

 ここまで言って大木の顔がにやっとした笑顔に変化する。そうだ、僕等は今から弧島に行くのだ。船を使わないわけ無かった。

「そうか、船か・・・」

 水月の顔が曇る。彼ら二人は変なところで共通点を持っており、大木は飛行機に、水月は船に極度に弱かった。

「じゃあ行こうよ。どこら辺にいるの?」

 時田が笑顔で大木に問いかける。苦手な物など無い彼にとって乗り物酔いなど理解出来ないのだろう。かく言う僕も車には弱く、港へと向かうバスの中で一人、酔いをこらえなくてはならなかった。

「えーとああ、ここ・・・だ・・・」

 見つけた途端大木が固まった。どれどれ、と僕等が視線を追うとそこにあったのは船ではなかった。

「あ・・れ・・?」

 さすがの時田も言葉を失っていた。その船の規模たるや、並ではなかった。クルーザーと言った方がしっくりくる。さすがこんな島を建てて、管理人を住まわせる程の財力をもっているだけのことはある。

「皆さん、よくここまでお越しくださいました。すぐに出発いたしますのでお乗りください」

 スピーカーから男性の声が聞こえてきた。恐らくどこかにカメラもついているのだろう。これで一週間宿を提供してくれるのだから本当に至れり尽くせりだ。

「改めて皆様、ようこそいらっしゃいました。ここから東塔島まで三時間ほどの船旅ですので、ぜひ海の旅を楽しんでください」

 出てきたのは初老の落ち着いた男性だった。

 貝塚 茂 五十二歳 5年前から東塔島の管理全般を任されているそうだ。その東塔島というのが僕らの船の目的地であり、遺産が眠っている場所であった。

「一週間お世話になります」

 大木が代表して挨拶と自己紹介を難なくこなす。この社交性は評価するがそれ以外は常識の欠片も見当たらないのが大木という人間の特徴であった。こうして僕等の長い船旅は始まった。

「あ−頭痛い、お腹痛い、吐きそう」

 さっきからずっとぼやいているのは水月だ。まだ乗ってから一時間も経っていないのに彼は真っ先にダウンしていた。

「情けねーな、一人その有様で」

 大木がからかう。が、

「うっせーよ、さっきまで機内でぎゃあぎゃあ騒いでたくせに」

 そう切り替えされて撃沈していた。何故そんなに速く自分の記憶を忘れられるのだろうか。正直、機内の大木よりはまだましである。

「寝てたらすぐ着くよ。それまで我慢我慢」

 僕はそう慰めてからデッキへと出た。風にあたりたかったし、この喧嘩に付き合っているのもそろそろ飽きてきた。

「どう、水月は?」

一足早く飽きていた時田が振り返りながら聞いてくる。

「さっきと一緒。ずーっとぶつぶつ言ってる」

「情けないねえ、まだ若いのに」

「体質の問題でしょ。かのネルソン提督も生涯船酔いに苦しんだらしいし」

 そんな言われようではさすがに水月がかわいそうになる。

「どうですか? この船の乗り心地は」

 そう後ろから声がかかったので振り向くとこの船のキャプテンが立っていた。

「快適ですよ。潮風が気持ちいいし」

「見渡す限りが海って言うのも経験ないし」

 僕と時田は交互に感想を述べ合う。まったくなんで酔うのかネルソン提督に聞いてみたいものだ。

「昔はかなり挑戦する人も多かったんですけどねえ。このところさっぱり来なくなっていましたから。お電話をいただいた時は驚きました」

「10年ぶりなんですってね」

 時田が空を見上げながら尋ねる。

「ええ、ですから私がこの家に仕え始めてからは始めての挑戦者、という事になります」

 何でも前社長であった原昭則に今仕えている主が無くなったらぜひこの家に仕えて欲しい、と言われていたらしく、自筆の手紙を渡されていたそうだ。折よく原家の管理人は1ヶ月前に亡くなっており、無事採用されたのだそうだ。優秀なのだろう。

「私共も挑戦して見ましたが全く分かりませんでした、解けるよう期待しています」

さっきから思っていたのだが、この人は僕らにも丁寧な話し方をする。時田にも見習って欲しいものだ。

「他に島には誰が?」

「今は私たち夫婦だけですが、二日後には原様方がいらっしゃることになっています」

「それまでに解けるかなあ」

 時田が呑気なことを言っている。解けるわけがないだろう、十七年間誰も解けなかったんだぞ、時田。

「でもそれは凡人ばっかり行ったからでしょ」

 そう言われては今まで解こうとした人の立つ瀬がない。

「ま、一歩でも解決に近づけたらよしとしよう」

 それでいい。

「あ、あれかなあ」

 時田が遠くを指差している。

「そういえばそろそろだね、着くの」

 後三十分ほどだろう。

「では私は中に戻りますので、何か御用があればお呼びください」

 そう言って茂は戻っていき、船内でははその後紆余曲折ありながらも無事島に到着した。

「では皆様、まずは本館のほうへお越しください」

 船から下りて三分ほど、僕らは二つの屋敷の前にいた。


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