第6話 魔王、現状を知る
人生初、彼女が出来た。
しかも死んで魔王に転生して初日にだ。
神様、ありがとうございます。
どうせなら死ぬ前の世界で欲しかったです。
「魔王様、私めはどうしたら良いでしょうか?」
ニーズルはこちらを捨てられた子犬みたいな目で見てくる。いや、確かに混乱するのも当たり前か。倒すべき勇者は魔王の彼女となり、勇者の印は俺が持ってしまった。つまり、魔王でありながら勇者なのだ。
倒すべき相手と従う相手が一緒の人物だと混乱するわな。
「私めがいたなら…その、お邪魔じゃないでしょうか?2人の方が良いなら私めはここから去ろうと思います」
泣きそうな目で見てくる。
どうやら俺が思っていた考えじゃなくただ単に俺達の邪魔はしたくないって考えか。でもさ、ならなんでそんな悲しい目をするの?俺が悪いことしたみたいに思ってしまうじゃん!
俺はキスした後普通に横に立っている勇者の顔を見た。どうすれば良いか分からないからだ。
「私はあなたに従う。ダメな時はダメ出しするし意見も言う。ただ、この件は私はあなたに任せる」
真っ直ぐ俺を見て答えてくれた。元勇者は性格はちょっと子供というか危ないって思う時もあるが、やはり俺とは比べものにならないくらいの修羅を潜ってきたのだろう。はっきりこう言ってくれるのは信頼されてるのと、元勇者が決める案件じゃないって事を自覚してるんだな。中々頼もしい。
…まあ、俺は転生初日の魔王だしこういう状況っていうのは初めてだからどう言えば良いか迷う。
「えーっと。ニーズルはやっぱり魔王が元勇者に告白した事は嫌だったか?」
「魔王様が決めた事に口出しなど出来ませぬ」
「まあそう言うと思ったけど…」
これは困ったな。ニーズルとの関係は一応上司と部下だ。ただ、ニーズルと会ったのはついさっきだ。元勇者と会う十分前くらいに初対面してる。だから、ニーズルがどういう性格なのか一切分からない。
「ただ…」
「ただ?」
「魔王様が勇者と付き合うのは些か不可解…といいますか。いえ、否定するわけじゃないのですが」
「ま、同然だわな。宿敵なのに付き合うとか人類や魔族からしたらありえないもんな〜」
ニーズルの言い分はもっともだ。俺だってゲームとかしているけど魔王が勇者に告白とか無いしな。
しかもこの世界は負けた相手の言う事を聞かなければならないルールみたいのもある。ふざけたルールだ。
そんなルールあるなら強者がずっと弱者を虐げる事になる。
…っと、話が逸れたな。
ニーズルをどうするかって話だったな。
そもそも俺は魔王に転生して初日にだからニーズルがここまで忠誠心を見せる理由がわからないな。
ふむ。どうしよう。
「魔王様が決めた相手は勇者だけあって色々思うところはありますが、やはり私めは魔王様の意思に従うまでです」
「ふむ。俺の意思か…。なら、そうだな。うん。そうしよう」
「魔王様?」
「ニーズル。俺の力になってくれないか?俺は今日来たばっかりだ。知識が無い。だから、無知だ。ニーズルは魔族側の事色々知っているだろ?その知識を俺に貸してくれ。いや、貸してください。元勇者にもお願いする。魔族と人類側の知識を教えてくれ」
二人に対して頭を下げる。
これが俺が出した答えだ。
言った通り無知なんだよ俺。神様が勝手に転生させて初日だ。魔王どころかこの世界の常識が一切分からない。それなら、助けてもらおう。
ま、だからっていきなり告白とか俺どんだけガッついてるんだよって話だよな。普通会ってすぐ告白とか引くわー。自分自身で告白したが引くわー。バカじゃないのかな?もう…
と、一人でグルグル自分がした事について悪い方向に考えていたら
「魔王がそう言うなら仕方ないから力貸してあげるよ」
ふふん。と強がってる元勇者。
お前、本当に勇者か?もうツンデレヒロインみたいな言い方だよそれ?殺し屋からツンデレヒロインってジョブチェンジしすぎじゃない?
俺が元勇者をジーッと冷静な目で見てると
「ま、魔王様のお力になれるなら本望。魔王様に一生ついていきます!」
ニーズルは肩苦しい言葉を言うが…お前、顔に出すぎだ。パーっと明るく笑顔になってるぞ。
まあ、可愛いからよしとする。
「仕方ない。魔族と手を組むのは本来ありえない事だけど…魔王がそこまで言うなら仲良くしてあげるわ。今までの事は水に流せとは言わない。お互い殺しまくっていたから簡単に解決出来る問題じゃない。だけど、それを担ぐ覚悟はある。だから…」
元勇者はニーズルに向けて手を差し出す。
ニーズルも黙っているが、手を差し出す。
二人して握手する。
「これからは宜しく。嫌かもしれないけどね」
「…確かに嫌ですがワガママは言いません。それに私めはまだ誰も殺してはいませんので、そこらへんは大丈夫です」
「私は魔王四人は倒したし魔族も魔物も殺しまくったから魔族側からも人類側からも非難は来る事は覚悟してる。…私一人じゃ耐えきれないけど魔王もいる。貴女もいる。一人じゃないから耐えれる」
「…仕方ないですね。魔王様が決めた事は私めはただ従うまでです。なら、貴女を守れと言われればただ守るだけです」
元勇者とニーズルは握手しながらお互いの素直な意見を言い合う。
うん。なんか、良いね。美人二人がこうも仲良く…とは言わないけど話し合ってる姿は。俺は空気になってその光景を見ておこう。
「あ、魔王。名前なんて言うの?流石に魔王で言うのはどうかと思うのよ」
「確かに。俺の名前は中山光だ。で元勇者の名前は?」
「ナカヤマヒカル?変な名前ね。ヒカルね。うん。これからヒカルって呼ぶわ。私の名前はアルハルド=メ=ステファニーよ」
「言いにくい名前だな…。う〜ん。アルハルド…アルでいいか」
「良いわよ。ヒカル、この上級魔族はニーズルだっけ?」
「ああ、あってるはず」
アルはニーズルにも自己紹介をしていた。
ニーズルはアルの事をアル様と言う事にしたらしい。
自己紹介も終わり二人とも俺を見る。聞きたいことがあったから聞いてみる。
「なあ、ニーズルってさっき上級魔族とか言ってたよな?」
「そうね。名前があるのは中級からあるんだけど、上級は【魔王の紋章】が浮き出るのよ。さっき私と戦ったときに出た紋章ね」
ああ、確かになんか不可思議な紋章は出てたな。
厨二心をくすぐるカッコいい紋章が魔王の紋章って言うんだ。
「まあ、上級魔族なんて数少ないし魔王の軍に一体いればマシな方よ」
「因みにニーズル以外にも俺の部下っているの?」
「います。ただ、前の魔王様の部下で…その色々と性格が強すぎまして…今はこの魔王城にはいません。各地にそれぞれ前の魔王様に言われた仕事をしてます」
前の魔王はいったいどういう部下を作ったんだよ。
めんどくさい性格とか厄介ごとはゴメンだ。
「その部下は上級魔族なのか?」
「はい。正確に言いますと上級魔族が私め含め五人います。魔王様の部下は五人だけです。魔物は一切いません」
「上級魔族が五人…」
アルは驚愕してる。
とりあえず放っておこう。今は気になることをニーズルに聞く。
「魔物がいないって言ったよな?何でだ?普通は魔物を従えてるのじゃないのか?」
「本来なら魔物を従え人間を襲っています。中級魔族や低級魔族にもそういう命令を出して襲わせています。しかし、前の魔王様が魔物なんかいらない。低級も中級もいらないと言って他の魔王様に渡しました」
「前の魔王は何考えてるんだよ…」
「上級魔族を作り出し自由気ままに過ごしていました。なので前の魔王様からは人間を殺していません。そういう命令でしたので」
話を聞く感じ前の魔王はもしかしたら俺と同じ転生した人間だったんじゃないのか?それなら話は繋がる。
死んでしまったから聞けないのはどうしようも無いが。今度神様に会うことが会ったら聞いてみよう。