第3話 勇者と魔王
ニーズルの言葉を聞いて頭を抱える。
何で魔王になったばっかりなのに勇者来ちゃってるの?
あの神様全く説明しないし、もう意味が分からない。
というか、勇者来ちゃったら俺ただただ殺されるだけじゃん。
「魔王様?」
ニーズルが心配そうに見てくる。
「あのさ、勇者って強いよな?」
「今の勇者は歴代の中でも最強と謳われてます」
「あの神様やっぱり馬鹿だよな!!」
何で最強の勇者の時に魔王にならなくちゃならないんだよ。
転生するなら俺も勇者が良かったよ。
「…どうやら勇者が後少しでこの部屋に来ます」
ニーズルが目を細めそう言う。
どうやって情報を取り入れてるのか分からないが本当なんだろう。
どうする?
来たばっかりで殺されるとかたまったもんじゃない!
頭を抱え悩んでいると、ふと思い出した。
神様が転生する際に色々ステータスとかどうのこうの言ってたことを。
俺がステータスの事を思い出したと同時に目の前にあった扉が光の筋みたいなのが切り刻まれて音を立てて崩れた。
「勇者です」
ニーズルが俺の近くまで来ており顔には不可思議な紋章が浮き出ており、体には黒いオーラを纏っていた。
煙の先に影が見えた。
そいつはゆっくりと煙の中を歩き始める。
俺の心はバクバクだった。
どうやってあの分厚そうな扉を切ったんだ?
俺も扉みたいに切られちゃうのか?
「初めまして魔王。そしてさようなら」
勇者がニーズルと同じように一瞬で目の前に来て剣を振り下ろす。
「させない!」
ニーズルがいつの間にか出していた漆黒の剣で勇者の剣を防ぐ。
だが、すぐに勇者は右足でニーズルを吹き飛ばす。
「グフッ!?」
ニーズルは勢いよく壁にぶつかる。
ニーズルの方を見ていると
「よそ見とはえらく余裕ね」
正面にいる勇者がそう言って剣をまっすぐ刺す。
心臓に向けて最短距離で最速で出された剣を俺は右手でヒョイと掴む。
「ッ!?」
勇者は掴まれたことに驚いていたが直ぐにニーズルを蹴ったように高速で右足を振り払う。
右足は俺のコメカミに当たったのだが
「効かない!?」
当たった感触で分かったのかまた勇者は驚く。
その隙に左手で勇者の額にデコピンをした。
「アグッ!!!」
勇者は勢いよく後ろに吹き飛んだ。
壁にはぶつからなかったが相当ダメージを負ったみたいで地面に上手く着地出来てなかった。
勇者はゆっくりと立ち上がる。
「…私の力が通用しない」
勇者は悔しそうに呟く。
一旦攻撃が止んだみたいなので俺は言った。
「勇者って女かよ!!?」
そうなんだよ。今いる勇者は紛れもなく女。
金色の長い髪を後ろで縛りRPGでよく見かける装備。手に持っている剣はどことなく神聖な力を感じる。
で、勇者とはかけ離れた美貌。
傷など1つもなく、どこの2次元から来たんだよ!っていうくらいの整った顔。
ぶっちゃけ好みな顔だ。
「うっ…体が動かない…」
勇者が一生懸命体を動かそうとしているんだが動けないようだ。
俺が突っ込んでから動けないみたい。
うむうむ。
勇者が女だとは考えもしなかったな。
しかも好みな顔だ。
やはり見た目から入ってしまうのは、恋愛などあまりしてきてない不甲斐なさが感じられる。
「…ァァアアア!!!」
勇者が気合を入れ体を動かす。
動けなかった体を無理矢理動かしこちらへ攻めてくる。
「奥義【雷光一閃】!!!」
勇者が持つ剣が眩い光を放つと同時にバチバチと音を立てて剣に雷が纏われる。
それを、限界の速度で俺に放つ。
「うわ、眩しい」
俺は眩しかったんで思わず手で顔を覆って目を瞑る。
ガギィィン
手の甲に当たった剣は折れてしまった。
「ゆ、勇者の剣が……」
目の前には剣を折られ意気消沈している勇者がいた。
…なんか、すいません。
「流石です魔王様」
ニーズルが勇者の後ろにいた。
漆黒の剣を勇者の首筋に当ててる。
「えっと、ニーズルさん?なにしてんの?」
「勇者にとどめを。魔王様の手を煩わせる訳にはいきません」
「いやいやいや、チョット待とうか!?」
未だに呆けている勇者にとどめを刺そうと漆黒の剣を振り上げるニーズルを止める。
「…殺せ。剣も壊れ奥義も防がれた私にはお前を倒す術は持たない。ただな、私が死んでも次に現れる勇者がお前を必ず倒しにくる!!」
勇者は恨めしそうにこちらを向き言う。
「ふん。言い残す言葉はそれだけか」
ニーズルも剣を振り下ろそうとする。
ダメだこいつら話聞かないタイプだ。
振り下ろした剣を俺は左手で掴む。
「魔王様?」
ニーズルがどうして?みたいな顔で見てくる。
勇者も、え?みたいな顔で見てくる。
「お前ら勝手に話を進めるな!!!」
「ッ!!」
ニーズルがすぐ膝をついて頭を下げる。
「ま、魔王様。申し訳ございません。いき過ぎた真似を」
汗をダラーッとかきながらニーズルは今にでも泣きそうな感じで言う。
「あ、怒った訳じゃないから。チョットは人の話を聞いて欲しかっただけだから」
思わずオロオロしてしまう。
「はっ!!」
未だに頭を上げないニーズル。
とりあえずニーズルはこのままみたいだから放っておこう。
俺は勇者を見る。勇者はビクッとしてこちらを睨み返してくる。
性格は置いておいて…現世でもこんな綺麗な女性見たことないな。つか、見かけても話す勇気なかった。
でも、こんな美人を彼女に出来たら良いなぁ。
「な、なによ。殺すなら早く殺しなさいよ」
「何でそういう考えになっちゃうかな!?」
勇者ならそういう考えはダメだろうに。
というかだよ?この勇者が死んだら次の勇者が来る訳やん?
めんどくさい。わざわざ殺しにくる人間を増やすのは嫌だな。うん。そういう理由ってことにしておこう。
自分の気持ちを隠して言い訳を考えて1人で納得する。
俺は座り込んでいる勇者に合わせるよう座る。
「勇者よ。俺とつ、つ、付き合わないか?」
真っ直ぐ見て言うつもりが、恥ずかしくなって目を逸らし最後の方は小さい声になってしまった。
チラッと勇者を見たら固まっていた。
ついでに言うならニーズルも顔を上げ目を開いて固まっていた。