第10話 義勇軍撤退する
ん?って思いました?
俺もです。
「ふわぁ〜」
俺は思わず欠伸が出てしまう。無理もないだろ。かれこれ一時間くらい勇者が魔王城に入って出てこないのだ。
本来なら欠伸する程の余裕は無いのだ。勇者がいくら強かろうと魔王も強いのだ。元々魔族は一般的な人間の何倍、何十倍の魔力を持っている。それを連ねる魔族の王。魔王。弱いわけが無い。
だけど例外というのはいる。それが今いる勇者だ。はっきり言って強すぎる。魔王四体を一撃で倒す化け物。だから、この義勇軍って必要無いんだが俺もそうなんだが参加することによって良いステータスになるのだ。
「義勇軍にいて魔王を一緒に倒した」
これがつくのだ。これがつくだけで箔が上がり色々と有利になるのだ。要は出世の為。
大半がこれだ。
「しかし、勇者が入ってまだ倒せてないのか?あまり手こずってもらっては困るのだがな」
義勇軍幹部の一人であるギーラといういかにも甘やかされて育たされたブクブクに太った貴族である。
ギーラの周りにいる兵士達は何人かは素人であろう冒険者や新人兵士がいるが、流石に貴族を守る人間なので素人から見ても歴戦錬磨の兵士達がいる。
「ギーラ様。何故攻められないのですか?」
「勇者が戦いの邪魔になるから来るなっていう指示だ。ふん。生意気な小娘だ。兵士Aよ。まだ慌てるでない」
何が生意気な小娘だ。その生意気な小娘の活躍を何もしていないのに一緒に活躍したかのように言うくせに。まあ、俺もその一人だが。あ、俺はここでは兵士Aと名乗っている。
「お、おいアレ⁉︎」
誰かが指をさして声を上げる。慌てて指した方を見るとなんと魔王城が火に包まれた。
魔王城の周りは崖となっており義勇軍は崖より離れて魔王城を囲むように配置されている。だが、見た感じ魔王城に火を放った奴はいない。
「おい、どうなっている⁉︎勇者は⁉︎魔王は⁉︎」
ギーラが唾を飛ばしながら周りの兵士達に聞く。だが分かるはずもない。本当に突然火がついたのだ。
義勇軍全体がざわついている時、空に何かが現れた。いや、アレは……。
「魔族だ‼︎」
それを誰が言ったのか分からないが一瞬で騒ぎが静まる。この状況で魔族が現れたって事はだ。
勇者は負けた
それしか無いだろ。
「我はアークス。魔王様の最後の配下だ‼︎」
そいつは義勇軍全体に伝わるよう声を拡張させて言う。
「魔王じゃない?」
騒つくが魔族は続ける。
「魔王様は勇者と相打ちになられた‼︎ 魔王様は寛大なお方だ。そして魔族にしてはとてもお優しい方だった。死ぬ前に結果を外にいる人間に伝えろと言われた。魔王様の命令は絶対だ。だからお前ら人間共に伝えにきた。本当はお前らを皆殺しにしたいくらいだが魔王様はお前らを殺すなと言われた。本当にお優しい方だった。……これ以上は殺意が増えて殺してしまいそうだから我は消える」
魔族は殺意を剥き出しながら俺達に言った後消えた。
まだ義勇軍全体がざわついている。
勇者と魔王が相打ち?あの強い勇者が負けたのか。
いや、でも魔王も死んだ。つまりは最後の魔王は死んだんだ。勇者共々に。
「お前ら何をざわついておる‼︎ 我らの希望であった勇者は自分の命を賭して魔王を殺したのだ。魔王はいなくなったのだ‼︎」
ギーラが喝を入れる。
それを引き金として混乱していた義勇軍は勝ったことに喜ぶ。
「「「勇者様万歳」」」
そこら中で勇者を讃える声が聞こえる。
義勇軍は勝利を噛み締め、勇者の死を讃え声を上げる。
一時間程そうしていたが魔王城が完全に崩壊したのをキッカケに義勇軍は解散となった。