種明かし(2)
玄関に戻ると、ちょうどあわただしく使用人たちが迎えに出てくるところだった。
部屋に通されて体を乾かしてもらった後、牛乳入りの紅茶を出されてひとごこち着く。
「それじゃ、私はロバートの支度が整う前に帰るわ」
「ええ、行っちゃうんですか!?」
「馬鹿、言ったでしょう。私はあなたを連れてくるところで終わりなの。私のことは疲れて先に帰ったとでも言ってもらえばいいわ」
茶器に口をつけるシャーロットに、エミリはおずおずと問う。
「……さっきお話を聞いた時にも思ったんですけど」
「なあに」
「好きじゃないんですか? ロバートさんのこと」
「いいえ? 別にそういうわけじゃないけど」
「じゃあどうして、こんなことをしてまでロバートさんと結婚したくないんですか?」
エミリの質問の意味をいまいち理解せずに答えていたシャーロットだったがそれで腑に落ちた。
自分の想い人がそこまで頑なに拒否されていたら確かに理由を知りたくもなるだろう。
シャーロットは説明しようとする――が、語るに語れない。
「それはまあ……幼馴染と婚約者じゃあ別物でしょ? 今さら恋愛対象みたいに思うには、身内として育ちすぎたわよ」
「別物…………もしかして、他に好きな人がいます? それと比較して言ってる?」
「う」
「当たりですか? あ、じゃあ、もしかしてマシューさんとか!?」
「ちょ、ちょっと待って。どうしてあなたはそう、無駄なところで察しがいいのよ……!」
廊下に聞こえないよう、小声でエミリにすごむ。
エミリはというと突然明かされた事実に昂ぶっていてあまり効き目はない。
「ああーなるほど、それで……!」
「何がなるほどよ!」
エミリはもうすっかり先ほどまでの覇気のない姿から抜け出し年頃の娘らしい笑顔ではしゃいでいる。それがよいのか悪いのか、シャーロットはかみつくタイミングを失ってうめくばかりだ。
「ロバートさんにそのこと話さないんですか? そうしてたらこんなに遠回りしなくても」
「無理よそんなの……誰にも言ったことないもの、なんて言われるか」
「そうですか? なんだか応援してくれる気がするんだけどなあ」
「簡単に言わないでちょうだい」
口ではぶつぶつといいつつも、シャーロットは内心ほっとしていた。初めて打ち明けた気持ちがすんなり受け入れられたことに。
「でもよかったです。さっき聞いた白昼夢の最後みたいにはならなさそうで。だってロバートさんとシャーロットさん、あんなに仲良しですもんね」
「…………」
笑顔のエミリにシャーロットは口をつぐむ。
白昼夢の最後とは、「若緑」メインルートのエンディングまぎわの流れである。
シナリオ内ではロバートの幼馴染という立場を主張しエミリを迫害するライバル役「シャーロット」だが、最後には当然のしっぺ返しを食らう。
もうイベントも起こしつくした終盤、ロバートが「シャーロット」にどうしてヒロインを邪険にするのかと問い詰める。そこで他でもないロバートに責められた「シャーロット」はあの娘はあなたにふさわしくないだとか言い訳をするも、愛想をつかしたロバートに絶縁を言い渡され、物語から退場するという結末に至るのだ。
しかし現状シャーロットとエミリにそんな一触即発の気配はない。ロバートはおろかもう一人の攻略対象までまじえてわいわいピクニックを開く始末だし、今なんか二人きりで話している。
自分でもそう考えたことはあった。
エミリの言う通り、決別する必要はないのかもしれないが。
「――でも、悪役はこらしめられるのがお話の定石よね」
シャーロットは膝上のティーカップを見つめて言った。
エミリはきょとんとした。
「……えっ、それは……予定通りに絶交するってことですか?」
「そうよ。あなたをいじめた理由、ロバートには話してないし話せないもの。私という障害を乗り越えて二人は結ばれるの、ロマンチックでしょ」
「いやいや! そうはいってもシャーロットさん、言うほど障害になってますか!?」
そう、今のところシャーロットは排除すべき障害物の機能を果たしていない。
だが。
「さっきあなたに誤解させてしまったって知った時に学んだのよ、今さら予定調和を崩したらあとあと思わぬほころびが出るって。それにあなたにはじめ嫌な思いをさせた分のけじめくらいはつけなきゃいけないわ」
自分からなじられにいくくらいの覚悟はある。
エミリは呆れたように言葉をなくしてしまった。眉尻を下げて口を半端に開いたままシャーロットを見つめ、一度視線を外し、そして再び思い切ったように問う。
「シャーロットさんはじゃあ、ロバートさんとお別れするつもりなんですか?」
「最悪ね」
「ロバートさんが嫌いなわけではないんですよね?」
「……まあ」
古い友情を失う。その重大さに実感がなかったのかもしれない。
口ごもるシャーロットにエミリは畳みかける。
「私のことでロバートさんと喧嘩別れしたなんて知ったら、その友達のマシューさんの耳にも入りますよ! 気まずくなりますよ、それでもいいんですか?」
「お、脅しじゃない!」
痛いところを突かれてシャーロットは抵抗する。
エミリは勢いを損なわずさらに食い下がった。
「前私に言ったじゃないですか、自分が望む結果になるように動けって。全部丸く収まるようにしましょうよ」
「そ、そうは言っても、実際あなたをいじめるところを見せてるのよ。蒸し返されでもしたらまた困ったことになるかもしれないじゃない」
だから、とエミリは語調を強めてシャーロットに向き直った。何やら声が弾んでいる。
「大丈夫です。私、いいこと思いつきました」




