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種明かし(1)

 か細く、しかし低い声がこぼれ落ちる。


「冗談じゃないわよ。私がロバートと結婚するわけないじゃない」

「でも」

「でもじゃない。エミリ、それでいいと思ってるの? 私がロバートと結婚しても」


 シャーロットは詰問するように早口でエミリに詰め寄った。怒っているわけではなかった。怒るには頭がついていかなかった。ただ、脳裏のすみにははっきりとした意見が一つあった。

 これまでのシャーロットの手回しが、こんな風についえていいわけがない。


「っよくない。よくないですけど」

「そうでしょう。だからあなたがロバートと結婚すればいいのよ」

「……は……?」


 取り乱していたエミリは一転、放心したように言葉を失った。

 シャーロットは強い語調のまま話し続ける。


「あの男は交際するとなればまず間違いなく結婚を前提に考えるわよ。非現実的な話じゃないわ」

「いや、その、シャーロットさんは……?」

「家同士がどうだろうと私はいやよ。なんのためにあれこれおぜん立てしたかわからないわ」

「……どういうことですか?」


 しまった、とシャーロットは思った。衝動に身を任せて口を滑らせた。

 前世の記憶から得たゲームの知識でエミリとロバートを恋仲にしようとしており、そのためにエミリをいじめたり場所を誘導したりしていた――などとは言えない。言うつもりもなかった。説明しきる自信はないし、それ以前に全てをつまびらかにしたところで病院送りである。


 だが、言わずにいていいものか。

 シャーロットはエミリに対して引け目ばかりがある。いじめたことに加え自分の目的のためにその未来を操ろうとしたこと。そしてついには泣かせてしまった。

 これで無言をつらぬくのは不義理ではないのか。


 シャーロットは腰をかがめてエミリの腰と腕を支え立たせた。


「……白昼夢を見たの。ロバートとあなたが出てくる、長くて変な夢」


 シャーロットはエミリを雨の当たらぬ東屋の屋根の下に連れて行くと説明を始めた。

 エミリが来た日、白昼夢を見たこと。エミリがロバートと徐々に親しくなってゆき、最後には晴れて恋人同士となること。実際に夢の中の出来事と同じことが起こったこと。さらに夢の中の未来を現実とするため意図的に誘導していたこと。シャーロットがその流れの中でしゃしゃり出る必要があったこと。

 ゲーム云々の受け入れられなさそうなところをぼかしながらも、シャーロットは初めて、今までの行動の理由を正直に話した。


 エミリはもう泣いてはいなかった。シャーロットの語る空想話を聞いて呆然としていた。


「そんなこと……ありえるんですか?」

「信じたくないならいいわよ」


 エミリは納得しきっていない。というよりも混乱しているようだ。無理もない。シャーロットだって完全に理解することはあきらめているのだ。


「お告げってやつなんでしょうか。でも現実にそんなこと」

「もうそれでいいわ。とにかく私は、ロバートとあなたを接近させようと思ってたの」


 言いたいことを言いきってシャーロットは柱にもたれかかった。 雨だれの音が東屋の中に満ちた。


「どうしてですか?」


 静寂を割ってぽつりとエミリが問うた。


「その、私とロバートさんを……ってところの理由です。説明はわかりましたけど、そこがわからなくて」


 あたふたと説明を続けるエミリの目には、もう悲しみも疑念も宿っていなかった。

 そのことに救われながら、シャーロットは言葉を返す。


「だから……さっきも言ったけど、私ロバートと結婚なんてしたくないの。親同士仲いいからその可能性があるって言うのは本当よ。そうならないためには、ロバートが別の婚約者をつくってくれればいいの」


 婚約者、のところでエミリを指さす。エミリは顔を赤らめた。


「だけど、それが私だなんて」

「別にいいじゃない、それこそお告げってことで納得すれば。私から見るとあなたたちいい感じよ。それにあの男には私が発破をかけたんだもの、黙っていさせはしないわ」

「シャーロットさん、ちょっと怖いです」

「失礼ね」


 エミリはまだ幾分か問いたげな顔をしていたが、やがてほっとしたような笑みにまぎれわからなくなった。

 と、屋根を弾く雨音に混ざって、上から声がふってきた。


「エミリ? それにシャーリー? いったいそんなところで何をやっているんだ!」


 頭上を同時に見上げると、ロバートが廊下の窓から身を乗り出して見下ろしていた。シャーロットたちはここへ来た当初の予定をようやく思い出した。


「客人が消えたと家の使用人たちがあわてていたぞ。こんな雨の中にいるなんて……ずいぶん濡れただろう、早く中に入ってくれ」


 そういうとロバートはすぐさま窓の奥に引っこんだ。使用人に知らせに行ったのだろう。元々彼の見舞いという名目で来たことを思うと流石に申し訳ない。屋敷を騒がせたのも悪いことをした。

 今さら冷静になって己を顧みる。

 彼の言う通り東屋の中とはいえ雨が少しも吹き込んでこないわけではなく、第一屋根の入るよりも前にもう雨を思い切り浴びていたので、二人そろって濡れねずみだ。

 シャーロットは視線をさまよわせてとなりを見た。エミリと目が合う。なんだかおかしくなってしまった。思わず二人でくすくす笑う。


「……つき合わせちゃってごめんなさい」

「いいわよ。行きましょ」


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