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青空の下にこぼした本音(2)

 知り合って間もない、年齢層が近いだけのちぐはぐな面々ではあるが、すでに打ち解けた者同士で場は和やかに進行している。元々友人同士であるロバートとマシューは気軽に言葉を交わしているし、一応シャーロットもエミリと自然に話せる程度には関係を修復している。

 一応会合としては何の問題もないのだが。


 エミリはシャーロットににじり寄って弾んだ声を上げた。


「シャーロットさん、来てくれて嬉しいです」

「別に、たまたま気が向いたから来ただけよ。本当はあなたたち二人で来ればよかったんだわ」


 シャーロットはそっぽを向きながら気難しい言葉で応じた。照れ隠しばかりで言っているわけではない。半分は本心である。


「やだ、それじゃ緊張しちゃいますよ。シャーロットさんとも一度ゆっくりお話ししたかったんです」

「そ、そう。いいけど、ロバートと歩いてくるなら今からでも遅くはないわよ」


 これだ。いちいちシャーロットのほうに絡んできたのではデートイベントにならないではないか。渋面にならずにはいられない。

 ピクニックに来たことについては後悔していない。マシューが参加するという嬉しい誤算のおかげあって実は浮かれている。

 意義だってある。「若緑」の記憶を掘り返してみると、確かにロバートとヒロインにはピクニックイベントがあるのだ。シナリオ中盤で起こるイベントだ。それに照らし合わせるならば、今現在の段階でロバートとエミリの交流は順調に進んでいると言っていい。

 問題はゲームと違って彼らが二人きりでないことだ。

 シャーロットは素知らぬ顔でサンドイッチをかじるマシューを横目に見た。

 彼の存在は嬉しい誤算ではあったが、誤算には違いない。マシューまでこの場にいるとなると、エミリとロバートを二人きりにするというのはもうシャーロットの力ではできそうになかった。

 しばらくは好機を計るしかなさそうだ。



「いい天気だし、こんな青空の下でお茶会を楽しめるなんて最高ですね!」


 晴れ空に負けず朗々としたエミリの声が夏の空気に響く。


「そんなに気に入ってもらえたなら準備した甲斐があったよ」

「こんな機会をありがとうございます。このあたりに来た醍醐味だって感じがします」

「醍醐味って?」

「こんなに緑が多くて空が広いところ、私住んだことがないんです。都は建物も人も多くて、小さい公衆庭園か郊外しか」

「都会の人はそういう感覚なの。ロバート連れてこのあたり案内してもらってきたら?」

「なぜ頑なに俺を追い出したがる」

「……じゃあ、都はどんな感じなんだ」


 ふいにマシューが話に入ってきた。黙って聞き役に徹することの多い彼が積極的に口を挟むのは珍しいことだった。

 シャーロットは彼のほうにくぎ付けになった。


「都がどんなかですか?」

「俺は都には行ったことないから。住んでる人からするとどうなのか」

「そうですね……一番違うのは空気かな。こっちよりもずっと埃っぽくて煙たいんですよ。あと場所にもよるけど遅くまで通りがうるさかったり」

「エミリ、それじゃあまるで都に欠点しかないみたいに聞こえるぞ」

「あー、もちろんいいところだってたくさんありますよ! 賑やかだし、劇場やお店が多くて――」


 マシューは生の声でもたらされる都会の話に熱心に聞き入っている。

 ロバートがあごに手を添え考えながら相槌を打つ。


「確かに人の手が入った庭園は市街地に多かったが、ここのようなところではなかったな。それも都会らしくて面白いと思っていたが、住民としてはそういう感覚になるのか」

「お詳しいんですね、ロバートさん」

「ロバート、都の名門に通っていたのよ」


 シャーロットは何気ない顔をして話に加わった。

 貴族の子息が多く在籍する伝統校だ。ロバートは十二歳からその寮に住んでいた。

 ロバートは頷く。


「中心街からは離れていたけれど、何年かはあちらにいた」

「そういえば前にそう聞きました」


 エミリはほうと息をついた。彼女には貴族社会の文化について聞くと飲み込むのに時間を要する癖がある。


「知らなかっただけで案外近くに暮らしていたんだな」

「そうですね! じゃあこちらからはしばらく離れていたんですか?」

「そうだな、去年まで生活の拠点はほぼあちらだった」

「戻るのは長い休みの時くらいだったわね。その時はしばらく町にいたから一応この土地の人間だって感覚は忘れなかったわ、一応は」

「一応を強調するな」


 シャーロットとロバートは軽口を叩きあう。エミリとマシューは小さく笑った。


「幼馴染とは聞いてたけど、やっぱり仲いいなあ。ちょっとうらやましいです」

「そうだろうね」

「?」

「別に、うらやむようなものじゃないわ。融通の利かない兄みたいなものよ」

「傍若無人な妹のようなものだ」

「ちょっと、だれが傍若無人よ」

「こっちの台詞だ」


 エミリは吹き出した。

 声を上げてころころと笑うエミリをまじまじと見て、シャーロットは一言発した。


「顔赤いわよ」

「えっそうですか? やだ、気分が盛り上がっちゃったみたいで。おかしいな」


 エミリはわざとらしく明るい声を上げた後、一息に飲み干したティーカップを伏せて立ち上がる。


「私ちょっと歩いてきます! せっかくの原風景なんで!」


 言うが早いか、宣言通り彼女は一人でザクザクと芝生を踏みしめて丘の裏側へ降りて行ってしまう。

 シャーロットはその背中を半ば呆れつつ見送った。

 とっくにわかってはいたが行動が読めない娘だ。前回のお茶会でもド天然でこちらの予想を裏切ったことだし、もうあのフラグクラッシャーは天性のものだ。誘導のしようがない。

 誘導するのならむしろ彼のほうが楽だろう。

 シャーロットはロバートに水を向けた。


「一人で歩かせるのは不安じゃない? ついていっておあげなさいよ」

「ああ」


 ロバートはすぐさま立ち上がる。シャーロットが言わずとも自ずから追いかけていたであろう反応の良さだった。


「二人は楽にしていてくれ」


 そう言い残すとロバートは丘の向こうを降りてゆき、広がる草地へと消えた。

 すんなりと席を立ってくれた彼を見送りシャーロットは安堵する。ロバートとエミリを予定通り二人にできた。何かしらの進展があってくれればよいのだが。

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