なし崩しのティーパーティー(4)
キングズリー邸の庭園は広いが、徒歩で回れる程度だからそう大きくはない。時間稼ぎをしようにもすぐに一周できてしまう。
適当に庭園内をぶらついたり芝をちぎったりして時間をつぶし、五分も経ったかという頃に元の場所の近くまで戻ってみる。野性的な植物の多い庭は身をひそめるには絶好だ。
二人からは見えづらくかつ声は届くくらいの位置を見つけ、低木の陰に身をひそめて耳をそばだてる。
「――なにか別の予定があったのか?」
「はい、本当は農園を見に行こうと思ってたんですけど、シャーロットさんに散歩に誘われて」
シャーロットが席を外しているうちに、二人でも盛り上がるくらいに空気はほどけていたようだ。緊張していたエミリも落ち着いて雑談に興じられるほどになっているし、ロバートも気の緩んだ笑顔で話している。
なかなか良い雰囲気なのではないか。花盛りの庭園に身分違いの男女が二人きりというシチュエーションを見れば、ロマンス小説にでもありそうな一場面だ。
さらに話の内容をよく聞こうと、聴覚に意識を集中させる。
「仲良くなったんだな。彼女は気難しいところがあるから振り回されているんじゃないか?」
「そんなことないですよ! いろいろ教えてくださるのでむしろこっちが感謝してるんです」
「そうか……ありがとう、幼馴染と仲良くしてくれて」
「とんでもないです」
「一人で外に出なくてよかったよ。町の外は時々車が走っているから」
「そうなんですか。シャーロットさんも危ないって言ってました」
「それでか」
「はい。……」
「……シャーリー遅いな」
「遅いですね」
シャーロットは地面を殴った。柔らかい下草がこぶしを受け止めたので幸いにも音はしなかった。
どうしてのんきな世間話に花を咲かせる。どうしてシャーロットの話になる。
まさか俗にいう好感度不足というやつか。それともロバートが堅物すぎるせいか。
実際シャーロットからしてみれば、幼馴染のロバートは前世のゲームで見たようなヒロインに愛を囁くメインヒーローよりも、生真面目堅物朴念仁な常識人であるほうがしっくりくる。
とはいえ今この場で見たいロバートはそっちじゃないのだ。早くエミリをデートに誘うか、そうでないにしてもせめてもう少し色気のある話をしてほしい。
シャーロットは茂みの陰から抜け出して東屋へと歩み寄った。
「ロバート、ちょっとこっち来なさい」
「どうした」
「いいから」
落ち着いた口調ながら有無を言わさぬ剣幕につられ、ロバートはおとなしく先ほどシャーロットが隠れていた茂みの陰まで引きずられてきた。
「ロバート、あなたもう少し実りある会話できないの」
「聞いていたのか?」
「いいから」
シャーロットは据わった眼でロバートを睨む。
「最近彼女とよく会ってるんでしょ。単なる一旅行者相手じゃないくらい仲が良いみたいじゃない。あんな社交辞令みたいな話だけでつまらなくないの」
「急にくだけて話すのも失礼だろう。それに、よく会うといっても偶然出くわすだけのことも多いのだし」
「じゃあなおさら次の約束でもしたらいいでしょう!」
エミリに聞こえないようひそめていた声を強めて叱責した。
やはりこの男は頭が固いのだ。半分は自身の計画のため、半分は本気で、シャーロットは強く主張する。
ロバートは女性をそう気安く誘うのは……と消え入るような声でしばらくうめいていた。さんざん戸惑った末に、納得したようなそうでないような顔で頷いた。
シャーロットはロバートと共に東屋に戻った。
一人待たされていたエミリがどうかしたのかと問うのを、何でもないと流す。接待役によりカップに茶が注がれ、茶席は元の平穏を取り戻した。
「――その、ところでだが、エミリ」
雑談のさなか、ロバートがついにそう切り出した。
「さっき外の農園に行きたいと話していただろう。今日行く予定を先送りにしたというのなら、今度俺と一緒に行かないか」
案内役がいた方がいいとかその方が安全だとかせっかくの旅行なのだからとか言い訳しながらロバートはそう提案する。
よく言った。シャーロットは内心で拍手を送った。ああも渋っていた堅物がうまく誘いを切り出せたのだから上出来だ。
エミリは目を丸くして助言を乞うかのようにシャーロットを見る。
シャーロットは一つ頷いて見せる。
エミリはそれで心意気を得たようだった。
ロバートに向き直り、はい、と元気良く応じる。
「じゃあ三人でピクニックですね!」
シャーロットは思わずロバートと目を見合わせた。
聞き間違いだろうか。
「三人?」
「ロバートさん、シャーロットさん、私」
エミリはご丁寧に手で一人一人示しながら
聞き間違いではなかったらしい。彼女はこの三人で出かけるつもり満々のようだ。
「いやいやいや、私はいいわよ、行かないわよ。二人で行ってきなさいよ」
「でもきっとピクニックは大人数のほうが楽しいですよ」
「いいじゃないロバートと二人でピクニック。楽しいわよきっと」
彼女にはデートに誘われた自覚はないのだろうか。そもそも本当にロバートと仲良くなりたいのかエミリよ。
シャーロットは目でロバートに助け舟を求めた。
「エミリがそのほうがいいのなら、ぜひシャーリーも」
あえなく背後から撃たれるに終わった。
思えばシャーロットの知る堅物ロバートが軽率に女性と二人きりになる場を作ろうとしないのは当たり前だった。
おそらくきっぱりと断れば無理強いはされないだろう。
しかしシャーロットがここで辞すれば約束自体がお流れになる可能性は少なくない。
「若緑」メインルートのシナリオでは次の予定はたぶんこのピクニックだ。そうでなかったとしても、シャーロットは彼らの接近機会を自らの手でつぶすことになってしまう。少なくとも一緒の外出は仲を深める機会としては絶好のはずなのだ。
脳内で煩悶を繰り広げたあげく、ついにシャーロットは了承の言葉を腹の底からしぼり出した。




