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なし崩しのティーパーティー(3)

 堅苦しくなく、それと家人の視線が屋敷内ほど多くないということで、移す場は庭の端、母屋の外壁近くに設えられた東屋となった。

 鉄の骨組みで拵えられた東屋の中央には、白い石で造られた円卓が固定されている。背もたれ付きの鉄製の椅子が三脚並べられているが等間隔ではなく、接待役――すなわちロバートと客人たちが互いに向かい合って座るように設えられている。娘二人が隣り合って座るようになっているということは、使用人たちにはエミリがシャーロット側の連れであると理解されたのだろう。事実でこそないが、この場においては一番面倒のない誤解ではある。


「うわー……!」


 二人のメイドによって運ばれてきた茶器と菓子のトレイを前にしてエミリは光を目にためている。泣き出すかとぎょっとしたが、どうも円卓いっぱいに並んだ茶と茶菓子に見入っているだけのようだ。

 バターの香りのする黄金色の焼き菓子や、瑞々しい野菜を挟んだ薄いサンドイッチが三人分載った、陶製のトレイスタンド。白磁のカップになみなみと注がれた紅茶からは、芳しい香りを含んだ湯気が立ち上る。

 急に押し掛けたわりには上等な茶席だ。キングズリー邸の使用人は優秀なようである。


「急ごしらえの席ですまないが、まあ楽しんでくれ」

「急ごしらえだなんてそんな……! こんな立派なお茶会、私初めてです」


 貴族の茶会になど慣れていないエミリにとっては、それなりに良い、どころでは済まないのだろう。

 もてなし役のロバートに促され、シャーロットはゆったりとカップに口をつける。エミリはシャーロットの動作をつぶさに見てからようやく手元のカップを持ち上げた。


「すごい。いい香り」


 茶を一口含み、エミリは弾かれたように感嘆の声を上げる。素直な反応がほほえましい。よかったとロバートが受け答え、二人の間に和やかな空気が流れる。


 シャーロットはテーブルクロスの陰で人知れずガッツポーズを作った。

 ここまでは順調だ。ロバートとエミリがお茶をするというゲーム通りのシチュエーションだ。

 あとはさりげなくシャーロットが中座すればよいだけだ。

 何気ない風を装いながらそのタイミングを待つ。


「お菓子もすごくおいしそうですね」

「ああ、うちの厨房の得意の品だ。味わってくれれば職人たちも喜ぶ」

「はい、ぜひ! ……ええと、それじゃあシャーロットさんお先にどうぞ!」

「え? ああ、どうも」


 不自然でないよう出された分の菓子には手を付けておこうと卓上のトレイに目を移したとき、エミリがこちらに熱心に視線を注いでいたことに気づく。皿からサンドイッチを一切れ取り上げると、エミリは同じように一切れ手に取った。シャーロットがパンの最後のひとかけらを飲み込むのに一拍遅れて、彼女も食べ終える。

 横目に観察していると、模倣の理由にうすうす察しが付く。

 指摘するのもなんだか妙なので黙っていると、エミリのほうから小声で切り出してきた。


「シャーロットさん、この後どうすればいいんでしょう……」


 思った通りだ。シャーロットは眉間にしわを寄せた。

 つまりエミリは茶会の作法がわからないのだ。シャーロットも小さいころは決まりごとがわからず大人たちの振舞いを見て真似ていた覚えがある。気持ちは分かった。


 ただ、今聞かれても困る。シャーロットが席を外せない。

 ロバートの目を気にしているのなら健気だが、その彼だって格式にこだわる面子でないことくらい心得ているだろうに。


「別にかしこまった席でないんだから普通に食べたり飲んだりすればいいのよ」

「その"普通"がわからないんですっ」


 ひそひそと囁くと、必死な声音でそう返された。

 非常に面倒ではあったがつっぱねて席を離れるほど薄情にもなれず、シャーロットはエミリに肩を寄せた。茶菓子に手を付ける順番はこう、茶の注ぎ方はこう、と手早く注意点を並べる。

 エミリが力強く頷いて円卓に向き直ったところで密談は終了した。

 エミリの面持ち、動きは依然緊張にぎこちない。シャーロットははらはらして見守る。


「どうだろう、口には合うかな?」

「………………」

「エミリ?」

「美味しいですって!!」

「? そうなのか? いやそれならいいんだが」


 カップを砕きそうな眼力で睨み据えるエミリは返事をする余裕も失っていた。シャーロットはその背中に一発バシンと平手を入れ打音を威勢良い叫びでごまかした。

 これでは人見知りする子供とその世話を焼く親である。親が子をひっぱたくかはさておき。

 エミリは目を白黒させていた。


「しゃ、シャーロットさん、痛いですよ」

「周りを見ないのがだめなのよ。とにかく接待役に合わせれば間違いはないから」


 小さく言い置き、シャーロットはまだ温かい茶を一息に飲み干すと立ち上がった。


「シャーリー?」

「久しぶりに庭を見させてもらうわ。じきに戻るから気にしないで」


 自然に席を外せる理由をこじつけた。勝手に立ち上がるのも場によっては咎められるだろうが、幸いここにいるのは作法を気にしなくていい相手だけだ。

 言外についてくるなと主張して、シャーロットは東屋に背を向けた。

 あとは二人きりでしか出来ない話でもしているがいい。こう、愛の言葉とか。

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