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なし崩しのティーパーティー(2)

 レンガ造りの住宅が立ち並ぶ広場周りから東へと道なりに歩くと徐々に建物はまばらになり、奥まった教会へ向かう分かれ道を境として民家の列が途絶える。そこまで行くと通りの先に門が、さらにその向こうには大きな屋敷が立ちふさがっているのが見える。 

 長い並木道を通って平地を横断しないとたどり着けないシャーロットの屋敷とは異なって町に近いそこが、ロバートの生家、キングズリー邸だ。


 町は一通り回ったと言っていたから、この場所のこともすでに知っていたのだろう。

 エミリは屋敷とシャーロットを交互に見比べる。


「シャーロットさん、たしかここって」


 立ち入る前から戸惑い始めたエミリを先導するようにシャーロットは門をくぐった。


「勝手に入っちゃっていいんですか?」

「門が開いている時はいいのよ。町の人も来るし。今は私もいるんだし大丈夫よ」


 庭を二つに割るように敷かれた玄関までの道に踏み入る。屋敷の前庭は歩き回るに十分なほどの広さで、土地いっぱいに花壇や植木が整えられた美しいガーデニングになっている。

 屋敷の主人はそれらを住民にも開放しようという意向らしく、この庭には時折町の人が目を和ませに訪れている。そういうこともあって、町とキングズリー家の距離は近い。

 そのためか次期当主であるロバートも町に出て人々と交流をはかる姿がよく見られた。名士の跡取りとしてよく信頼される男だ。



 門から邸宅へと続く小道はレンガで舗装されており、その両側の敷地には色とりどりの花が広がっている。芝地に直に植えられた低木や草は思い思いに伸びていて、植物の合間にさりげなく造られた細い通り道ばかりが、人の手が加わっていることを示している。好き放題に茂ったようで実はそれなりに整えられた、天然に近い庭園だ。


 エミリは華やかな庭や植木の向こう側に見える屋敷を見て、大きく目を見開いたまま忙しなくキョロキョロと首を動かしていた。信じられないものでも見ているかのようだ。


「ちゃんと入るのは初めてなの?」

「はい……ロバートさんのお家なんですよね? 個人の家でここまで大きい建物があるだなんて、びっくりしました」


 エミリはどうやら貴族世界の規模に衝撃を受けていたようだ。

 その気持ちはわからないでもない。このあたりでロバートの家ほど大きいのはシャーロットの生家くらいだ。それに貴族の屋敷がこう狭い範囲に二つも三つもあるのがこの地方の珍しいところなのである。

 それこそエミリの家があるという都会にこそ大邸宅の立ち並ぶ高級住宅街はあるはずだが――まあ生活区が違えば足を向ける機会もなかっただろうし、反応はこんなものだろう。


 自邸に招いてみたらどんな顔をするだろうとひそかにいたずら心を躍らせるシャーロットの耳に、重い扉の動く音がした。


 玄関口に出てきたのはロバートだった。

 彼は庭先に堂々と立っているシャーロットを見るとぎょっとして、そのかたわらに立つエミリを見てますますぎょっとした。車寄せから走り出てきて、シャーロットらに駆け寄る。


「何をやっているんだ」

「なによ人を不審者みたいに。私はただ彼女とお庭を見ていただけ。ねえエミリ」


 シャーロットはエミリの両肩をつかんで引き寄せる。

 エミリは照れたようにはにかんでのんきにロバートさんこんにちはなどと挨拶した。

 

「……そうか、その、二人で来たのか?」

「そうよ」

「シャーロットさんが誘ってくれたんです」


 ロバートは目をむいてシャーロットを顧みた。それから明るい空を見る時のように目を細めると、ゆっくりと頷いた。


「そうか……それは……ようこそ」

「何よその微妙な反応。私に限っては敷地を開放しないとでも言うのかしら」

「いや、そんな決まりはない」

「真面目に答えないでよ。あったら困るわよ」

「そうだ、君もいつでもきていいぞ」

「わ、いいんですか。ありがとうございます」


 わきあいあいと談笑する二人を横目に、シャーロットはこの場を抜ける算段をつけようと考える。

 今日の予定はエミリとロバートのお茶会。シャーロットはいないはずなのでここから離れる必要がある。


 その一方で、二人から目を離すこともはばかられた。決して野次馬根性とかそういう話ではない。

 エミリとロバートのお茶会イベント。言葉にするだけなら簡単だ。そこまでこぎつけるのも、おそらくは。

 しかしその中にも段取りというものがある。

 予定調和が案外簡単に曲がることをシャーロットはすでに知っている。

 ましてロバートは堅物だ。礼儀こそ欠かさないが、自分から妙齢の女性を親しい場に誘うとは考えられない。

 そんな堅物に後を任せて、はたしてエミリが長居していくだろうか。

 二人で茶を共にするにまで至らず、気持ちよく別れの挨拶をする未来が容易に想像できてしまう。

 今までだってすべて見てきたわけじゃない。心配しすぎかもしれない。

 だが。


 シャーロットは苦肉の策に出た。

「……ねえロバート、こうして立ち話もなんだし、寄っていってもいいかしら。せっかく会ったんだから」

「うちにか?」


 ロバートはわずかに難色を示した。


「都合が悪いかしら?」

「悪いとは言わないが……急に君たちを招くとなると、いろいろとな」


 そう言うだろうとは思っていた。

 若い男が未婚の娘を屋敷に招待したとなればまず接待の用意をする使用人を驚かせる。さらに悪くすれば使用人じゅうが色めき立つ。

 幼馴染のシャーロットはともかくとしても、エミリを連れて行けばあれは誰だと家中で噂になって仕方ないだろう。厳しい家に育ったロバートは気にするに違いない。石頭め。やはり放っておいたらなんのアクションも起こさなかっただろう。

 シャーロットは引き下がりはしない。


「エミリなら私の連れだと言えばいいわ。いいでしょ、別に公式の場に連れて行けっていうんじゃないんだから」

「それはそうだが」

「あの、ご迷惑だったら私は帰りましょうか」


 遠慮がちなことをいうエミリのブラウスの背中をわしづかみ、その耳元でそっと囁く。


「ロバートと親しくなる機会を台無しにしたくなかったら黙っていなさい」


 エミリは口を横一直線に引き結んだ。

 ロバートは見るからに疑わしげな目でシャーロットを見た。

 が、エミリの言葉が決め手となったか最終的には了承し、使用人に支度を頼みに邸内へと踵を返した。

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