なし崩しのティーパーティー(1)
シャーロットは広場の隅に立っている。
町の小さな広場には昼下がりののどかな時間ということもあって、町民がしばしば横切っていく。
領主の令嬢を見つけてすれ違いざま挨拶をしていく人々にその都度返事をしながら、シャーロットはエミリが現れるのを待っていた。
今日のシャーロットはライバルイベントのために来ているわけではない。
実のところゲームでのシャーロットはシナリオ後期まで出張るわけではなく、ある時期になると出番が大幅に減る。もともとの役割がメインルート導入のにぎやかしのようなものだからだ。
この後ヒロインがロバートとより親密になると、彼が家柄や役割からくる精神的重圧に悩まされていることが打ち明けられるようになる。ヒロインとの交流の中で気持ちを癒されて身の回りの問題を解決した彼は、ヒロインが田舎町での滞在期間を終えて都会へ帰る前に彼女に想いを告げ、再びこの土地に迎え入れることを約束する。そういうシナリオだった。この段階まで来るとシャーロットが出る幕はない。
たしかにいい加減恋愛の行く末に集中したい時期に入ってまでそう長々とライバルに絡まれては、恋愛ゲームをプレイする側にしてみればたまったものではないだろう。それにしても扱いがしょっぱいが。
ゲームのシナリオにおいてどうかはさておき、今のシャーロットとしてはライバル役を引退することはやぶさかではない。エミリとロバートを好い仲にするのが主目的だから、彼のルートが軌道に乗りさえすればあとは何でもよかった。端から女の子をいじめる趣味もないのだし。
とはいえ、はっきりそうとわかるまでは安心もできない。
特に懸念すべきはエミリの行動だ。
ヒロインの特権なのか何なのか、彼女のとる行動はたびたび予想の外を行く。シナリオ内で規定されていたのとは違うことをするのだ。
今のエミリは「プレイヤー」でも「ヒロイン」でもないから、そもそもの「攻略してやろう」という気概に欠けているのは仕方ないと納得は出来る。が、ただただ困る。
そのためシャーロットは自分のイベントでもないのにこうして町まで出向いたのだった。
予定では今日、エミリとロバートが日中お茶を共にするイベントがあった。それも場所がロバートの家だ。家に招くというのはプライベートな事柄であり、親密さを示す合図の一種である。
おまけにこの茶会イベントの発生が、後のデートイベント発生のフラグとなっているのである。
であるからにはどうかエミリには逃してほしくないところだ。
だがあのおてんば娘がちゃんとイベント通りに動くのか、シャーロットには心配である。
これまでならばそこまで心配はしなかったかもしれない。
だが一度対面して言葉を交わしてみるとどうも情が湧いてしまうものだ。エミリの背を押してやろうという気になった。半分はあのフラグクラッシャーが何をするかわからないと改めて確認したというのもあるが。
ともかくシャーロットはここでひとつ、ロバートがらみのイベントを見張ってみることにした。
しばらく木陰で待機していると、エミリはじきに宿から姿を現した。小ぶりなポシェットを肩にかけた子供らしいシルエットが飾り気のないブーツとあいまって活動的な印象の格好だ。
シャーロットはすぐさまエミリへと近づく。
彼女のほうも前方から歩いてきたシャーロットにすぐ気づき、表情を明るくした。
「あ、シャーロットさん! こんにちは」
「ごきげんよう」
「たしか道向こうのお屋敷にお住まいなんですよね。こっちにはよく来るんですか?」
「ええ時々。今日はたまたま供の者を連れてきていないのだけど」
本当はマシュー目当てに町には週三の頻度で来ているし普段から一人であるが、シャーロットは無駄に見栄を張った。
それにしてもつんけんしなくていいのが楽である。
エミリはそうなんですねと相槌を打った。
「買い物とかですか?」
「いえ、用というほどのものではないわ」
「お散歩ですか。私も今日はこれからちょっと出歩くつもりなんです」
それじゃ、と言って揚々と西へ歩き出したエミリのポシェットの紐をシャーロットはひっつかんだ。
ロバート宅はここから東である。
「わあ! どうしたんですかシャーロットさん」
「どうしたじゃないわよ、ちょっと、どこへ行くの?」
「私ですか? ちょっと行ったとこにあるっていう農園を見に行こうかなって。ここ何日かでけっこう町の中見ちゃったんで」
あっけらかんとしてああ驚いたと言うエミリのかたわらで、シャーロットは脱力感に肩を落とした。
まるで観光である。ロバートを攻略する気はあるのか。そうなじりたくもなったが、よくよく考えれば彼女は旅行者である。旅行に来て周辺を物見遊山して回るのは正しい姿ではある。
地元民としては和やかに見送れてもシャーロットとしてはそういうわけにはいかない。必死でエミリを引き留める理由を考えた。
「あ、あんまり慣れていない場所を女の子一人で出歩くなんて危ないわよ。そういうのはまたにして、今日は私の散歩に付き合わない?」
それは急場しのぎの提案であった。
目的なくぶらつくように装って、さりげなく所定の場所に誘導する。エミリを引き留めること、イベントを起こすこと、両方を可能にするための苦肉の策である。
シャーロットまでその場に行くつもりはなかったが、ほかに真っ当なごまかし方もなかった。
エミリは町外散策に未練があるのかしばらく悩むそぶりを見せていた。
だがついには、そういうことなら、と納得した。




