表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

命散る、宇宙

 日本料理と西洋料理による戦争。後に「昼食戦争」と呼ばれるこの戦争は、意外にも穏やかなものであった。

 互いが互いのスパイを陣営に送り込む。局地で行われる物資の奪い合い。様子見という名の小競り合いが、各地で繰り広げられた。


 だが、その膠着もある兵器をきっかけに動き出そうとしていた。


 西洋料理側による人型兵器『ウォリアー』の開発。

 人型汎用作業機械『ワーカー』を偽装し、日本料理側の陣地で組み立てられたこの兵器は彼らに甚大な被害を与え、西洋料理側に大きな戦果をもたらした。

 けれど日本料理側もこの機体を鹵獲し、研究及び開発。結局、この『ウォリアー』は両陣営で採用されることになった。


 もちろん、この人型兵器というSFの産物が採用されるに至ったのには様々な理由がある。

 二足歩行からなる高い地形適応力に、武装交換の容易さ。それに加えて搭乗者の脳波を読みとるという操縦方法は革新的だった。

 本人が腕を動かそうと思えばウォリアーの腕が動くし、本人が走ろうとすればウォリアーは大地を駆ける。素人でも多少の指導さえ受ければ、十分乗りこなせたのだ。


 この訓練期間の短さが、万人を戦場へと駆り立てた。自らの体と同じように動かせる、というのはそのまま兵士としての訓練が役立つということは言わずもがなであろう。

 かくして、戦士の名を冠したこの十メートルの巨人は戦場で目覚ましい活躍を上げ、戦車や戦闘機を古きものにしていった。

 故にこのウォリアーは両軍共に頼もしき存在であり、同時に憎き存在であった。


 もちろん、人型兵器の有用性が疑問視される意見もある。


 だがしかし、ここは脳内世界である。

 ころっけぱんだという宿主が「強そうじゃん」と思った時点で、その兵器はこの世界で強い。戦車よりも戦艦よりも戦闘機よりも、戦う人型ロボットはインパクトが強かったのである。


 だからこそ、このウォリアーは戦った。荒野で街で、海で空で。

 ありとあらゆる場所で戦ったのである。


 もちろん宇宙でも。



「戦局は、正直に申しますと……。不利です」



 長きに渡り続いた昼食戦争も、この広大な宇宙という戦場で決着を迎えようとしていた。


「攻撃性能で我々の量産機『ナイト』は勝りますが、彼らの防御に優れた『サキモリ』は生存性が高く残存兵力との連携が……」


 西洋料理軍、戦闘母艦ローズの会議室で参謀役や幹部達がローザに戦況を述べる。

 宇宙空間における戦闘の主役は依然ウォリアーであるが、それらの輸送や整備において帰るべき『船』は必要なのである。

 そして彼らのような司令塔が控える場としても不可欠だ。


「もうよろしい。私が出ます」


 母船の指令室で彼女の透き通った声が響いた。そして全身タイツのような黒のパイロットスーツに身を包んだローザが立ち上がった。

 そして一瞬の静寂が訪れるが、すぐさま慌てた声が部屋に溢れる。


「ローザ様、ご自身がですか!」

「元はと言えば私とよしこさんの問題です。例の『アシュラ』で出ます。用意なさい!」

「は、はい!」


 ウォリアーはその特殊な操作システムにより、個人の才による力量さというものが大きく出る。

 同じ機体に乗ったとしても凡人と天才ではその戦果は天と地ほどの差があり、彼女のように全体を指揮する者であっても自らウォリアーで戦場に出るのは十分選択肢に入る。


「ローザ! 機体名アシュラ、出ます!」


 バシュンという射出音とともにカタパルトから宇宙に放られたのは、黒の人型。暗い宇宙で機体の赤いセンサーアイが怪しく光り、二本の線となる。

 特徴的なのは四本の腕部パーツだ。量産型には採用されていないこの四本腕を持つ機体アシュラは、ローザ専用機である。


 アシュラの背部のバーニアを吹かせ宙を駆ける。

 その周囲では数多のウォリアーが戦い、散っていく。その所属が自軍であろうと敵軍であろうと、それらの中に下級概念がいるということを思うとローザは顔をしかめずにはいられない。


「ローザ、覚悟!」

「よしこ様のところへは行かせません!」


 もちろん彼女も狙われる。

 取り囲むは四機の緑の機体、日本料理側の量産機「サキモリ」である。


「四機でかかれば流石の上級概念もーっ!」

「雑魚は引っ込んでなさい!」


 四機のサキモリのライフルがアシュラを捉えるが、致命傷には至らない。

 それに対しアシュラの四本の腕、それぞれが同時に携行していたウォリアー用ライフルを握り斉射する。

 もちろん弾をばら撒いているわけではない。


「そんな、い、一瞬で!」

「まさか、同時に四機をっ! グワァーッ!」


 向かってきた四機はなす術なく爆発四散。装甲が厚いサキモリも、急所を狙った正確な射撃ではどうしようもなかった。

 同時に四本の腕を稼働させ、それを使いこなせるローザの機体適正のなせる技だ。


「……無駄に殺させてっ!」


 残骸を睨み吐き捨てたセリフ。感傷に浸る暇などなく、再び彼女は宇宙を駆ける。

 彼女には倒さなくてはいけない相手がいるのだ。この戦争を終わらせる義務があるのだ。


「……発見ですわ!」


 その相手が見つかった。

 ローザはフルスロットルで狙った獲物の下へ向かう。


「あーらあらあらよしこさん! ずいぶんとずんぐりむっくりなお恰好でいらっしゃることね!」


 相対するは白の機体。手足こそ判別できるが、もはや人型と言っていいのかわからぬほど球状に近い形であり、そのパーツのほとんどが曲面で構成されている。

 ローザの「ずんぐりむっくり」という表現は、的を射ている。


「異形なのはそちらも同じことでしょう、ローザ。それに私はこの戦いに勝つために、この機体を選び乗っているのです。和風キノコパスタを昼食にするために……!」


 元々日本料理側のウォリアーはコンセプトとして残存兵力との連携を高めるために、少しでも生存性が高く設計されている。

 その中でもよしこの機体『ダルマ』はより防御に特化した機体だ。曲面装甲を採用し、圧倒的な射撃耐性を持つこの機体は生半可なウォリアーの攻撃を無効化する。


「ふん、ぶざまねよしこさん!」


 だが、そんなことなど知ったことかと、アシュラの四本腕が稼働する。


「そうやっていつまでもパスタもどきに固執して! 執着して! 離れられなくて! あなたはこの戦場で! 他のヤツラと同じように死んでいくのだわ!」


 アシュラの猛攻が止まらない。

 四本腕による射撃に隙は無く、ダルマに反撃のチャンスを与えない。

 だが、その攻撃を受けきるのがダルマだ。腕部一体型のシールドでその射撃を弾いていく。


「ぶざまなのは今のあなたです!」

「なにっ! ぐぁっ!」


 慣性を無視して突如静止するローザのアシュラ。

 反動で彼女の肺の中の空気が押しつぶされる。それにより激しい痛みが生じるが、そんなことを気にしている暇などない。

 アシュラの左右には見えない「何か」がいるのだから。


「ステルス機を使って直接腕をっ!」

「失敗作と言われた試験機でもぉっ!」

「こういう使い方があるーっ!」


 姿を現したのは二機の黒いウォリアー。

 日本料理陣営が開発した、このステルスウォリアー『ダンゾウ』は失敗作だ。

 複雑な光学迷彩を積み込むために余剰積載は犠牲となり、積める武装はほぼない。そんな機体でできることは偵察と格闘戦による拘束のみであり、通常の戦場ならば彼らに出番はなかった。


 だが、役割はあった。

 隠れて近づき、その動きを止める。隙のないアシュラに、完全な隙を作る。それこそがこの昼食戦争におけるダンゾウの唯一の役目。


「攻撃手段を失ったその機体では何もできないでしょう! お覚悟ーっ!」


 彼らが掴んだチャンスを、無駄にはさせない。その意志を持ってダルマは刀剣型武装レーザーブレードを取り出し振りかぶる。

 射撃武器とは違って射程こそないレーザーブレードであるが、その攻撃は当たりさえすれば敵機に致命傷を与える。火力に乏しい日本料理側の切り札だ。


 青白く光る刀身がアシュラに迫る。

 この昼食戦争もこれで決着がつく。この場の三名が、そう思っていた。


「ちぃっ! また私に殺させるっ!」


 だが、ローザは彼らの想像の上を行く。


 アシュラの両肩が変形し、二本のアームとなって動き出す。一見簡素に見えるこの追加アームであるが、その先からは刀剣状のレーザーが噴き出す。

 ダルマの武装と同じレーザーブレードを固定武装にしたものだ。


「なっ、そんな!」

「六本腕だから『アシュラ』なんでしょうがぁーっ!」


 無残にも切り刻まれるステルス機。

 これこそがアシュラの真骨頂。レーザーブレードを仕込んだ隠し腕による近接格闘。この初見殺しは誰も見破れず、避けられない。


「そんな、ここでっ!」

「よしこさまぁーっ!」


 哀れにも爆散する両機。そしてもちろん拘束されていた四本腕も自由になる。


 今、アシュラの姿は完全なものとなった。四本の腕による自由な武器の取り回しに、白兵戦では追加で二本のアームによるレーザーブレードが猛威を振るう。

 この合計六本の腕による隙のない戦闘こそが、アシュラの由縁なのだ。


「そんなデカい図体でぇ!」

「なっ、回避をーっ!」


 六本の腕がダルマに迫る。レーザーブレードを振り回し、ライフルを構えながら。

 一見するとがむしゃらな攻撃に思えるが、相対する者にとってその姿は正に『阿修羅』そのもの。恐怖で動くことすらままならない。

 

 だが、よしこはとっさにダルマを左後方に動かし、その攻撃を避ける。

 本来鈍重極まりない機体であるダルマであるが、バーニアを噴かせてこのような緊急回避を行うことができる。もちろん、回数に限りはあるのだが。


「あらあら引き際、お上手ですわね」

「……それほどでも」

「それで先ほど散った二人の命は報われると思って?」


 明らかな挑発を込めたローザのセリフ。機体越しでもその表情や身振りが見えるようだ。

 しかし、よしこは落ち着き払った態度で言葉を返す。


「散ったからこそ私は生きるのです。せめて、せめて彼らのためにも、私はあなたをここで金縛りにします!」

「ちっ、舐めた口をーっ!」


 感情と感情、意地と意地のぶつかり合い。

 よしことローザ、日本料理と西洋料理の戦いがこの宇宙で繰り広げられる。


 この戦争は、まだ終わらない。

こんな調子のお話です


ブックマークや感想、もちろん評価などもいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ