木陰のベンチ占領中
私は前田 友乃。高校1年生です。ピッシピシのセーラーにオレンジ色のスカーフ。膝上10センチは当たり前のプリーツスカート。高校の制服とは思えない古めかしい感じだが、私は気に入っている。だって他と違うっていいよね。
それはさておき、私の通学路にはこじんまりとした神社がある。その周りにはモコモコと木が生えていて、木陰になっている。夏場は涼しそうなのに誰も入って行かない。
夏休みも終わりに差し掛かった頃。私は部活の帰りにぼっちで歩いていた。私は美術部に入っていて同じ方面へ帰る友達が全然いないのだ。そして、あの神社の前を通ろうとしたとき。いつもは誰もいないのに中にあるベンチに座っている人がいたのだ。お!初めての使用者だ。私はほんの少しの好奇心に背中を押され無意識のうちに足が神社の方へ向かっていた。
「すみません。ここ、いつも利用されるんですか?」
私は、その人の前まで行き顔を覗き込むように少しかがんだ。下を向いて寝ているようだったからだ。・・・反応がない。熟睡中かな?なら悪いかな。私は諦めて帰ろうとしたとき、
「んんっ。・・・なんだおまえ?」
低い透き通ったイケボが耳に入ってきた。側から見てもっさい大学生かと思ってたけどもしかしたら、イケメン!?
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?ここの神社、使われている方があまりいないのでちょっと気になってしまって」
「あぁ。そう言うことか。ここは、人が寄り付かないようにしておいたからな」
男の人はぼそっと呟く。
「・・どう言うことですか?」
「ここは俺の所有物なんだ。あんまり他人に踏み荒らされたくないからな。噂をながしたんだよ」
うへ、回収することが多すぎてこんがらがるんですけど・・・。まず、この神社はこの人の物で、人が来ないのはデマの噂をながしたからで、・・ああぁ!訳わかんない。
「えっと、つまりはここはあなたの自分の家みたいな物だということですか?」
「まあそんなとこだな。それより、お前いい香りがする。美味そうだ」
男の人は私をじっと見て物欲しそうな顔をした。またまた意味わかんないですが・・私は反射的に後ずさりをしてしまう。ヤバイ人に話しかけてしまったかな?
そんな私の気持ちを読み取ってくれないのか男の人が立ち上がり近づいてきた。とても背が高くて細い。近くで見ると肌の色は病的に白くて目には微かな暗い光が隠されている。立つだけで何とも言えない威圧感があった。
「なぜ逃げる。少しじっとしていてくれないか?」
その一言で私は身動きが取れなくなってしまった。恐怖心に支配されて足はすくんで、腰がぬけそうになっ・・・
「っ!!」
男の人が私にかぶさってきた。ふわっと髪の毛のいい匂いがする。何をするのかと思いきや、
カプッ。私の首筋を噛んだのだ・・・・・か ん だ ?
「あっぁぁ」
考える暇も無く、首筋に走る痛みと共に心地よい快感が私を包む。身体が軽くなったようだ、まるで夢の中にいるみたいに・・・。このまま時が止まってしまえばいいのに・・。
男の人はしばらく動かなかったが少し経つとゆっくり離れていった。それと同時に現実の重みがずっしりと私の身体にのしかかってきた。
「・・ありがとう。おまえは思っていた通り美味かった。身体は大丈夫か?」
「ええと、身体は、重いです・・。って・・何があったんですか・・」
少し息切れしながらも私は問いかけた。わからない事だらけだからだ。
「まず言っておくが、俺は人じゃないからな。ヴァンパイヤだ」
「ヴ、ヴァンパイヤァッ!?」
「ああ、そうだ。代々この神社の守り主として住み着いているのだ。さっきしたことは、吸血。おまえもそれくらいは知っているだろう?」
ヴァンパイヤ・・マジで?確かに普通の人っぽくはないけど、ヴァンパイヤって伝説だよね。
「あー。えーと。・・本物ですか?」
「何を言っている。首筋を触ってみろ」
私は言われた通り首筋を触る。
「あっ・・・・・。」
二つ噛まれたような傷があった。本物なの?
「傷があるだろ。俺がおまえを吸血した証拠だ。信じてくれるか?」
ここまで言われてしまったら信じるしかない。私はぼーっとした感じで男の人を見ていたら、
「何だ。まだ信じてないのか?」
「いえっ。し信じてますけど・・。現実に起こり得ることなのか不思議で」
「現実だ。そんなに不思議か?・・・もう一度見せてやろうか?夢、を」
そう言うとまた私の首筋を軽く噛んだ。快感が一瞬身体を走る。
「うん。やっば美味い。それに、おまえの貪欲な本能が気に入った。また、ここに来てくれ。俺の食料としてな」
男の人は意地悪っぽい感じで言ってきた。初対面で何なの?図々し過ぎでしょ・・・。でも、もっとして欲しいと思ったことは嘘ではないけど。
「嫌です。そんな、食料扱いなんて」
「なんだ、それが嫌なのか?じゃあ。俺の女になれ。それならいいだろ?」
!?・・・えっ。つまり彼女になるってこと?
唐突な発言過ぎてまたまた理解が及ばないんですが・・。私が反応に困っていると、
「俺の名前は、黒田怜輝だ。レイと呼んでくれ。おまえは?」
「私は前田 友乃・・・・」
「友乃か。じゃあ、普通に友乃だな」
「いやいやいやいや。普通にとかじゃなくて、何勝手に進めてるんですか?彼女になるとか返事してないですから!」
そう、勝手に進められては困るから!彼女?意味わかんないし。・・・でも、レイさんはかっこいいからちょっとなってもいいかな、て言う気持ちもある。もやもやした葛藤が一瞬心によぎる。そしたら、レイさんが
「嫌なのか?」
悲しそうな目で私を見てきた。イケメンがやるから許されるギリギリのところ。
ドキッ。イケメン・・・。どうしようかな。初めてこんなかっこいい人に出会えたしこれも運命かな?でも初対面だよ?あやしいよ?本当にいいの?疑問符だらけの頭の中ではもう正しい答えなんてわかんないし!!
ほとんど投げやりな感じで
「わかりました!・・彼女、なってもいいですよ」
「ほんとか?やった、食料ゲットだ!」
「あの食料って言うのは辞めて貰いたいんですが」
「ん、そうか?友乃が言うなら仕方ないな・・・」
なぜか残念そうな感じで言うから私も罪悪感、感じてしまうんですけど。
「友乃。俺の目を見ろ」
唐突にレイさんが言ってきた。毎回急で命令口調なのが気になるけど
「?何するんですか」
「まだじっとしててくれ。・・・もう少しだ。」
・・・・・・・・・そのままの状態で数秒たったあと。ガバァッ。?!!
レイさんがいきなり抱きついてきた。
「んーかわいい。俺の言う通りにしてくれるぅー!もう、俺のものー」
「んーんーー!」
騙したなー!恥ずかしい。広い胸に抱かれて少し息苦しいが居心地がよくて心地よい。ふわっと、風が通り抜ける。それは私の髪を揺らして首筋をくすぐる。
「ふはぁ、何するんですかっ!」
「えっ?遊んでるだけ。あまりにかわいいから、つい・・・・」
「つい、じゃないですよ!心臓に悪いから辞めてくださいっ!」
「あははっ!嫌だね。辞めないよ?」
初対面の歪な二人。ゼロ距離の二人。不思議なヴァンパイヤと平凡な女子高生の非日常的な毎日が始まります。
「離さないから・・・・・・」
読んでくださりありがとうございます!今回は、短編を書かせていただきました。続きを書くかはまだ未定です。もし反響が大きかったら長編になる可能性もあります。どうぞご期待くださいっ!
"やす ゆうや"でしたー