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order‐5.5

それは、山下少年が散歩に出る少し前からのこと

「ただいまー」


 卓弥くんの家でみそ汁をぶちまけてしまった帰り道。


 シャツがぬれて気持ち悪いにもかかわらず私は上機嫌だった。


「おかえりなさいませお嬢様。どうしたんですか?えらくうれしそうですけど」


「えへへー」


 私はまだ、頭を撫でてもらった余韻にひたっていた。


「頭でも撫でてもらいましたか?」


「なんでわかったの!?」


「いえ、ずっと自分の頭さわってニヤニヤしてたもんですから」


「そそそ、そんなに意識してないわよ!」


「ま、とりあえずシャワーでもあびててください。私はゴミを捨てに行きますので。代えのシャツはそこに」


「ありがと」


 さすが小野さん、準備が早い。




「ただいま戻りました」


 私がシャワーを終え着替えをしている最中、小野さんが帰ってきた。


「おかえりー」


「さきほど邸の外で山下さんに会いましたよ」


「卓弥くんが?」


「はい。散歩の最中だったのでしょうか?ゴミ袋を持ってくれましたよ」


 なるほど、確かに入学式まで時間は充分にある。引っ越してきたばかりだったし、周辺の様子を見るのも納得だ。


「散歩…か、私もいこうかな」


「やめといたほうがいいとおもうよ?」


 その女性の声は突如玄関から聞こえてきた。


聞き覚えのない声だったので玄関にむかってみると、そこにはラフというかひどくだらしないというか…そんな格好をした女の人が立っていた。今の非常にだらしない身なりでもはっきりわかる整ったスタイルと顔をした女性。


「やっほー。君がアリス少女だね?」


「あなたは…?」


文乃(あやの)、何しにきたの?」


小野さんの知り合いだろうか?


「ああそうだよ。お姉さんは小野紅葉(おのもみじ)ことそこのメイドさんの大親友さ」


 あれ?私まだ思っただけで口にはだしてないよね?ひょっとしてエスパーなのでは?というか何でこの人ショットガン背負ってるんだろうか。


「まーただらしのない格好して…それに、相変わらず何でも知ってるかのような話し方をするわね文乃は。ショットガンの手入れもばっちり」


「もちろん!私はいつだって変わらないし変えるつもりもないさ」


 え、昔からショットガン背負ってたのこの人!?


「あんたを変えられるのはあの人くらいか…」


「そうだねえ」


 あの人…とは何者だろうか?文乃さんとは初対面だが、この人が底知れぬ人物であることはなんとなくわかる


 じゃあこの人を変えられる人って一体…?


「ま、そんな話はいいんだ」


「あなたのことよ、何か言いたいことがあるんでしょ?」


「はっはーさすが紅葉ぃ、わかってるねぇ。そうそうアリス少女」


「は、はい」


「確かに山下少年は公園まで散歩をしているだろう。でも今は散歩には行かないほうがいい」


「な、なぜです?」


「ちょっとね…こじれるんだよ」


「こじれる?」


 どういうことだ?遠回しに何か伝えたいのだろうか?それともそのままの意味?

 だとすると何を…?



「もっと具体的に言ってあげて。お嬢様の頭上にクエスチョンマークが大量発生してるから」


「知らないほうがいいと思うけどなぁ」


「かまいません!私は卓弥くんのこと、もっとよく知りたいんです!」


「簡単にいうと、今彼はある女の子と運命的に出会います」


「ある女の子…?」


「そう。それも君に劣らず彼と縁のある、ね」


「何よその面白い展開!」


 何で小野さんそんなに嬉しそうなの!?今まで見たことのないレベルの明るいなんだけど!?


「それでー?彼女はどんなかんじなの?」


「彼女じゃないもん!」


「お嬢様、今のはそういう意味じゃないですよ?」


「ニヤニヤしないでよ!」


「ちなみにぃー、あっちの娘はとても積極的ぃー」


「素敵ね♪」


「小野さんは味方じゃないの!?」


「「そっちの娘に500円!」」


「私にも賭けてよ!」


 小野さんも文乃さんもノリノリ。


「もう!小野さん!私の応援してくれるんじゃなかったの!?」


「冗談ですって。私はいつでもお嬢様の味方です」


「じゃあそのニヤケ顔は何!?説得力ゼロよ!」


 この人私をおちょくる時は本当にいい顔するなぁ!


(とても積極的ぃー)


 ふと文乃さんの言葉がつきささるように頭に響く。


「積極的…」


「不安かい?」


「…やっぱりエスパーなんですか?」


「今の君の表情を見れば誰でもわかるさ」


「そう…でしょうか」


「大丈夫さ。運命ぐらい君だって感じてるだろ?」


「…」


「ま、結局どうなるかなんて私にもわからない。私はふっただけ。賽の目まではわからないんだよ」


「ふらないって選択肢は…ないんでしょうか」


「ふらなきゃあ双六は進まない。それを一番知ってるのは…そこのメイドさ」


 小野さんは沈黙していた。さっきまでの活気がウソのように。


 そのだらしない格好とは裏腹に、話をする文乃さんの目は真剣だった。


「そろそろ彼も帰ってきたころだろう。詳しい話は彼から聞きな」


そう言うと、文乃さんは玄関のほうを振り向き、


「ふられないようにね、賽にも彼にも。応援してるよ」


そう告げて、帰っていった。


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