order‐5
「ぐふぅっ」
「来斗ぉぉぉっ!?」
倒れこむ来斗。顔面にめりこむほどのパンチを二発もまともにくらったのだ、相当のダメージのはず。
まあ自業自得なんだが。
「大丈夫か来斗!?」
「い、いや、俺はもう駄目みてぇだ…」
「バカ野郎!そんなこというんじゃねえ!笑えねぇ冗談だぞ!」
「せめて最後は…美少女の膝枕で…しに…た…かっ……」
ガクッ
「来斗!?しっかりしろ!来斗!?来斗ぉぉぉぉぉぉ!!!」
「いつまで続けるのよこの茶番!」
怒られた。
「んで?あんたは何か言いたいことある?遺言なら聞いてあげるわよ」
なんということでしょう散歩しにきただけで命の危機。
しかしよくよく考えるとあそこのアパートは大家さんの機嫌によっては風穴開けられかねないし、そんなに変わらないのかもしれない。
なんて考えていたその時、
「キャンキャン!」
これはチワワ…だろうか?どこからか犬がやってきた。
首輪やリードもついているし飼い主とはぐれたのだろうか?
「ヒイッ!」
すかさず俺の陰に隠れる少女。
「何してるんですか?」
「…」
「もしかして犬が…」
「犬!?そんな可愛らしいものじゃないわ!あれは不吉の象徴、ヘルハウンドよ!」
「あんな小さなチワワがそんな物騒なものなわけないでしょ!どんだけ規模の大きい話してんですか!?」
「馬鹿ね!タンスの角で小指をぶつけただけでも実は骨折してました、みたいな話もあるのよ!?油断はならないわ!」
どこまで犬が苦手なんだろうか。
大袈裟すぎるとは思うがまあ苦手なものはしかたない。
「…じゃあ少し移動しますか」
非常に強く俺のシャツを握りしめる少女を背に、チワワから目を離しゆっくりと移動する。追いかけてくる様子はなかった。
「もう大丈夫だと思いますよ」
とりあえず公園の入口まで戻ってきた。あの感じだともう追いかけてはこないだろう。
あ、そういえば来斗を置いてきぼりにしてしまった。
まあ…あいつはなんとなく大丈夫な気がするしいいか。
「あの…」
ようやく少女は口を開いた。目は赤くなり、まだ少し涙目であった。
「あ、大丈夫…?」
「…と」
「はい?」
「運命の人!」
「?????」
「占いの通りです!」
「占い?」
「そう!今日の朝、ZYPの星占いでやってたんです!今日、公園で運命の人に出会うって!」
ZYPとは今日アリスさんが帰った後に見てたあのニュース番組のことだ。確かにあの番組では当たると評判の星占いが定番のコーナーとなっている。
「いやいやいやいや!?落ち着いてください!星占いでそういうのはさすがに」
「いいえ!それだけじゃありません!あなたは私をヘルハウンドから守ってくれました!」
「いやあれただのチワワですから!?そんなたいそうなものじゃ」
「私じゃ…いやですか…?」
「ちょ、あたったます!あたってますから!!」
「あててるんですよ?」
ほんのり紅い頬で上目遣い、腕を(胸で)絡めるという高威力のワンツーパンチ。苦しい!色んな意味で苦しい!
あ、何か良い香りがするなぁ…じゃなくて!
状況についていけず、あたふたしていると
「卓弥じゃないか、何してんの?」
リードをもった来斗が出てきた。足下にはさっきのチワワがいる。
飼い主お前かよ。
「きゃああああ!!?」
凄まじい速度で後ずさってゆく。
「いやー、まさか短時間でここまで仲が進展するとは」
「ありがとう来斗…」
「?」
いろいろと限界だったんだ。いろいろと。
「きょ、今日は帰ります!私の名前は白雪林檎、林檎とお呼びください!それでは卓弥さん、また学校で!」
そのまま林檎は帰っていった。
「え、何で学校がわかったんだ?」
「制服着てる僕が同じ学校って言ったからじゃないか?」
「なるほど」
とんでもないことになってしまった
気がする。