order‐4
謎のメイドさんと別れてしばらく歩くと、すぐ公園の入口らしき表札が見えた。
木々がいきいきと生い茂り、そこに一本の道がひかれ、奥がどれほど続いているのかがまったく伺い知れない。
大きさならさっきのお屋敷と変わらないだろう。
「拾意公園…」
いや確かに広いけどさ。
ネーミングが安直すぎやしませんか?
まだ薄暗い春の早朝。電柱にとまる小鳥の鳴き声が響く。気温は低すぎず高すぎない絶好の散歩日和。
木の板がじゃばらにしかれ、ある程度平らにされた歩道をのんびり歩く。
小鳥のさえずりやそよ風になびく木々の音が心地よい。
「スー…ハー」
まあまあ奥まで来たので一度足を止め、軽く深呼吸してみる。
目を開けると森の中に木製のベンチを見つけた。
歩きっぱなしで少し疲れたし、一回座って落ち着くか。そう思ってベンチのほうに歩み寄った俺は激しく後悔した。
一糸纏わぬ姿で、木の陰から少女が出てきたからだ。
「「ぎゃぁぁぁぁああ!!?」」
公園中に轟く二人の悲鳴に小鳥達は全て飛び立ってしまった。
何より最悪なのは、その全裸の少女とうっかり目を合わせてしまったことだ。
「ちょちょちょっとあなた!何のぞいてんのよこの変態!」
「覗いてないよ!たまたま通りかかったんです!ていうか何で全裸なんだよ服を着てください!」
「うるさいわね!私の森林浴の邪魔をするんじゃないわよ!」
「森林浴!?森林浴で全裸にはならないでしょ!?」
「なるわよ!森林浴→浴→風呂→全裸でしょうが!」
「何ですかそのトンデモ理論!?」
謎の全裸少女と言い争いをしていたその時
「ちょぉぉぉっと待ったぁ!」
突如、何者かが声をあげた。
「だ、誰!?」
そう呼びかけると、少し離れた位置の茂みがガサガサと音をたてる。
「僕さ!」
勢いよく飛び出してきたのは同い年、そして同じ学校の制服を着た少年だった。
「君ぃ!僕の趣味の邪魔をするんじゃない!」
今さっき同じようなセリフを聞いたけどこの人の趣味はわからない。一体何の邪魔をしたのだろうか。
わかるのは制服が同じ学校のものであることと手に双眼鏡を握っていることくらいだ。
…双眼鏡?
「がっつり覗いてたなテメェェェェ!」
「ぐをぉぉ!?」
俺は今日、人生で初めて人の顔に拳がめりこむ様子を見た。
「で、何で覗いてたのか聞こうかしら」
謎の全裸少女が服を着た後、俺たちは正座で説教されていた。
「だから、勘違いだって言ってるだろ!」
「そうだ!僕は覗きをする気なんてさらさらない!」
「「それはウソだろ」」
双眼鏡握りしめてたじゃねえかお前。
心地よい散歩が台無しになってしまった。しかし偶然とはいえ裸を見てしまった罪は大きい…のだと思う。
黙って説教をうけよう。
「待ってくれ!僕の話を聞いてくれ!」
「何よ」
立ち上がり何かを訴える様子。あなたに言い訳の余地はない気がするけど…。
「双眼鏡とか趣味とか言ってたし、そもそも木陰に隠れてたのよ?確実にクロでしょ」
「違うんだ!俺はバードウォッチングが趣味なんだ!だから双眼鏡を持っていたし木陰にいたんだ!」
なるほど、つまり趣味の邪魔とは俺たちの馬鹿騒ぎで鳥たちが飛び去ってしまったことについてだったのか。
早合点でものすごく失礼なことを言ってしまった。
「すいません、誤解しちゃって」
「いやいいんだ、わかってもらえれば」
「その制服、俺も同じ学校なんですよ」
「そうだったのか、僕は源来斗、来斗って呼んでくれ。君は?」
「山下卓弥」
「よろしく、卓弥」
「こちらこそ」
そう言って握手をかわした。
なんだ、とんでもない人間かと思ったけど結構良い人だった。
「ちなみにどんな鳥がいたんだ?」
「あ、途中から裸体を観察してたからまだ鳥はあまり見てないんだ」
少女の拳が来斗に再びめりこむ。