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order‐3

「殺害予告か何かだろうか…?」


 あの口を開けば罵声をあびせてくるアリスさんが素直な感謝の言葉と笑顔。


 あれはもしや余計なことをした俺への警告!?


「…」


 あの笑顔をむけられた瞬間、ドキッとしたのはきっとそういうことなのだろう。

 しかし不思議と不安な気持ちにはならない。


 今はただ、綺麗な笑顔だったなーと素直に思う。


(ありがとうございます。卓弥くん)


 ん?卓弥くん?

 その呼び方をしたのは小学生の時のあの子ぐらいだが…まさかな。


 そういえば彼女は俺がご飯派ということも知っていた。

 俺が同じ学校であることも知っていた。


 初対面のはずのアリスさんは彼女は俺のことを知っていた。


 あ、そういうことか。


 開いた左手に握った右手をぽんとつく。


「メイドだもんな」


 気づけば脈拍はいつもの程度に戻っていた。




 食器の片付けが終わり、少し休息をとる。


 暇だ。


 アリスさんが早めに起こしてくれたおかげで遅刻することはないだろう。


 二度寝する、という案もうかんだが、一度目を覚まし、朝食まですませてしまうともうしばらくは寝れない。


 テレビでは淡々と同じようなニュースを繰り返し放送している。


 女子アナウンサーはやっぱり美人だなー、くらいの感想しかでてこない。

 高校のうちに財政とか国際情勢とかちゃんと勉強しとくべきなんだろうか?


「山下しょうねーん、綺麗で優しい大家さんだよー!」


 とりとめのない考え事をかきけすように戸を叩く音と元気な呼び声が部屋に響く。


「いるのはわかっているぅ!はやく開けないと」

ジャキリ

「開けるよー」


 今扉の向こうからひどく物騒な音が聞こえましたよ!?

 大家なんだからマスターキーあるでしょ!?やり方が極端すぎるよ!


 さすがに入居二日目で玄関を吹き飛ばされるわけにはいかない。他ならぬ大家さんの手で。


「はいはいただいま!」


 急ぎ足で玄関に向かう。




「おはよう山下少年。昨日はびっくりしたことだろう」


 現在の時刻は朝の6:00。早朝にも関わらずこの人は元気はつらつ。

 相変わらずのシャツ一枚と下着だけというかなりルーズな格好には大変目のやり場に困る。


「このアパートって全部屋メイド付きなんですか?そんな説明なかったんですけど」


「いや、君の部屋だけのスペシャルな特典だよ」


 どういうことだ?


 別に家賃が他より高いとか角部屋だとかでもない普通の部屋になぜメイド?謎は深まるばかり。


「まさか、このアパート実はものすごい秘密や伝統が!?」


「よく気づいたね!そう、はるか安土桃山時代、豊臣秀吉が天下統一の足掛かりとしてこのアパートを…」


 秒速で捏造しだした。安土桃山時代にアパートなんて単語ないよ!


 と言いたいが彼女の手に持つショットガン(リロード済み)が俺を黙らせる。


「ま、それはそれとして」


「?」


「入学式はたしか10:00、暇極めてるだろ?」


「まあ、確かに」


 何で入学式の時間知ってるんだろこの人?見た感じ学生って歳ではなさそうだが。


「誰が年増だって?」


「滅相もございません。武器をお納めください若い大家さん」


「そうかい」


 この人は心を読む力でも持っているのだろうか?


「ま、暇なら散歩でもしてくるといい。今のうちにこの辺のことを知るいい機会だと思うよ」


 なるほど、確かにまだこの辺のことをよく知らない。入学式までまだ時間もあるし丁度いい。


「それじゃあ、少し行ってきます」


「ここから南東のほうに大きな公園がある。そこに行くといいよ」


「何かあるんですか?」


「一言でいうなら…出逢い、かな?まあ特に何か考える必要はないさ」


「…?」


「じゃ、私は仕事があるんで失礼するよ」


 何か意味深なセリフを残して大家さんは帰っていった。




「公園、か」


 他にやることもないので、言われた通り南東のほうにあるという公園に出向いてみることに。


「おお…」


 アパートを出て五分ほど歩いた場所にそれはあった。


 単位が東京ドーム何個分とかになるであろう、まるで漫画やアニメに出てくるような広いお屋敷

付近は普通の住宅街のため明らかに浮いている。


 ここならメイド付きと言われても疑問はない。というかメイドってこういうところにいるものだろ。

 何であんな普通のアパートに…?


 せっかくなのでお屋敷の外壁に沿ってしばらく歩いてみる。


「おはようございます」


 本当にメイドさん出てきた。いや、メイドさんならうちにも来てるんだが。


 しかし爽やかな笑顔と会釈で挨拶する彼女はまさしくメイドという感じ。間違っても下等生物なんて言葉は使わないであろう圧倒的な気品があった。


「あ、おはようございます」


 思わず一歩ひいてしまう。すると彼女の手元にゴミ袋があるのを発見。


「持ちましょうか?そのゴミ袋」

「そんな、いいんですか?」

「ええ。どうせ暇なので」

「お優しいんですね」


 そう言って少し微笑む。何というか、美しい笑顔だ。

 何か罵倒の飛んでこない会話が懐かしい。うっすら涙が出てきそうだ。


(ありがとうございます)


 今思えば、アリスさんの笑顔はこっちのメイドさんとはちょっと違う…安心感?を感じるものだった気がする。

 

 まるであの笑顔を昔から知っているかのような…?


 そんな考えが浮かんだのと、ゴミ捨て場についたのはほぼ同時だった。


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