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order‐2

 今の状況を説明しよう。目を覚ますと、布団の上にまたがるメイドさん。


「おはようございます。さっさと起きやがってください」


 入学式当日、季栄荘での初めての朝。だんだんと昨日のことを思い出してきた。どうやら夢ではなく、本当にこの部屋メイド付きだったようだ。


 てことはショットガン背負った大家さんも…?深く考えるのはよそう。


 アリスさん今日も来たんだ…。来てくれたのはありがたい、がしかしまだ眠い。春眠暁を覚えずというやつだろうか、まだまだ寝足りない。


「アリスさん…今何時ですか?」


「朝の5:00ですが?」


 早すぎるだろ。そりゃ眠いわ。


「入学式10:00からですよ」


「ヤマシタサンニハヤクアイタクテー」


「…」


 絶対ウソだ、と言いたいが彼女の手に握られた包丁を見てやめた。


「いい加減起きてください、あなたに使われている布団や枕が可哀想です」


 俺は寝具からも許されないのか。


ーーーーーーーーーー


 顔を洗い、歯を研き、洗面台から戻ってくると部屋は美味しそうな香りに包まれていた。

 長方形のこじんまりとした机には炊きたての白ご飯とみそ汁、そして卵焼きなど軽い食べ物と漬け物が用意されていた。


「おお…」

「どうぞ召し上がりやがってください」


 彼女が握っていた包丁は朝御飯をつくるためだったのか。


 合掌、一礼。


「いただきます」


 みそ汁をすすり、白ご飯を片手に漬け物を口に運ぶ。


「…美味しい」


 昆布の出汁がよくきいた本当に美味しいみそ汁。程よい塩気が白ご飯と相性抜群の漬け物。


「とても美味しいです!」


「それはどうも」


「アリスさん、俺が朝はご飯派なの知ってたんですか?」


「メイドですから」


「さすがですね」


「あなたのような下等生物とは違います」


「下等生物!?」


 相変わらず罵倒がやまない。この人に人の心はあるのだろうか?そろそろ俺は泣いていい気がする。

 そう思いつつ卵焼きを口に運ぶ


「…!?」


 超しょっぱい。

 黄金色の見た目は完璧な卵焼きなのに。

 超しょっぱい。


 しかしせっかく作ってくれたんだ、文句を言うわけにもいかない。せめてさとられないようにしなくては。

 アリスさんのほうに目をやると、その時はじめて気づいた。


「アリスさんその制服、それにその襟章の色は…」


 エプロンをつけていたから気づかなかったが、アリスさんは確かに俺が入学する学校のブレザー、そして赤色の襟章だった。


「はい、まことに不本意ながら山下さんと同じ学校、学年です不本意ながら」


「何でわざわざ二回も…」


 しかし衝撃の事実だ。歳は近そうだなーとは思っていたがまさか同じ学校での同じ学年だったとは。


「一人でも知り合いがいて安心しましたよ」


「…ちっ」


 そっぽを向いた上で舌打ちまでされた。まあまあのショックを受けた心を慰めるようにみそ汁をすする。


「そういえば、アリスさんは朝御飯は?」


「いえ、まだです。山下さんの食器を片付けてからにしようかと」


「机のスペースも余ってるし一緒に食べましょうよ」


 食卓はやっぱり誰かと共に囲みたい。まあ個人的なわがままなのだが。


「山下さんを見ながら食べると食欲が失せそうです」


「俺はショックで食欲が失せそうです…」


「まあ、どうしてもというのであればしかたありません」


 朝食の盛られた食器を並べ、俺の目の前に座るアリスさん。気のせいだろうか、アリスさんの食器に盛られた卵焼きは俺のより形の少し崩れた不格好なものに見える。

 しかし食欲が失せそうならわざわざ正面に来なくても…まあいいか。



「いただきます」


 合掌、一礼。


「こうやって朝食を食べてるって、何だか夫婦みたいですね」


 失言だった。


「ぶっとばしますよクソ野郎」


 今日一番のストレートが飛んできた。余程怒ったのか、それから朝食を食べ終えるまで、一言も言葉を放つことはなかった。


 真っ赤になった顔から煙を出しながら。


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