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order-1.5

 何てこと言ってるんだ私はー!?

 あの日の恩を返すため、血の滲むような努力の末なんとか家事スキルを人並みに身につけた。不器用な私はここまでくるのに七年かかった。

 やっと卓弥くんに顔向けできると意気込んで扉の前に立ったのに、なぜか私は思ってもいない悪口しか言えなかった。


「とほほ…」


 あの感じだと私のことは完全に忘れているだろうなぁ…。しかも第一印象は最悪に違いない。

 

 ああ、何だか泣けてくるなぁ。


「ただいま…」


「おかえりなさいませお嬢様」


 メイドの小野さんはいつも通り向かえてくれる。


「どうでした?メイド初日は」


「そ、それは」


何も言えなかった。しかし小野さんは私の浮かない表情から察したのか、


「なるほど、緊張で彼に罵倒しかできず、おまけに塩コショウの分量まで間違えたと」


 察した上で傷口をえぐる。


「何でわかったの!?」


「メイドの勘です」


 改めて思い返すと涙が滲んできた。


「…嫌われちゃったかな」


「きっと大丈夫ですよ」


「悪口ばっかりで料理も失敗したし」


「大丈夫大丈夫」


「追い出されたり…しないかな…?」


「┐('~`)┌」


「せめて何か言ってよ!」


「冗談ですよ」


 くすくすと笑う小野さん。いやいや笑いごとじゃ済まない。自分で言ったものの実際、追い出されてもおかしくない。


「ところで、名前で呼んでもらえましたか?」


「名前…?」


『アリスさん』


 そうだった。名前、呼んでもらったんだ。


「ふへへ」


 呼んでくれたんだ、アリスさんって。


「嬉しそうですねえ(ニヤニヤ)」


「そ、そう?」


「本当に好きなんですね、山下さんのこと」


「そそそそんなんじゃなくて!私はただその、恩を返したいと思ってるだけで!別にけ、結婚したいとかそんなことは」


「私はただ好きかって言っただけなんですけどねー?」


「…もう!」


「顔真っ赤にしちゃって、このこのー」


「うるさいうるさい!わわ私、お風呂入ってくるから!」


 とりあえずお風呂で頭を整理しよう。これ以上何か言われたらますます混乱してしまう。


「お嬢様、そっちはトイレです」


「…」


ーーーーーーーーーー


「湯加減はどうでした?」


「…」


「顔が赤いですよ。あ、ひょっとしてお風呂の中でも彼のことばっか考えちゃってたんですか?ねえねえ?」


「ちょっとのぼせただけよ!もう、もう、もう!」


 小野さんのせいでゆっくりお風呂につかれなかった…。


「じゃあ、山下さんのことは別に何とも思いませんか?」


「そ、それは違うけど、ただえーとその…」


「山下さんに彼女がいたとしても?」


「…………」


 いるのかもしれない。私は小学三年から今までの彼を知らない。彼が変わっていたっておかしくないし、彼をとりまく人間関係だって変わったのかもしれない。


 彼が特別に思う人がいても。彼を特別に思う人がいても。

 何らおかしな話ではない。


 でも…でも…


「お゛の゛さ゛ぁーん゛…」


「何も泣かなくても…ほら、涙ふいてください」


「ううう」


「ま、その辺りは私もわかりませんし、本人に聞いてみたらどうですか?」


「いたらどうしよう」


「┐('~`)┌」


「せめて何か言ってよ!」


「私に言えるのは、やらずに後悔するより、やって後悔したほうがマシってことだけです」


「…?」


 その言葉には、さっきまでのからかうような口調はなかった。


「何にせよ、まずは今日の非礼に対する謝罪からですね」


「そ、そうね」


ーーーーーーーーーー


 翌日、彼の部屋の前。

 部屋に入る→昨日はすいません→本当は~です→よろしくお願いします

 よし、シュミレーションは完璧。あとは私がしっかりするだけだ。

 深呼吸、深呼吸。


「…よし!」


 ドアノブに手をかけ、私は扉を開けた。


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