order21
さて、帰ってきたはいいもののどうしたものか。後で会おうとか言ったけど何時に?どこに?そもそも連絡先さえ知らない。学校に連絡?個人情報にうるさい昨今、そう簡単に教えてくれるとは思えない。
明日教室に行って聞けばいいか、という考えが一瞬うかんだがあの空間に二度といきたくない。「連絡先教えてください」なんて言った日にはいよいよ命はないだろう。
また会った時に聞くしかない。見たところアリスさんは来てないしとりあえず洗濯物を取り入れるか。
「先輩の連絡先がなくて困っている山下少年!」
「何でベランダにいるんですか」
大家さんがまたいつものだらしない格好で立っていた。
今、俺なにもしゃべってないよね?何で俺の思考回路読まれてるの?大家さんはサトリ妖怪か何か?
「失礼な、誰がサトリ妖怪か」
「あたってるじゃないですか」
いや、日常的にショットガン背負ってるんだ、そのくらいの普通だ普通。だってショットガン背負ってるんだもんね!
「はぁ…」
そう自分に言い聞かせることにした。
「んで山下少年、先輩の連絡先なんだが別に気にすることはない。あと30秒ほど待ってればすぐになんとかなるさ」
「何とかなる?」
どういうことだ?と考えようとしたその時、唐突に呼び鈴が鳴った。
大家さんはすぐそこにいるしお客さんだろうか。しかしなぜこんな時間に?
「はーい」
「アリスです」
ああ、アリスさんか。今日は晩御飯はいらないと言伝はしてあるのだが。ああ、家事か。家事労働は何も炊事だけではない。ちょうど家をでなくてはならないが大丈夫か。
と、安心したのもつかの間。唐突に響く電話の呼び出し音。
「誰だ?」
「もしもし」
何故かアリスさんがでるんだろう…?
「はい。ええ、そうです。私ですか?そうですね何というかその…。?、っ!!!はい、その通りです!」
何だ今の力強い肯定!?
「…はい、では代わります。山下さん」
受話器を耳から離しこちらに向けるアリスさん。その表情はどこか満足げ。
不安しかない。ほんの一時前に感じていた安心感が嘘のようだ。
「もしもし」
「ややや安河内くん?」
「山下です」
「先生から電話があってね、連絡先を聞いたんだけどね、その」
「どうしたんですか?声を震わせて」
電話口の奥から深呼吸の音が聞こえる。それもとびきり深いやつが。何となく目をやった先のアリスさんは見るからにご機嫌だ。
「あ、あのね、今電話に出た人がね」
「はい」
「自分は山下くんの、か、かかかかか彼女って」
「…」
適当なことふきこんでくれるなぁ…。
「あ、あのですね」
「いやいいの。うん、そうよね、とりあえずバッティングセンターでチクワを」
「落ち着いてください」
この上なく動揺する先輩、無表情でガッツポーズをキメるアリスさん、抱腹絶倒の大家さん。
収集がつかない。こうなっては順を追って解決するしかない。
誤解を解く→集合場所と時間を決める→アリスさんにお説教
よし、完璧なフローチャート!まずは先輩の誤解を解く!
「あのですね先輩、今のアリスさんの…」
「アリス!?アリスってあの!?」
すごいなアリスさん、はやくも学校中で噂になってるのか。
「あの[百人斬りのアリス]!?」
何したんだあの人。
「そのアリスさんはですね、彼女とかじゃ全然なくてイッタァスネガァ!?」
ローキックをくらった。犯人は言うまでもなく後方に不機嫌そうに立つアリスさんである。
「何でもないですよチッ」
「何でもない人はそんな露骨に舌打ちしません!」
お腹をかかえてヒィヒィ悶える声がベランダから聞こえる。救いがない。
いや諦めるな!まず誤解を解くんだ!
「え…?彼女さんじゃないんですか?」
「そうです!全くそんな関係ではありまアーッ!!!」
弁慶が再び泣き崩れる。鈍い衝撃が身体中に響きわたる。
今日のアリスさんは感情の起伏が激しい。仕方ない、フローチャートを変更しアリスさんへの説教から始める!
「ちょっとアリスさ」
「はい?」
「その包丁いつ手に取ったんですか?」
フローチャートを[アリスさんをなだめる]に変更しよう。些細なミスが命取りになるぞ。
しかしアリスさんは何に怒ってるんだ?思い当たる節がまるでない。
しかし今のアリスさんは目力だけで3人は気絶させられる。たぶん。
そういえば目的地や時間が不明瞭だと世間の母親、つまり女性は怒ると聞くぞ!これだ!
「今からこの女の人と二人で食事をしてきます!」
「…」
「あ、あのアリスさん?何で今もう一本包丁を手に取るんですか?何でじりじりとこっちににじり寄ってくるんですか?台所はそっちですよ…?」
「…」
「落ち着いて!とにかく落ち着いてアリスさぁぁあ!!?」
その後、先輩との集合場所が決まり家を出るまでに4回ほど三途の川をチラ見することとなった。