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order‐13.5

 私は見てしまった。林檎ちゃんと誰かが抱き合ってる…!?


「どうしたのアリスさん?ぼけっとしちゃって」

「え、いや、何でもないよ」


 優勝が決定し、歓喜の渦に包まれているクラスメートとは対照的に、私は少し困惑していた。


 え!?つまりどういうこと!?縄がもつれてあんな感じに!?砂煙で相手が誰かまではわからないけど、林檎ちゃん幸せそう…。

 あ、あんまり注視しないほうがいいよね。


「お疲れさま…ってどうしたのアリス?」


「な、なんでもない!」


「そう…?」


 うまく言葉が出てこない。


 おお落ち着け私!人の色恋沙汰に過度に干渉してはだめだ!


「ねえ、向こうから走って来てるの林檎じゃない?」


 平常心平常心。


「ねえ林檎、さっき抱き合ってたのってこの間言ってた人?」


 何でどストレートに聞いてるの私ー!?


「はい!実は先ほど、最愛の人と熱い抱擁を交わしましたのです!」


「そ、それはよかったね。たぶん周りからは砂煙で見えなかったけど」


「まあ、ほんの偶然だったのですが」


 最愛の人…。オリエンテーリングで再会できたのは本当に良かった。運命的だなぁ、と少し羨ましくもある。


 あれ?でもよくよく考えると林檎ちゃんの前の人って確か…。


「ね、ねえ、その最愛の人ってさ」


「アリス、あなたの派遣先のクラスが表彰式の準備してるわよ」


「あ、うんわかった」


 そのまま歩村の言葉は、まるではぐらかすようなものだった。




 晩ご飯はビュッフェスタイルだった。


 おいしい!しかもバリエーションがかなり豊富!レシピ教えてもらえないかなぁ。卓弥くんに作ってあげたい。


 そういえば弁当はどうだったのだろう。やっぱり不格好な弁当になってしまったが、お昼ご飯の時に恥をかいていないだろうか。そして何より、楽しいお昼を過ごせているのだろうか…?


「アリスさん」


 話しかけてきたのは林檎だった。


「どうしたの?」


「少しお話がありますの」


 林檎は真剣な様子だった。きっと何か重要なことだ。口に含んだ白ご飯をお茶で流しこみ


「単刀直入に申します。アリスさんは卓弥さん、山下卓弥のことが好きなんですか?」


 お茶をふいてしまった。


「な、ななな何を根拠に!?」


「ムカデ競争の時、あなたはこっちのクラスにむけてウィンクをしました」


「う、うん」


 勝つために!とクラスの人にお願いされ確かにやった。正直、めちゃくちゃ恥ずかしかったし何故それが勝つために必要なのかわからなかったけれど。


「あの時、卓弥さんを見ながら、いえ、正確には卓弥さんに向けてウィンクしたように私には見えたのです」


「…!」


 いや、意識した覚えはない。しかし、確かに私の視線は卓弥くんを追っていた


 気がする。


 彼女の突然の言葉に食事の手も止まる。


「わ、私は…恩返しがしたいだけで…好きとかは…」


「じゃあ私がもらっちゃってもいいんですの?」


「そ、それは…」


 思わず箸を握る手が強くなる。

 そう、私は恩を返したいだけ。


 のはずなのに


 この言い表せない気持ちは何なのだろうか。上手い言葉は思い付かなかった。


「…すごく…やだ」


 口をついて出たのは、そんな些細な一言だけだった。


「…優勝したクラスは」


「?」


「本来は禁止されている他の部屋へ、男子が女子寮への移動を許可する、と先生がおっしゃいましたわ」


「そうなの?」


「優勝したあなたには…権利があります」


「…!」


「行くといいですわ。行って存分にお話してきてください」


「で、でも林檎ちゃんも…!」


 林檎ちゃんだって一緒に過ごしたいはず。なのになぜ、私に助力するようなことを言ってくれるのか。


「私のことはお気になさらず」


「でも…」


「勘違いしないでください。これはあなたのために言ってるのではありません。私だけアドバンテージがある、という不平等がいやなだけですから」


「ううん、それでも…ありがとう」


「でも」


 林檎ちゃんは笑顔だった。それはただ楽しいだけ、といった軽いものではない。真剣な笑顔。


「宣戦布告です」


「私だって…負けないから!」


 私も、前に進まなきゃ。




「…よし!」


 お風呂からあがり、一旦部屋に戻ってきた。覚悟はできた、いざ玄関へ!


「ちょ、ちょっとアリスさん!見てくださいあれ!」


 部屋が同じ林檎ちゃんが窓の外を指差す。


「おい、どういうことだ…」


「聞いてないぞ」


 何やら外の様子がおかしい。窓から覗くと、そこには女子寮の前に男子の集団。そして男性教員が一人立っている。


「まったく…レクリエーションが盛り上がれば、とは思いましたが、さすがにこれは過熱してますね…」


「先生!話が違いますよ!女子寮に行くのを許可されたじゃないですか!」


「「「そーだそーだ!」」」


「俺はうちのクラスに内密に行ったつもりだったんですが…どこから聞いたのやら」


「なら、先生は僕たちに嘘を教えたっていうんですか!?」


 じりじりとにじりよる男子生徒達。しかし先生が引く様子はなかった。


「まさか。俺はいつでも自分の発言に責任を持っています」


「じゃあ、そこを…」


「俺はこう言いました、女子寮に行くことも<俺の一存で>許可します、と。つまり」


 そう言うと先生は腰のほうに手をやる。暗くて見えにくいが、先生の腰には確かに日本刀が携えられていた。


 日本刀!?


「いきたければ…わかるな?」


 先生が男子生徒達を睨み付ける。


 建物全体が軋むような音をたて始めた。その場にいる男子生徒達はもちろん、その様子を覗く私と林檎ちゃんにも悪寒がはしる。


 いきたいってどっちの!?行きたいってこと!?生きたいってこと!?そこまでしてくれなくていいよ!頼もしさが逆に怖いよ!


「これではアリスさんが卓弥さんのところに行けませわんね…どうしましょうか」


「い、いいよ林檎ちゃん。もういいから」


「本当にいいんですの?」


「…」


 よくない。本当はすごく行きたい。でも…。


「問題無いわ」


 そう言って、勢いよく扉を開けたのは歩村だった。


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