order-1
メイド?編み物とかで使うやつ?毛糸だなそれは。
しかしメイドが来るなんて聞いてないぞ?
「あのー、部屋を間違えてませんか?」
少なくともウチではないだろう。身に覚えもないし。
「…」
俺の部屋を見回す九条さん。俺の話は耳に入っていない様子だ。
「…」
九条さんは何も言わない。何も言わないまま家の中に歩いてゆく。足早に、まるで自分の家であるかのように。その手には『スーパー やおや』と
スーパーなのか八百屋なのかよくわらない店の袋を握っていた。
そしてキッチンにつくなり袋から野菜を取りだし、馴れた手つきで刻んでゆく。
「あの…」
九条さんの手はとまらない。あっという間に野菜炒めが完成、皿に盛り付けられた。
「どうぞ」
「え、あ、どうも」
「どうぞ召し上がりやがってくださいゴミ野郎」
「ん?」
ん?
ーーーーーーーーーー
「いただきます」
言われるがままにできたての野菜炒めを口に運ぶ。
「…」
超しょっぱい。
野菜の炒め加減はばっちりだ。硬くはなく、かといって柔らか過ぎないちょうど良いシャキシャキ食感。
でも超しょっぱい。
「…」
何で彼女はずっとこっち見てるんだろうか。
「俺の顔に何かついてます?」
「眼鏡にヘドロが」
「はい?」
「あ、それが顔でしたすいません」
「…」
キリッとした目付きに艶やかな黒い髪、おまけにメイド服でまさに人形のような美人なのに。
この人めっちゃ口悪いなぁ。傷つくなぁ。
「あの…」
「何でしょう?」
「感想を聞いても?」
「あ、えーっと、ちょっと塩味が強すぎるかな…って」
「確かにナメクジは塩かけられるとしぼみますもんね」
「俺がナメクジ野郎だって言いたいんですか!?」
しかしせっかく作ってくれたものに文句を言った俺も悪い。それに、ちゃんと良かったとこも言っておかなくては。
「で、でも野菜はおいしいですよ!ちょうど良い加減で」
「へつらってるんですか?醜いのでやめてください」
駄目だぁー誉めても結局罵ってくるわこの人。そっぽ向いちゃったし、この人がメイドって…。
「というか何でメイド?」
すっかり忘れていた。そもそも何でメイドが俺の部屋にいるんだ?
「オプションです。部屋の」
「そんな家具みたいな感じで言われても」
聞いたことないよそんな話。
「給料は家賃のうちに入ってますのでご安心を」
「いや、でも…」
うーん。そう聞くと悪い話じゃない気もする。タダだし。
「何ですかこっちをじろじろと見て。吐き気を催すのでやめてください」
でも口すっごく悪い。これでは賃金の問題とは別にストレスで胃に穴が開いてしまう。
「それじゃあ、えっと…九条さん」
「アリスです」
「はい?」
「名前でよんでくだしゃい」
あ、噛んだ。
「…」
うっわーめっちゃ不機嫌そう。今までの無表情から変化し、不快感が表情に出ている。余計なことは言わないでおこう。数倍の罵倒になってかえってきそうだから。
「じゃあアリスさん、よろしくお願いします」
「ちっ」
「何で!?何で舌打ちされたの!?」
「では、私はこれで」
そう言って、玄関でアリスさんはお辞儀をし、
「ちっ」
帰っていった。