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order-13

「それでは、男子と女子で番号順で並んでください」


林檎の演説により、2組は全員が一丸となっていた。あとは並ぶだけで完全に臨戦態勢は整う。

 ちなみに、俺の出席番号は22、つまり一番後ろ。よって俺の背中をつかむのは女子になる。


「しかしなぜこうなる」


「運命です」


 俺の後ろは林檎だった。


「番号順でたまたま前後…やはり私達は結ばれる運命なのです!」


「さっき誰かと話し合ってるのが見えたんだけど…」


「細かいことはいいんです!」


 まあムカデ競争で今までのように身動きとれないくらい密着することはないだろう。とんでもない気合いの入りようだったし。イタリア語とか出てたし。


「卓弥、そろそろ並び始めてるぞ」


 どうやら点呼がかかったようだ。


「…どうかしたのか林檎?何か…もじもじして」


「いやあの…す、少し照れくさいなあー、なんて」


「今さら!?」


「いい今まではその、勢いで何とかなってたんですが…」


 恥ずかしそうに口に手をやる林檎。いつもとのギャップにちょっとドキッとさせられる。




「ここからあの少し遠くにあるカラーコーンをまわり、ここに帰ってきてください。一番早くゴールテープをきったクラスが優勝です」


「少し…?」


 広いグラウンドには確かにカラーコーンが五個ほど置いてあった。

 目測200メートルくらいのところに。


 想像以上に遠いよ!ムカデ競争って距離じゃないよねこれ!?


「へっ!上等じゃねぇか!」


「アリスさんとお話するためなら太平洋だって横断してやるさ!」


「Per vincere(勝利のために)!」


 元気だなぁこのクラス。


「実況はこの僕、放送部の源来斗と!」


「同じく放送部、街瓜歩村でお送りします」


 あの二人、放送部だったんだ…。


「では、クラス対抗ムカデ競争」


「スタート!」 


 発砲音が鳴り響く。




「「「「「アリス!アリス!」」」」」


「現在一位は2組!何かただならぬ気迫を感じます!」


「ていうかあのかけ声は何…?」


 レースはおおむね順調であった。他のクラスをぶっちぎりで抜き去ってゆく。 


 欲望に忠実なクラスだなぁ…。


「卓弥!卓弥!」


「頼む林檎、そのかけ声だけはやめてくれ」


 すっげえ恥ずかしいし新たな敵を作りかねないから。


「た、卓弥さんは」


「はい?」


 林檎が呟く。ついさっきまでイキイキしていたのが嘘のように下を向いて顔を合わせない。


「卓弥さんは…優勝して会いたいのですか?九条さんと…」


 アリスさんに、か。今日の朝に季栄荘で会ってるし挨拶とかはいらないだろう。

 特に用事もなく顔を合わせたところで罵られるだけだろうし、別にむこうも喜ぶまい。


「いや、俺はそこまで…」


「じ、じゃあ、私のところに、来てくれますか?」


「え、いや、その…そういうのは優勝してから考えるよ」


「そう…ですか」


 思わず解答をあやふやなものにしてしまった。普段とのギャップがすごすぎる。変な気まずさでお互いに声が出せなかった。


「アリス!アリス!」


 奇怪なかけ声は続いている。




「さあレースは中盤戦!最初にコーンを回ったのは2組!このまま独走か!?」


「でもここまでかなりハイペースだったからか若干疲れが見えてきているわ」


「おおっと、ここに来て追い上げる3組!はたして2組は逃げ切ることができるのでしょうか!?」


 かれこれ200メートルという普通に走ってもそこそこしんどい距離をテンポを合わせつつ全力疾走したのだ。かけ声に荒れた息も混じる。


 しかしここを逃げ切ることができれば優勝だ。体力を振り絞る。


「お、おいお前ら!あれを見ろ!」


 うちのクラスの誰かに促され、3組のほうへ目をやる。そこにいたのは、やはり九条アリスさんだった。


「…!」


「見たか!?アリスさんがこっちにむかってウィンクしたぞ!」


「う、ぐはっ」


「おおっとどうした!?2組のペースが急に落ちたぞ!?」


 お前ら動揺しすぎだろ!まずいな、3組がもうかなり近い。追い付かれるのも時間の問題だろう。


 まあここまでよくやったし、仕方ないか。


「…絶対…優勝し…て」


 肩をつかむ手の力が強くなる。もともと運動が得意なほうではないのだろう、呼吸がかなり激しく乱れていた。

 しかし足を止めない、声を切らさない。一体何が彼女をそうさせるのか。


「…ふぅー」


 呼吸を整える。俺だって足は重いし肺が苦しい。

 でもやっぱり


 負けたくはない。


「我々の進撃はァ!偏にィィィ!!!」


「「「「「Per vincere(勝利のために)!!!」」」」」


 さあ、ラストスパートだ。




「「「「「うおぉぉぉぉおおお!!」」」」」


 全員の歩幅はぴったりと合っていた。


「2組、凄まじい気迫!先ほど遅れをとり3組に追い抜かれかけましたが持ち直したぁぁァ!」


 残りわずか30メートルほど。最後の力を振り絞る。


「「抜いたぁぁぁぁ!!!」」


 あと残り10メートル!いける!


「やった勝った!」


「俺、このレースに勝ったら告白するんだ…」


 誰か今余計なことを口走らなかったか?嫌な予感しかしない。


ぶちっ


「「「あ」」」


 悪い予感はあたるもので。足をつないでいた紐が切れてしまった。それも一ヶ所ではなく複数の箇所で。


「きゃぁぁっ!?」


「あぶない!」


 全員が盛大にこけた。


「いてて…」


「大丈夫か林檎?」


「はい、大丈ぶっ!?」


 林檎をかばうため早めに倒れたからか、俺が林檎に押し倒されたような形になっていた。


「すすすすいません!私としたことが!」


「いや、いいからそんなこと」


「い、今すぐどきますので!」


「林檎!焦らないで!?わわっ!?」


 急いでどこうとする林檎だったが、片方の足にはまだ紐がついていた。


「「…」」


 林檎を抱き抱えるような感じになった。


「えと、大丈夫か?」


「…もう少し、このままで」


 そうですか。


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