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order‐12

「オリエンテーション合宿を始めます」


 学校が始まってから一週間がたったころ。1年生は一泊二日の旅行が予定されていたらしい。


 らしい、というのは俺がこの合宿の話をつい昨日まで知らなかったからだ。一年間のおおまかな予定表は事前に配られていたのだが、ここ最近のゴタゴタでまったく目を通していなかった。


 しかし準備はアリスさんがしてくれていた。最近、あまりにも面倒をかけすぎている気がして申し訳ない。


 と、いうことを彼女に話すと


「構いません。無能な主人のフォローもメイドの仕事です」


 生きていくことに犠牲はつきものだということを知った。


「じゃあ現地にも着きましたし、とりあえず昼ご飯にしましょう」


 初日のお昼は全員が弁当を持ってくることになっていたのだが、


「…すっげぇ」


 クラスは少しざわついていた。


「何で先生は玉手箱持ってるんだろう?」


「弁当だよなあれ?一体何が入ってるんだよ」


 先生は丁寧に蓋を開け、手をあわせる。その御節(おせち)でも入っているかのような重箱の中身は意外にも普通の綺麗な弁当だった。


 愛妻弁当だろうか…?でも先生は指輪なんてしていない。自分で作ったのだろうか?


「それはそうと、今日は弁当なんだな」


「そうなんだよ」


 実はアリスさんは朝と夜のご飯は作ってくれているが、弁当は今まで作ってくれたことはなかった。

 てっきりめんどくさいからだと思っていたが実際のところどうなのだろう?とりあえず開けてみる。


「…そういうことか」


 理由はすぐにわかった。

 彼女が作ってくれた弁当は、少し不格好だったのだ。ぐちゃぐちゃ、とまでは言わないまでも先生のものほど整っているものではなかった。


 今思えば、なぜか超しょっぱい料理にも合点がいく。


 要するに、アリスさんはすごく不器用なんだ。


 首席で入学しスピーチ、学年に名前がしれわたるような美少女、学校に行きながらメイドなどと俺とはかけ離れた世界の人間だとばかり思っていた。


「ふふっ」


「妙に嬉しそうだな…何かおもしろいことでもあったか?」


「いや、なんでも」


 別の世界の人間、くらいに思っていたが案外そうでもないのかもしれない。少し微笑みが漏れた。

 しかし、同時に申し訳なさも増した。恐らく苦手なはず。なのにうちに来て俺の世話なんてしてくれている。

 一体なぜ彼女はそこまでしてくれるのか。


 給料のためか。

 納得と共に俺は弁当の蓋を閉じた。


 ごちそうさまでした。




 オリエンテーション合宿。その目的はおそらくクラスの親睦を深めることだろう。きっかけがあればなお良し。となると何かしらイベントがあるわけで。


「クラス対抗、ムカデ競争対決ぅー」


「「「イェェーイ!」」」 


 2組の男子は妙に盛り上がっていた。


「最高だよ!あの5組と合同なんて!」


「ああ、なぜかうちのクラスは男子ばっかで人数も少ないんだよな!」


「なんでだろうな!」


「まるで小説みたいだな!」


「がしかし!俺はそのことを始めて良かったと思う!」


「なんてったって5組には!」


「「「九条さんがいるからぁぁァ!」」」


 大盛況だ。ムカデ競争の会場である広いグラウンドの一角は異常な熱気に包まれていた。


「来たぞ!5組だ!」


「祭りじゃぁぁ!」


 男女比を公平にするため、5組からは女子のみが来ることになっていた。


 がしかし、そこに九条アリスの姿はなかった。


「どういうことだ…」


「おい!あそこを見てみろ!」


 一人が指をさしたその先に彼女はいた。

 どうやら5組の半分は違うクラスに派遣されているらしい。


 急にクラス全員のテンションが下がったのを感じたその時。


「たーくーやーさんっ」


 出会って一ヶ月もたっていないはずなのに妙に聞き慣れた、はつらつとしたその声。そう、5組林檎はいた。




「あの…やめませんこのくだり?」


「何を言ってるんです!けっして離れてはいけませんわ!ムカデ競争なのですから!」


 非常に困る。

 いつものように抱きつかれるのはいい加減に慣れた、がしかし


「えい」


「…!」


 その華奢な体躯とは裏腹に()()方であることを身をもって知らされ、ってそんなことはいい。

 む、無駄だ。たとえ押し付けてきたって…うぐっ。もう慣れたのだ、なな何も思わんぞ。


「またあいつか…」


「うらやmけしからん」


「紐を着けずにバンジージャンプするといいでゲス」


 ああ、クラスがある意味ひとつになりつつあるなぁ。でもクラスメートへの敵意で団結するのはどうかと思うよ?


「林檎、さすがにちょっと離れな。そろそろ先生が説明を始めるから」


「む、しかたありません」


 林檎はようやく離れてくれた。ナイス街瓜。


「しかし、どうしたもんかなこの状況」


 クラスの士気は下がりまくっていた。原因はハッキリしているが本当に大丈夫かこのクラス。


「ま、まあちょうどいいんじゃない?レクリエーションでそこまで熱くならなくても…」


「優勝したクラスにはめちゃくちゃすごい商品が出まーす」


 明らかに気合の抜けたうちのクラスを見かねてか先生が口を開く。


「めちゃくちゃすごい商品って何ですか?」


「夜の自由時間に他の部屋に出入りすることを許可します」


「確かにほかの部屋に行くのは禁止されてるけど…」


「あんまり魅力はないなぁ」


「女子寮に行くことも俺の一存で許可します」


 急に周囲がざわつき始めた。全員の空気が変わったのは明らか。


 が、しかし


「い、いや、別に女子寮とかき、興味ねえし…」


「っそうそう。お、俺はそういうのじゃねーし」


「嘘つけ、お前ら絶対ねらってるだろ。ま、俺には関係ないけど…」


 思春期特有のめんどくさい見栄というやつである。テンションは上がったがまだクラスはバラバラのままだ。


「注目ゥゥゥゥゥ!!!」


 すぐ隣からひときは大きな声。林檎だった。


「聞きなさい愚かな民衆よ!九条アリス、身も心も華憐な彼女が選ぶのはただ腕力のある者!?いや違う!誰かのため、クラスのために尽くすことのできる者!しかし!今のあなたたちのような体裁ばかり気にする雑兵が勝利することなどできはしない!九条アリスが認めるはずがない!勝ちたければ!彼女と言葉を交わしたければ!仲間のために剣を抜け!勝利のために大地を穿て!我々の進撃は(ひとえ)に!」


「「「「「Per vincere(勝利のために)!!!」」」」」


 なんだこれ…。


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