order‐8
「そういえばさ」
「ん?」
ホームルームが一段落し、先生は職員室に戻ったちょっとした休み時間。
この機会に気になっていたことを聞いてみよう。
「九条アリスってどんな人かわかる?」
急にメイドとしてやってきた彼女は一体何者なのか。
もしかしたら何か知っている人がいるかもしれない。
「その人がどうかしたのか?」
「なんかその…下宿先の部屋にメイドとして」
「「「「「…メイド?」」」」」
クラス全員がひそひそと話を始めた。
まずい!余計なこと言った!俺に対する視線の集中放火を感じる!
「まあメイドは置いといて、知ってるか?とんでもない美女が5組にいるって話」
来斗が不自然に大きな声でそれを言うと、クラス中の男子がそわそわし始めた。
「お、オレちょっとトイレ行ってくるよ」
「ボクも行くよ」
「オレも」
「オラも」
そう言って総勢20人の男子が一斉に教室から出て同じ方向に歩き始めた。おそらく俺への目をそらすために来斗が気をきかせてくれたのだろう。
ていうか何人がかりで連れションする気だ!いくらなんでも不自然だろ!もう素直に5組に美人見に行くって言えよ!
「ありがとう来斗」
「別にいいよ。ところで、僕もトイレに行きたいんだが一緒に行かないか?」
見に行くんかい。
しかし入学式初日からそんな話が持ち上がるとは一体どんな美少女だろうか。
「…おお」
5組の扉には無数の男子生徒が集まっていた。
「すげえな…」
「レベル高え…」
おそらくうちのクラスどころか一年生男子の大半がここに集まっているだろう。そのくらいの人口密度だ。
ある意味美少女よりもこの光景のほうがよっぽど衝撃的である。
「あれ…?」
そういえば九条さんが見当たらない。おかしいな?確かに5組と言ってたような…?
「「…!」」
とりあえず一緒にいた街瓜を探そう。そう思ってクラスを見渡すと、すぐに街瓜を見つけることができた。
問題はその隣の見覚えある女子生徒と目があったことだ。
むこうもわかったのだろう、こっちに笑顔で歩いてきた。
ああ、すっかりわすれていた。そういえばあの人も同じ学校だって言ってたな。
「卓弥さまぁ!」
白雪林檎、この人も5組だったのか。
「探していたんですのよ入学式中ずっと!どこにいらしたんですか?いいえ何も聞きませんわ!だってここに来てくれたんですもの!私に会いに来てくれたんですもの!」
出くわすのはいいのだが、早々に抱きつくのはやめてほしい。
そのね、あたってるんですよ。何がとは言わないけれども。
「あいつ、あんな可愛い娘に…」
「うらやmけしからん」
「ハンバーグ工場でミンチにされてくるといいでゲス」
視線が痛い。せっかく来斗のおかげで危機を回避できたと思った矢先にこれだよ。
「おお、相変わらずお熱いねえ」
「もちろんですわ」
「ちょっと離れていただけませんか…」
「ふふっ、いやです」
微笑む林檎。確かに…レベル高いな
っていやいや、何がだよ!
「…」
どうしたのだろうか?街瓜の表情がおかしい。クールビューティーという言葉がよく似合う彼女の動揺する姿はとても珍しい…気がする。
そうでなくても明らかに様子が変だ
「しかし僕が聞いてたのは確か九じょヴォオッ!?」
「街瓜!?」
来斗の顔に拳が三度めりこむ。
「いいなぁ、美少女に殴られて…」
「我々の業界ではごほうびです」
「パン工場で骨の髄までこねられてくるといいでゲス」
お前らそれでいいのか…?
「そろそろ教室戻りなさい。帰る前に連絡があります」
旗手先生がやってきた。
教師が来た、というだけでなくその先生がスーツ着て帯刀しているのだ。集まっていた生徒は一瞬にして散っていった。
「じゃあ卓弥さま、また後で!」
そう言って、また笑顔で林檎は席に戻っていった。