order‐6
「…ただいま」
ひとまず公園来斗と別れ、帰宅。時刻はそろそろ9:00になる。
そろそろ本格的に入学式の準備をしなくてはならない。
しかし何だろうか、まだ朝だというのにこの妙な疲労感。
「ごめんください」
玄関から声がする。この声、アリスさんだろうか。
そういえばむかえにくるって言ってたな。
「おはようございます」
数時間ぶりに顔をあわせるアリスさんはいつもの無表情だった。やっぱりあの笑顔は夢か何かだったのでは?と思ってしまう。
まさかさっきのアリスさんは偽物…!?
「何ですかじろじろ見て。山下さんの顔という名の生ゴミをこっちに向けないでください」
ここだけは偽物であってほしかった。
「少し待っていてもらえますか?準備をしてくるので」
「山下さんの準備はすでに戸棚のそばのトートバッグに整っています」
「そうなんですか?」
そう言われて戸棚のほうに行くと、確かに筆記用具などの準備がされたトートバッグが置いてあった。
「山下さんが寝ている間に用意しました」
「ありがとうございます!」
「…メイドですので」
「でも着替えてくるので、やっぱり少し待っててもらえないでしょうか?」
「ちっ!」
露骨に舌打ちされた。今回に関してはごめんなさい。
「散歩はどうでした?」
制服に着替え、アリスさんと並んで学校に向かう。
そこら中の桜の木が純粋なピンク色に染まり、地面に落ちた花びらがコンクリートの道に彩りを与えていた。
絵に書いたような綺麗な風景。
美しい情景に似合わず、俺たちの空気はちょっと違った。
「…」
「…」
気まずい。
あれだけ罵倒のレパートリーを披露し続けたアリスさんから一言も罵る言葉が出ない。
いや、本来ならそれが普通なんだが。
といより妙な緊張感を感じる。俺もアリスさんもなぜか一言も発することができない。
「桜が…綺麗ですね」
「そう…ですね」
「「…」」
「入学式楽しみですね」
「そう…ですね」
「「…」」
「何組でした?俺は2組だったんですけど」
「5組…でした」
「「…」」
何だこの空気感は。話題を広げられる気がしない。
「あ、あの!」
「はい?」
沈黙を破り、アリスさんが口を開いた。
悪口は常にストレートなアリスさんにしてはめずらしく遠慮、というか恥じらい?のようなものを感じる喋り方だった。
「わ、私たちはその同級生ですよね」
「まあ、そうですね」
「で、ですからわ、私のことをその、アリスさん、じゃなくて、アr」
「おはようアリス」
アリスさんが何かを伝えようとしていたその瞬間、誰かがアリスさんの肩を叩く。
「ほほ歩村!?びっくりさせないでよ!」
「私そんな驚かせるようなことしたかしら?」
何だか真剣そうな表情で何か言おうとしていたのだ、こっちもびっくりする。
というかアリスさんは俺以外とは普通に話すなぁ。汚い言葉がまったく出ない。
「んで、この人があんたの言ってた?」
「そうそう、奉仕させられてる」
「アリスさん!?誤解を招くからその言い方はやめてくれます!?」
「あんたが山下卓弥ね。私は街瓜歩村、アリスとは中学からの付き合いになるわ。」
「よ、よろしく」
そう言って、俺の顔をじっくりと眺める街瓜歩村さん。
「え、えっと」
「あ、街瓜でいいわよ」
「街瓜?俺の顔に何かついてる?」
「ヘドロなら常についてるじゃないですか」
「アリスさん!?」
「アリス、素直になりなさいよ。あなた本当は」
「山下さん!先に行っててください!そろそろ吐きそうなので!」
「俺を見てですか!?」
少し腑に落ちないが何か切羽詰まったものを感じるのも事実。
言われたとおり先に行くことにしよう。