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「ここか。本丸は」
夜中の2時を回っていた。朔はとある教会の前に来ていた。
「じゃあ、さっさと終わらせるか」
ギィ…
重たそうな音を立てながら朔はゆっくりと教会の扉を開ける。
(気配は…無しか。一応いつ出てきてもいいように準備だけはするか)
「身体強化剤投与開始、完了」
朔の頭の中でいつもの電子音声が鳴り響く。
(上か)
「シャー!」
カマキリが上から飛びかかってくる。
「よっと!」
朔は後ろに飛び、軽々と避ける。
「不意打ちとはいい度胸してんじゃねぇかよ、お前ら。と、今度はなんだ?わらわらわらと…」
朔の周りに数えきれないほどのカマキリが集まる。
「あぁ、もう。僕はねぇ…虫が…大っ嫌いなんだよ‼‼」
朔の左腕が鎌に変わる。
「らぁ‼」
切り裂く。切り裂く。切り裂く。切り裂く。されど埋め尽くされ前は見えない。
「だぁも‼うざったい‼」
何体斬っただろうか。数十体は斬り捨てただろう。しかし一向に減る様子がない。
「はぁ、はぁ、はぁ。塵も積もれば、ってやつ?さすがの僕でもこれは疲れるよ」
朔の動きが止まった瞬間、カマキリの軍勢が一気に押し寄せてきた。
「うおっ‼」
(こいつら…押しつぶす気だ。圧倒的な数で‼)
カマキリたちは朔を押し倒すと、次へ次へと上にのしかかってくる。
(くそっ、気持ちわりぃ‼変な臭いするし‼あと苦しいな。圧死ってこんな風になるものなのか)
朔は圧迫されている中、右手で左腕の手首の部分を開ける。
(本気でやろう)
カマキリたちの動きが一瞬止まる。とその刹那、一気にカマキリの山が崩れた。
「あぁもぉ~、苦しいは臭いわ。お前ら絶対許さねえからな」
立ち上がった朔が握っていたのは日本刀。
「覚悟はいいか、畜生ども」
それからの朔はまさに鬼神のようであった。カマキリの大群は意味をなさず、ばったばったとなぎ倒されてゆくだけであった。
「終わったか。で、こいつらの主はどこにいる?来た時、気配は感じなかったが…ま~さ~か~…」
朔は悪い予感がした。
「間違えやがったな‼あのクソ所長め‼」
朔は思いっきり叫んだ。
「あそこに置いてきたカマキリ千体をあんなにいとも容易く…もっと増援を送らなければ」
古びた教会。その中でクリスは動揺していた。一体一体にもそれほどの能力があり、さらにその数、千。勝てなければおかしい戦いだった。
「こちらに残っているのは30体…全然足りないわね…どうする?新しいのを調達するか…いえ、時間がないわ。このままだと潜伏場所が変わっていることに気づかれる。どうする…」
クリスは爪を噛みながら考えていた。すると
「ねぇ、あなた蟷螂の斧っていう言葉…知ってる?あるところに小さなカマキリがいました。するとそこに大きな馬車がやってきました。愚かなカマキリは自分の身の丈もわきまえずその小さな斧で馬車を止めようとしました。そのカマキリはどうなったと思う?もちろん潰れたわ。まるであなたそのものよね、滑稽だわ。アンドルフィン・クリスティアナ、三日月の魔法使いさん」
「誰?あなた」
クリスは突然した声の位置を探ろうとしたができなかった。
「私?名乗るほどのものじゃないわ。あぁ、そう。これだけは言わないとね。“裁定者”この名前を聞いてわからない、なんて言わないでよね?あなたも元は協会に属していた生粋の魔術師だったんだから」
「さ…“裁定者”‼なんでお前が…お前がここにいるんだ‼」
「女のくせに言葉遣いがなってないわよ?ちゃんとお淑やかにしとかないと」
「何の用で来たの‼」
クリスは声を荒げて聞いた。
「それはもちろん…あなたを殺すためよ」
裁定者は落ち着いた声で淡々と話した。
「じゃあ、話も終わりね」
裁定者の声が消える。クリスは辺りを見渡すが何もいない。
「こっちには数は少ないとはいえ能力のなるべく高い人形が30体もいるのよ。いくら裁定者とはいえそんな簡単に突破できるはずが…」
ドシャ
「な、何の音よ…」
クリスの足元に生暖かい感触。カマキリの死骸であった。
「そ、そんな…」
クリスは狼狽した。すると、
コツ…コツ…コツ…
後ろから足音がする。クリスは勢いよく振り向くが誰もいない。前を向くと
「こんばんはクリスティアナ。なんかホラーみたいでしょ?驚かせてごめんなさい。ってなわけで…グッナイ♪」
ズボッ‼
胸を貫く音。クリスは自分の心臓を掴まれていることがわかった。
「月石は使用者が使うと使用者の心臓に飲み込まれ疑似的な一体化をする。さぁ、三日月の月石ちゃんはどこかにゃ~?」
裁定者はクリスの心臓を弄繰り回す。クリスはあまりの痛みに悶絶。
(このまま何もせずに死ぬなんて許されない…せめてこの女に傷一つでも…いくら私に
力がなくたって身体強化の魔法ぐらいは使えるのよ‼)
クリスは右腕に魔力を集中させる。
(この女も私と同じように穴あきにしてやる…‼)
クリスが右腕を振り下ろそうとしたとき…
「無駄よ」
という一言と一緒にクリスの右腕が吹き飛んだ。
「!?!?!?」
クリスは動転した。裁定者の手を見ると心臓を鷲掴みしている。
「何が起こったか分からないようね。あなたの左胸から順に右半身をゆっくりとみてみなさい、そう。ゆっくりと」
クリスは言われた通りに見てみた。
「ガっ‼」
クリスは驚きのあまり出した用もない声を出した。左胸、心臓があった所から右腕の付け根まで抉られている。裁定者は心臓を掴んだ後、振り払うようにしてクリスの右腕をちぎったのだった。
「さぁ、永遠の眠りにつきなさい。クリスティアナ」
裁定者の一言の後、クリスは地面に崩れ落ちた。
「三日月の月石回収っと。あ~あ…血で汚れちゃったわね。あの2人にはばれないようにしないとね」
裁定者の顔に月の光が当たる。この世に2つとないほどの青く澄んだ瞳だった。
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