0-1)プロローグ
日が落ちようとしている。バスの車窓から見える空は、薄黄色とエメラルドと瑠璃色が見事に折り重なっている。遠くの家や木々たちはシルエットになっていて、空の高いところで星が光りはじめている。いつも見ていたはずの景色が違って見えるのは、急に日が短くなったせいだろう。
田んぼだらけの道を過ぎると、高層マンションが立ち並ぶ景色に変わる。開発中のこの地域には中心部にしか駅がない。陸の孤島と化している学校からは、下校時間になると大量のスクールバスが方々に散っていく。このバスもそのひとつで、一番利用者が多い。他のバスはせいぜい二つの駅にしか停まらないのに、このバスはひとつのバスで四つの駅に運ぶのである。
大量の乗客の半数以上はひとつ目の駅で降りていく。終点まで乗っているのは私と、となりで難しい顔をしているこの人くらいだろう。
「先生、わかりましたか、それ。」
先生はさっきから英語の問題集と格闘中である。
「それが…、わからないわけではないんだが、いまいち腑に落ちないんだよ。解説者がこう訳している意図がわからない…。」
「やっぱりそこ変ですよね。be動詞を因果構文っぽく訳すのはいいとして、あくまでbe動詞なんだからイコールを意識しないとおかしいですよね。完全に因果構文にしちゃうとその同時性がおかしくなるような…」
「そう、そこなんだよ。確かにこの文はSもCも名詞構文だから…」
「あっ、もう着きます」
「え…」
それは夏も過ぎ去った帰り道。
ここからふたりの恋がはじまっ…
「…それもうちょっと早く気づけなかった?この散らばった教材どうすればいいんだ?」
「…先生の作業が遅かったせいです。ほら、早くしないと。手伝いますから。」
「俺のせいかよ。おまえ途中で寝てたくせに。」
「気のせいですよ。」
「俺なんでこんな生徒の面倒見てんだろ…。」
「何か言いました?」
「いいえなんでも…!」
…た?
明るいようでどこか切ない、そんなふたりの恋を描きます。たまにギャグになるかもしれませんが、基本的にどこか闇を抱えているふたりなので、一気に暗い話になることが予想されます。そのコントラストなんかも楽しんでいただきたいです。