第8話 その声はいつか
「さて、奈都也君。入部してくれそうな人見つかったかしら?」
嬉々とした表情を浮かべながら彩葉さんは僕にそう問い掛ける。放課後の第三物理準備室。備品の棚に囲まれたこの場所が僕達『天体観測研究部』の部室だ。今、真ん中に置かれたテーブルを向かい合うように座りながら彩葉さんと会議中だ。議題はもちろん『新部員勧誘について』だなのだが、まるで良い案が思い浮かばない。
「彩葉さんすいません。今のところ……」
「どうやら私と同じ状況のようね。はぁ――。廃部決定まで残り二日。どうしたものかしら」
そう言いながら彼女はパックのコーヒー牛乳をストローを使って飲む。
「そのコーヒー牛乳八十円でしたっけ?」
「えっ、ええそうだけど。もしかして欲しいの?」
「い、いえそう言う訳では……」
「そう」
内心、俺も部室に来る途中に買っておけば良かったと後悔している。今から買いに行けない訳もないが……。
「彩葉さんちょっと自販機のところへいってきますね」
「えぇ、どうぞ。じゃあ五分間トイレ休憩ってことで」
「わかりました」
そして僕は部室を後にした。
***
階段を勢いよく降り一階へ到着する。目的の自販機はすぐそこだ。もちろん買うのは彩葉さんが買ったパックのコーヒー牛乳。財布から小銭を取りだし中へ入れる。昨日父さんが言ってた色の件を彼女に伝えようとも思ったのだが、いろいろ考えたあげくまだこの事は言えてない。
「緑色かぁ……」
そんなことを呟きながらゴトンと出てきたコーヒー牛乳を手に取る。
「緑色――。コーヒー牛乳――。あっ!?」
その時、ある人物の名前が思い浮かんだ。彼女なら部員になってくれそうな気がする。色に例えると緑色っぽいし。よし、彩葉さんに提案してみよう。
僕はまた三階に向けて走り出した。
***
「コーヒー牛乳買えたかしら?」
「はい。あぁ、それと彩葉さんに報告があります。実は一人部員になってくれそうな人がいます」
席に着くなり僕は彼女にさっき思い付いたことを伝えた。
「その言葉を待ってたわ。さて、誰かしら?」
「一年C組の緑谷詩織です。たしか今は図書委員をしてますが、部活の掛け持ちということも可能かなと思います」
「その子とはお知り合いなの?」
「知り合いと言うか中学の同級生です。面識はあります。たぶん今、図書室にいるはずです」
「さすが私が見込んだだけのことはあるわ。じゃあさっそく図書室に行ってみましょう。会議終わり!」
彼女の一言で二人だけの会議は終わり、僕達は図書室へと向かった。