#19 歌うようなこの感情
「流れ星……。だったかな、私があの時話した内容って」
彩葉さんは僕の目を見ながらそう言った。思い出話に花を咲かせたのも束の間、今僕と彼女はお互いの顔を見ながら座っている。ほどよい緊張感のせいなのか時々今、何を話しているのか忘れそうになる。
でも正直、楽しい。こんな感情は久しぶりだ。
「うん、そう流れ星。気長に待てばまた巡り会えるっていう話」
「ごめん、詳しい内容までは覚えてないかも」
彩葉さんはクスリと笑いながら一言そう言った。まぁ、昔の話だから仕方がないのだろうけどなんだか本当は忘れてなんてないような気がする。なんていうか子どもの頃に大切にしていたビー玉を机の引き出しの中にずっと入れていたような……。
「言葉って難しいよね。うまく表現したようで出来てないんだよ。伝えたいことはもう心のなかで決めているのにね」
彩葉さんは目を伏せながらそう言った。
「何か今、悩みごとでもあるの?」
「もうタクサンよ。仕事のことやら彼氏のことやら……。ねぇ、きいてくれる?」
「僕で良ければ。あっ、その前に今は別の話をしたいんだ。今言わないと後悔するかもしれないから」
「ーー。どうぞ。でも私もあなたもお付き合いしている人が……」
「僕と友達になってください!」
「ーーはい?」
彩葉さんは目を大きくしながらそう言った。我ながら大声とまではいかなかったが、勇気を出していった台詞だ。彼女の心に届いたかどうかはまだわからないが。
「もう友達じゃないの?」
「いや、違うんだ。正直、お付き合いしたいけど今はお互いの状況がそれを許さないし……。だからーー」
ーードン!
その時、彩葉さんはテーブルを叩いて立ち上がった。その迫力は見た目の可憐さとは真逆のものである。
「い、彩葉さんどうしたの……。ト、トイレ?」
「奈都也君、私ね中途半端なことは好きじゃないの。なら、お互いの相手に説明しないとね」
「お互いの相手に説明ってーー?」
「他に気になる人がいるってことよ」
「もしかして彩葉さんも僕のことが……」
「それを先に私に言わせるわけ?」
彩葉さんはまるでいたずらっ子のような視線を僕に向けてくる。彼女は僕の次の一言を待っている。
「い、彩葉さんーー。僕はあなたのことが……!」
彼女に続いて僕も席から立ち上がった。やっぱりお互いの胸の内をひたすら探り合うのではなく正直に伝えればいいのだ。心の内をまっすぐな気持ちでまっすぐな言葉にのせて。




