第4話 急ぎたいのに急げない
「――!?」
その時、僕は今の自分の心境を言葉として表すことができなかった。なぜこういう急いでいる時に限って近道のスタート地点が『工事中』になってるのだ……。横に立っている看板を見ると、どうやら『護岸補修工事』らしい。
『この先通れません』の黄色い看板が僕の前に立ち塞がる。残された希望は――残念ながらない。この時点をもって完全に遅刻だ。
「あら、お互い遅刻ね」
突然現れた声の主を探しながら僕は後ろを振り向く。そこにはあの四月の朝、今日は通れない『近道』で逢った女性がいた。
「あぁ、良かった。やっと会えた!」
その時、ついつい僕は自分の心境を口にするクセが出てしまった。
「いや、別に私はあなたに会いたいとは思ってなかったけど」
鋭い視線を僕に向けながら彼女は一言そう言う。それにしてもなんでこの人はまだ逢って二回目の僕に対してこんなにも冷たいのだ。そこら辺がとりあえずよくわからない。でも、ようやく会えた。この千載一遇の機会を逃したらきっと後悔する。そう考えた僕は勇気を出して聞いてみた。
「な、名前を教えてください!」
「えっ……」
彼女は僕のまるで奇襲とも言えるような問い掛けに一瞬動揺する様子を浮かべる。顔を見つめると照れてるのかとても赤い。
「な、夏宮彩葉だけど――。そ、それが何か?」
「あぁ、違う」
どうやら僕の予想は外れたようだ。彼女は僕の初恋相手ではなかった。名前が全然違う。
「ちょっと……。いきなり人の名前を聞いて違うってかなり失礼じゃない!?」
彩葉さんの顔がどんどん曇り怒りの表情へと変わっていく。たしかに今回は僕の方が悪い。『口は災いの元』ということわざ通りになってしまった。
「いや……。これには理由がありまして――」
そして僕は一生懸命、事の顛末を説明した。
「あなた――。もしかして星や天体に興味があるの?」
説明を終えた僕に対して不意に彩葉さんはそんなことを口にしてきた。
「昔――。好きでした」
「今は?」
「少し――好き。いや、興味があります」
「星や天体に対して少しでも興味があるのね?」
「はい」
「なら決まり!」
「はいっ!?」
あっけにとらわれる僕の視線を彼女の魅力的な瞳がふわりと包み込む。それにしても不思議なものだ。さっきはあんなに鋭い目付きをしていたのに。
「来て!」
「はいっ!?」
「今日の放課後、C号舎三階の奥の第三物理準備室に来て。はい、メモメモ!」
「わ、わかりました」
――しまった。どうやら僕は面倒な事に巻き込まれてしまったようだ。その時、僕は学校に遅刻の件をすっかり忘れていた。