#8 変わる瞬間、そして循環
大きな瞳にキリリとした眉。そして意志の強そうな話し方に然り気無い話の中に物事の確信をついた一言。髪型はライトブラウン色のロングヘアーに変わり桜色のメガネをかけてはいるが、間違いない。顔を上げて見た瞬間、僕の目の前に立っていたのは彩葉さんだった。
「あっ……」
彼女の姿を見た時、驚きよりも懐かしさの方が少し勝った。個人的には彼女の自宅での再会というのが一番良い流れだと思っていたのだが、こうなってしまっては仕方がない。
「僕のこと――。知ってますよね?」
「えぇ、もちろん。お互い少し歳はとったけど」
「さっき家に行ったんですよ」
「知ってる」
「えっ!?」
予期しない彼女からの言葉に驚く。まさかどこかから僕のことを見ていたとでもいうのだろうか……。
「駅前のロータリーですれ違ったのよ。あなたは気づいてはいなかったけどね。私も最初は直感でしかなかったけどその感じだ想いを信じてあなたの後ろをついてきたわけ」
「あぁ、そういうことだったんですか……」
偶然とはある意味おそろしいものだ。良いことだって悪いことだってある。しかし、なにわともあれこの機会を生かすことこそが先決だ。
「僕の家に手紙を出しましたよね。だから――」
「相席良いかしら?」
僕が話終わるのを待つのは嫌だというばかりに彼女は早口でそう言った。そんなところは正直学生時代となんにも変わっていない。
「どうぞ。もしよかったらコーヒーでもどうですか?」
「あなたのおごりならいいわよ」
「相変わらず――。ですね」
「その言葉、誉め言葉として受け取っておくわ。でもこうしてまた話すことができて良かった」
「それは――。同じです」
僕の方に運ばれたアイスコーヒーの氷が溶け出している。まだそんなに時間はたっていないのに。
アイスコーヒーが彩葉さんの元に運ばれてくるなり彼女はそれをストローを使わずに勢いよく飲み始めた。余程のどが渇いていたのだろう。なんとなくそんな感じだ。その前で僕はさっき注文したサンドイッチを頬張る。
落ち着く曲名のわからない店内ミュージック。
店員のお兄さんがカチャカチャと音をたてながら運ぶ食器類。
その全てが今この空間を形づくっていた。




