#7 そのままでいいから
結局、心に秘めた想いを果たせぬまま僕は朝来た道を戻る。連休なら彩葉さんも自宅にいるだろうという予想は残念ながら外れてしまったようだ。
さて、これからどうしよう。もちろんもう一回会いに行こうと思っているのだがさっきの決意はどこへやら。正直、心が揺らいでいる。
「どこかで……。軽食でも食べようか――」
少し歩いたからか少し空腹を覚えた僕はすぐ入れそうな喫茶店を探し始めた。ちょうど今の場所は商店街の入り口。なんだかさっきと比べて人通りが増えたような気がした。
***
――チャリン……。
僕が『ある店のドア』を開けた瞬間、呼び鈴がなった。どんな仕組みかはよくわからないがこれでお客さんが来たことは一目瞭然だろう。
それにしても初めて来る喫茶店だ。どことなくオシャレな雰囲気を醸し出している店内は何となく魅力的ですらある。
「いらっしゃいませ――」
少しすると奥から店員が一人出てきた。アゴに少しばかりの髭を生やした若めの青年だ。彼がこの店の経営者なのだろうか。それにしては少し頼りげない気もするが……。
ふと周りを見渡すとこの薄暗い店内には数人のお客さんがいる。各テーブルと細かく区切られた喫茶スペースのせいなのか、今この瞬間までその存在に気がつかなかった。
「――。サンドイッチとアイスコーヒーください」
「はい、暫くお待ちください」
髭を生やした店員はそう一言つぶやくと厨房の方へと消えていった。奥には料理を作る人がいるのだろう。暖簾の間からその姿がチラチラと見え隠れしている。
テーブルに置かれたコップに注がれた水を一口飲む。軽食を食べたあと、すぐ彩葉さんの家に行ってみようか、いやそれとも……。
いろいろとそんな考えを巡らす。明日には東京に帰るんだ、そんなに時間は残されていない。
「……。今、落ちましたよ?」
誰かに話しかけられる。
「えっ――」
その途端に振り向く。そこには一人の女性が立っていた。
「落ちましたよ、今、ボールペンが。どうぞ」
その女性がそう言った瞬間、なんのことか理解した。普段、僕はどこへ行くにしても手帳とボールペンを持ち歩いている。どうやら目をつぶって考え事をしている時に下に落ちたようだ。
「ありがとうございます」
そう一言、感謝の気持ちを添えて彼女が拾ってくれたボールペンを受け取ろうとした時だった。
「これ高校の卒業記念の……。それにこの藍色のシール……」
その女性はまじまじとボールペンを見つめながら驚いている。
「あぁ、もしかして同じ高校の卒業生ですか。偶然ですね」
「星は好きかしら?」
「好きですけど――。昔はよく天体観測とかしてましたね」
「土星をモチーフにしたキーホルダー」
「キーホルダー……。えっ!?」
「お待たせしました。アイスコーヒーとサンドイッチです――」
アゴに髭を生やした店員が注文した料理と飲み物を持ってきた。
でもそんなことはもうどうでもよくなっていた。




