#5 忘れたはずの想い
目的のものは父さんが言うように靴箱の上に置いてあった。葉書ではない、花柄の封筒に入った便箋のようだ。
――誰からだろう。
これは手紙を見たとき誰もが思い浮かべる言葉だろう。しかし裏を見ると差し出し人の名前は書かれていなかった。
封を丁寧に開けて折り畳まれた便箋を取り出す。外に出した瞬間、紙が光で透けて中の文字がうっすらと見えた。
何年ぶりなのだろう。
こんなにも緊張しながら手紙を見るのは。
***
「ふぅ――」
手紙を一読したあとなぜか僕は深呼吸をした。今の時刻は午前十時。まだ昼前だ。ゴールデンウィーク休暇は残り三日。帰省する前は帰って何をしよう、どうしようかとも考えていたが、どうやらやることができたようだ。
「手紙あったか?」
この声の主はもちろん父さんだ。手紙のことが気になって玄関まで来たのだろう。
「あったよ。少々埃っぽかったけど」
「玄関周りはあまり掃除をしていないからな。それにこの家は埃っぽいからな。あまり気にするな」
「べつに気にしてなんかいないよ。それと……。帰ったばかりでなんだか申し訳ないけどちょっと出掛けてくるよ」
「あぁ、自由にすればいいさ。ここはお前の家なんだし。どこへ行くんだ?」
「駅前マンション」
「そうか。気をつけていけよ」
「りょーかい、りょーかい」
父さんの声を肩で聞きながら僕は家を後にした。
***
僕が駅前マンションに行く理由。それは十年越しの答えを聞くためだ。もちろん過去と今とでは状況も生きる理由も違う。でもいつまでも過去に背を向ける訳にはいかない。
たくさんの人混みを縫うようにして前へ前へと進む。普段はこんなに賑わってないのに――。おそらくゴールデンウィーク中だからなのだろう。
もちろん今の僕には大切な人が別にいる。
彼女をこれ以上待たせる訳にはいかない。
だから、だからこそ――。
その時、僕の脳裏にあの『十年前の情景』が甦った。
それはこの大きな世界からしたら微々たるものだ。でも、いやだからこそ僕は向き合わなければならないのだった。




