#4 時間を灯して。そのアクセントは
「おかえり奈都也」
玄関のドアノブを開けようとした時、後ろからそんな声が聞こえた。もちろん知ってる声だ。むしろこの声のおかげでこの場所に立ってるのかもしれない。それにしてもまさか出掛けていたとは――。
予想外だ。
「父さん久しぶり……。朝帰り?」
何を喋ろうかなとあれこれ考えたがいざとなると思い浮かばないものだ。改めてそう思う。
「奈都也、俺ももう歳だ。朝帰りはきついぞ。これだよ、これ――」
そう言いながら父さんは右手に持った紙袋を強調する。
「コンビニ――?」
「ご名答。お前の朝御飯も入ってるぞ」
***
久しぶりの自分の家はまるで知らない空間のようだ。所々家具の位置も変わっておりそれが僕の気持ちの変化に拍車をかけている。
「自分の家だろ。まぁ、座れよ」
父さんは奥のソファーに座りながら僕にそう言ってくる。その手には今日の朝刊とおにぎり。こればかりは今も昔もたいして変わらない。
「父さん今日は仕事休みなの?」
「あぁ。なんたって連続連休だからな。だからこうしてソファーで何も考えずに過ごしてる」
「僕の部屋はあのまま?」
「もちろん。今日からでもこの家で暮らせるぞ。遠慮はするな」
「そう。でも仕事があるからなぁ」
カーテンから覗くひのひかりがとても眩しい。そして懐かしい。暖かい色だ。
「まぁ、朝ごはん食べろ。さすがに腹が減っているだろう」
父さんはニヤリと微笑みながらそう言った。
***
『その言葉』を聞いたのは僕が朝ごはんを食べ居間でウトウトとしていた時だった。
「――。手紙がきてたぞ」
父さんはテレビのチャンネルをコロコロ変えながら僕にそう言った。
「手紙――。ダイレクトメールとかじゃなくて?」
「あぁ。手書きのやつだ。届いたのは三日前だったかな。送り主は……。ごめん、忘れた。自分で確認してくれ」
「ん……?」
いったい誰からだろう。正直気になる。用事があるなら携帯にかけてくればいいのに。
「その手紙どこにあるの?」
「あぁ、たしか――。靴箱の上にある花瓶の横だ。言うの遅くなってすまんな」
「そう言うことは早く言ってよ」
僕は早足で玄関へと引き返した。




