第3話 翼なき衝動
少し遅い風呂を済ませた後、勉強もそこそこに僕は布団に横になった。頭を過るのはやっぱりあの件。
――四月に偶然『近道』で逢った女性がカバンに付けてたキーホルダー。
なぜそんなに気になるのかというと、あの土星をモチーフにしたキーホルダーを僕は知っているからだ。あれは小学生の頃、僕が淡い恋心を抱いた幼馴染みにプレゼントした大切なもの。たしか彼女は今、引っ越して青森にいるはずだ。またどこかへ引っ越してなければだが……。だからこそなんで昨日の朝、逢った女性がそれを持ってるのかがとても気になる。もちろん偶然の一致ということも考えられるけど。
「でも――。あれはたしか……。いや、今考えても仕方がないか」
そう呟きながら天井を見つめる。白い天井はもちろん何も答えてくれなかった。
***
「お~い、奈都也。学校に遅刻するぞ!」
そんな声で僕は目が覚めた。カーテンからは太陽の光が薄く薄く輝いている。机の上の置時計を確認すると今の時刻は午前八時すぎ。今から仕度をして走って学校に向かえばギリギリ間に合う。といったところか。もちろんあの『近道』を使うというのが絶対条件になるのだが。
「弁当、台所の机の上に置いとくからな。それじゃあ父さん、先に行くからな。あっそれと今日、父さんも母さんも遅くなるから適当に晩御飯食べといてな!」
「あぁ、わかった……」
重い重い瞼を必死に開けながら僕は父さんの言葉に答えた。
***
「あれっ――。ないっ!?」
腕時計を気にしながら必死にクローゼットの中を探す。制服の上着の右ポケットに入れていたあるものがないのだ。――『幸運の万年筆』が。
「おかしいな――。どこにいったんだ。じいちゃんからもらった大切なものなのに」
ここまで探してもないということはどこかに落としたのかもしれない。でも、どこに?
「あぁ――。寝坊といい朝から災難続きだ」
さすがに二日連続で遅刻というのはマズイ。ちなみに昨日も遅刻した。こんな状況が続けば生徒指導の先生にも目をつけられてしまう。
「よし、帰ってからまた探そう」
そう苦渋の決断をした後、僕は後ろ髪を引かれつつも家を後にした。






