#1 父さんからの電話
「奈都也、ゴールデンウィークは地元に帰ってくるのか?」
「いや、帰りたいけど――。難しいかも」
ケイタイから聴こえる父さんの声はどこか懐かしくてあぁ、そんな声だったなぁと感じてしまう。こうして父さんと話すのは果たして何ヵ月ぶりだろうか。
「どうだ、苦学してなることが出来た気象観測員の仕事は。慣れたか?」
「ハハッ……。まだまだ新人だから。上司に怒られてばっかりさ」
父さんの問いを軽く受け流す。たしかにこれまでの人生を思い返すといろんな感情が込み上げてくる。高校を卒業して早十年。今年俺は二十七歳になる。
空と星に関する仕事がしたくてそればかりを追いかけた十年だった。もちろんこの道を選んだことに後悔はない。
ただ一つを除いて。
「ずっと都会暮らしじゃあ疲れるだろう。たまには田舎の空気を吸ったらどうだ。それとも何か帰りたくない理由でもあるのか?」
――。今日の父さんはやけに粘る。ずいぶん前にかけてきた時はこんな様子ではなかったのに。
そんなに僕の顔が見たいのだろうか。
「明日も早いから。電話切るね」
そして僕は一方的に父さんからの電話を切った。
***
風呂から上がり一呼吸。飲みかけのアイスコーヒーを片手にソファーベッドに腰を沈める。毎日毎日気象観測データを計測する日々。これはこれでとてつもない充足感を感じてはいるが、やはりどうしても目が疲れてしまう。少しでも目への負担を減らせたらなと思いメガネを新調したのだが如何せん掛ける機会を逃してしまい未だにメガネケースに仕舞い込んだままになっている。
「……。みんなどうしてるかな」
テーブルに立て掛けた一枚の写真を見ながら僕はそうつぶやく。橘さんは同い年だから二十七歳。そして彩葉さんは二十八歳か。
正直、会いたい。
でも――。
今の僕にはその勇気がなかった。




