第36話 望瀬ヒカリノ岡公園~2007~
――時間とは過ぎ去るのが早いものである。
これは誰かが述べた言葉なのではなく、僕の経験則とも言える。例えば今この瞬間も明日には思い出へと変わっているのだろう。
別に寂しいとか、あのときに戻りたいなんて僕は思わない。ただ――。
***
「休憩終わり。行きましょうか!」
スティックキュウリを食べ終わった後、彩葉さんは僕の目を見ながらそう言った。腕時計を見るともうすぐ四時。冬の夜の訪れは予想以上に早くて僕の気持ちを慌てさせる。
「うん、そうしよう。この先にヒカリノ岡公園へと向かうバス停があるみたいだからとりあえずそこへ――。あっ待って!」
どうやら僕が話終わるのを彼女は待ってくれないようだ。
砂利道を抜けたその先には大きな道路が目の前いっぱいに広がっていた。さっきまでいた人気のない場所が嘘のようである。そして目の前には小さなバス停がある。僕達はとりあえずそこへと向かった。
「どうやら県道に出たようね。私達は無意識に近道をしてたみたい」
彩葉さんは右上に掲げられた大きな道路案内板を指差しながらそう呟く。そこには大きな字で『この先、五キロ望瀬駅』と書かれていた。
「本当だ……。ナイス判断でしたね!」
「そうだといいけど。もしかしたら駅前にバス停があったのかも」
「えっ――。あっ!」
バス停には詳しいバス経路図が貼ってある。それを見ただけで彩葉さんが言いたいことがすぐにわかった。
「とりあえず次のバスを待ちましょう。この先に望瀬ヒカリノ岡公園があるみたいだし」
次のバスが来るまで約三十分。僕と彩葉さんは少し硬いバス待ちのベンチに体をしずめた。
***
山あいの県道を僕達を乗せたバスが走る。右手には山。左手には山。これだけでもこの場所が山の奥なんだと痛いほどわかる。
「――。やっぱりエンジンがついた乗り物は歩くより速いわね」
「えぇ、本当にまったく……。その通りです」
ふと車内を見渡すと僕達の他に乗ってるのは野球帽を目深に被ったお爺さんが一人だけ。このあと誰かが乗ってくるのかとも思ったが――。結局、そのようなこともなくバスは僕達が目指す目的地『望瀬ヒカリノ岡公園』に到着した。
「なんだか……。空気が美味しいわね」
公園を少し歩いたその瞬間、彼女は一言そうつぶやく。それもそのはず、この公園はかなりの高台、いや山の山頂にある公園みたいで内心驚きである。どうりで道中、バスが螺旋階段のような坂道をクルクルと登らなければいけない訳である。
「この先にイルミネーションがあるんですか?」
「えぇ、そうなるわね。だってほらここからでもそのきらびやかさが分かるわよ」
「えっ――。あぁ、本当だ!」
彼女に言われてハッとなる。たしかに今いる僕達のその先には輝きに満ちた光景が広がっていた。
「奈都也君、ちょっといいかしら」
その途端、さっきまで微笑んでいた彩葉さんの表情が変わる。これは何やら真剣な話のようだ。
「はい、なんですか……」
「あの場所に行く前に私、あなたに言わなければならないことがあるの」
そう言いながら彩葉さんがグッと僕の方に体を寄せる。そして彼女は話し始めた。




