第35話 望みあるの世
お昼を迎えた望瀬駅周辺はまだ日中というのに閑散としていた。いや、正確に言うならば何もない。お店屋さんや民家すらない。
「……。奈都也君、お腹空いたんですけど」
暫しの沈黙の後にそう一言つぶやく彩葉さん。どうやら考えていたことは僕と同じらしい。
「と、とりあえず歩きますか。目的地の望瀬ヒカリノ岡公園はこの先ですし」
「――。それしか選択肢はないようね」
こうして二人は再び歩き出した。
***
二十分ほど歩いただろうか。アスファルトで舗装された道は早々に姿を消し砂利道とも土道とも言えないような道の上を進んでいく。もし今が真夏だったら――。おそらく二人とも汗だくになっていただろう。
「ここに来たのが真夏じゃなくて良かったわね」
「そうですね。ある意味冬場で良かったです」
望瀬駅に着いた辺りから天候がとてもよくなり空には雲ひとつない。気温も上昇しており冬というより小春日和である。
「ねぇ、道はこれであってるの?」
「あってるはずです……。僕の情報が正しければもうしばらく歩いたら県道にでるはずです。そこまでいけばバス停が――」
「あっ、あれ!」
不意に彼女は大声を出しながら遠くに見える電柱の辺りを指差す。そこには電柱に寄り添うようにしてお店のようなものがあった。
「奈都也君、きっとあれはお店よ。行ってみましょう!」
「あっ、彩葉さん待ってください……」
急に走り出した彼女を僕は追いかけた。
***
近づけば近づくほどどんなお店かが見えてくる。いや、あれは――。
「奈都也君、どうやらこれは無人販売所のようですね」
比較的小綺麗な小屋の中には大根やニンジンといった野菜がところ狭しと並んである。その作物が載った台の横に貯金箱みたいな物が置かれている。おそらく代金はこちらへということなのだろう。
「……。大根買いますか――」
「いや、私はあれがいいわ」
「こ、これは……」
「スティックキュウリよ。マヨネーズ付で三百円は安いわ」
まさかスティックキュウリが売られているとは。内心驚きである。そして僕達は横に置いてあったベンチで少し休憩をすることにした。




