第33話 駅ふわ
時間ばかりが気になる午前十一時。僕は駅前にいた。ここにいる理由。それはもちろん彩葉さんと望瀬町に行くためだ。冬を感じさせる冷たい風は僕の手を撫でるようにして吹きすさむ。その然り気無い環境に朧気な心境の変化を感じた僕はそっと手をポケットの中にいれた。
どうやら春はまだまだ先のようだ。
「おーい、オハヨ――!」
人混みを避けるようにして彩葉さんがこっちに向かってくる。白いロングスカートにファーがついたコートを着た彼女は一目見たところどこかの雪国から着た感じである。
「おはよう。今日はなんだか特別に寒いね」
「私もそう思う。とくに朝から吹いてるこの風なんとかならないかしら。せっかくセットした髪がぐちゃぐちゃになっちゃう」
若干イライラしながら彩葉さんはそう言う。なにかの香水なのかシャンプーなのかは分からないが彼女の髪からとても良い匂いがした。
「じゃあ――。さっそく行きましょうか?」
「うん、そうだね。行こう」
「エスコートをお願いしてもいいかしら?」
「あぁ、もちろんいいよ」
僕が彼女と出会ってからそんなに月日は経っていない。だからこそ今日という日を大切にしたかった。
***
切符売り場で二人分の乗車券を買い改札口を抜ける。そんなに大きくない駅のプラットホーム内はどこかひっそりとしていて近くを走る車の音がよく聴こえてくる。
「ねぇ、奈都也君。この線路ってどこまで続いているのかな?」
「えっ――」
予期せぬ質問にドキッとする。なぜなら彼女に言われるまでそんなことを考えたことがなかったからだ。もちろんこの線路は僕達がこれから向かう望瀬町にまで繋がっている。でも、その先は……。
「そ、空と同じでどこへでも繋がってるんじゃないのかな?」
「六十七点」
「えっ、なにが?」
「奈都也君の答え。もっとアッと驚くようなのを期待してたのにな」
「一応、天体観測と線路を掛けたつもりです……」
「いや、全然掛けてないような。でも合格にしといてあげるわ」
「それは――。なんかありがとうございます」
「話は変わるけどコーヒー買ってこようか。じっと待ってるのも暇だし」
「じゃあ――。お願いします」
「わかったわ。少し待っててね」
そう言いながら彼女は早歩きで少し遠くにある自販機へと向かっていった。
彩葉さんは時々、さっきのような感じで僕に対して思わせぶりのような質問をしてくる。彼女にその気がないとしてもだ。こんな感じで僕達が過ごすプラットホームでの時間が過ぎていった。




