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キミが見た星ノ空。僕が見た羅針盤  作者: 候岐禎簾
第四章 冬のイルミネーション
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第32話 深呼吸をして

 部室で思い思いのひとときを過ごした後、僕達は午後六時のチャイムを合図にして帰ることにした。橘さんはこの後、大切な用事があると言って走って帰っていったがいったいどんな用事なんだろうか……。


「すっかり寒くなっちゃったわね」

 橘さんが居なくなった瞬間を狙って彩葉さんがそう一言喋り出す。その目はガラス越しに見える窓の外の風景を見つめていた。


「そうですね。彩葉さんは冬は嫌いなんですか?」


「いいえ、むしろ四季の中でも冬が一番好きかも。夏の暑さだけはどうしても慣れないわね。だって毎年暑くなっていくから」

 橘さんは小さくため息をつきながら一言そう言った。たしかにここ近年の暑さは驚きすらある。その点、冬は外の寒ささえ気にしなければ夏よりも案外快適に過ごせる方かもしれない。


「冬と言えば石焼き芋をなぜか想像しちゃいます。コタツの中で暖まりながら食べるのって本当に至福の時ですよね!」


「あなたの家ってコタツがあるの?」


「えっ――。ありますけど」

 なぜか『コタツ』という言葉に反応した彩葉さん。何かコタツに思い出でもあるのだろうか……。


「コタツって暖かいの?」


「えぇ、それはもう。一度入ると外に出たくなくなりますよ!」


「そうなんだ――。実は私、コタツに入ったことないのよね」

 少し顔を赤らめながら彼女はそう言う。まさかあんなに素晴らしい伝統文化の結晶ともいえるコタツに入ったことがないなんて……。


「彩葉さんの家にコタツはないんですか?」


「私の家、全室に冷暖房があるからコタツが必要なかったのよ。でもあなたからコタツの事を聞いてるとなんだか俄然興味が湧いてきたかも」


「ホームセンターで安く売ってますよ」


「なら今度買いに行くから付いて来なさいよ」


「えっ――。まぁ、べつに良いですけど……」

 まさかコタツの件でこんなにも話が盛り上がるとは――。そんなことを考えながら僕は深呼吸をした。


「なんでこのタイミングで深呼吸?」


「えっ……。それは空気がおいしいからかな」


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